第9話 金色の色男

少女がフンす。と、胸を張り、どこか偉そうな者が座るであろうフカフカな、所謂、社長椅子に深々と腰を下ろした。


しかし、案の定というべきか、アルバート以外の魔物が訝しんでおり、警戒した面持ちで、少女を観察するように眺めていた。


少女はそれを鬱陶しいと思う反面、彼らが頼もしいとも感じた。

何故なら、このような状況、怪しまない方がおかしいのである。

あの紳士的なゾンビは優しいのだろう。さらに彼は強者であり、少女の強さも弱さも察した。その上で、認めてくれているのだと自惚れでなければ。と、先頭に付くが、少女は認識していた。


「ふむ……」

アルバートが口を開いた。

「色々と言いたいことがあるのだろうが、一先ず聞いてくれ」


「聞いてくれっつってもよぉ……ていうか痛いってぇの」

少女はまだ、小さいと言われたことを根に持っており、獣スーツに光線の先を当て続けていた。

少女は心の中で、彼のことをターゲットヒップ。と、呼ぶことに決めた。

「いや、強いのはわかった。だがな、せっかくこうやってでいられるんだ、こんな可愛い女子――女性をむざむざ戦場に送り出すのは道徳的にどうなんだよ」

少女は少し光線の数を減らした。

しかし、女子供を言い直した件に対しては、一発強いのを刺しておいた。


「……我らが道徳を説く事態というのもいかがなものだが。まぁ、言いたいことはわかる。それにお前――ガランが特に女性を守りたい性格だというのも理解している」

ガランテ=ルーバイン。それが彼の名前なのだと、アルバートが耳打ちをしてくれた。

「だが、某らがそれらを気にしていられる時というのは、遠に過ぎたのだ」


「でもよぉ――」


「それならば、某らが魔王殿の盾になれば良い、剣になれば良い。守るというのは、何も鎖で首を繋いでおくものではなかろう。違うか?


「ぐっ――」


ガランが狼狽している。

少女は首を傾げ、アルバートに尋ねる。


すると、アルバートがガランの逸話について話してくれる。

100年ほど前、今よりもまだ、正常な魔物と人が多かった時、彼は敵勢力の全ての女性を、一切血を流させることなく無力化した経歴があるのだ。と。

その時の逸話が、彼を、魔性の金色アウルムクピードと呼ばせ、仲間内では色男。と、呼ばれるようになっていた。


「色が霞んだか色男?貴様の色香は戦場でこそ発揮されるとばかり思っていたが?」


「……アルの旦那、その言い方はちとズルいっすよ」


頭を掻いていたガランのたてがみが金色に輝きだし、彼が頻りに少女に視線を送ってきた。


しかし、少女は頭にクエッションマークを浮かべるばかり。それどころか、視線が合うたびに、少女は満面の――向日葵が全て少女の方を向くのではないかと思うほど、太陽と形容出来る満面の笑顔をガランに返した。


「ぐはっ――」

ガランが突然吐血した。


「魔王殿に色目を使うでない」

ガランが血を吐いた後、アルバートがガランの後頭部を大剣の面で叩き、再度血を吐くのを見ていた。


「へ……へへへ」


壊れてしまったのだろうか?少女は顔を引攣らせた。


「……確かにアルの旦那の言う通りかもしれねぇ。俺っちの色がまったく通用しねぇ」

ガランが突然少女に跪いた。

少女は困惑するばかりである。

「それどころか、俺が血を吐くほど眩しい笑顔まで返してきやがる――可愛すぎだろ魔王ちゃん!」


少女は照れを隠すためなのか、いじらしく体を揺らした。

だが、それがトドメになったのか、ガランが鼻から血を射出した。


「忠誠を誓います!」


鼻から血を流している男に忠誠を誓われても困るのだが……と、少女は思ったが、認められて悪い気はしなかった。

故に少女はガランの手を取り、ぴょんぴょん飛び跳ねながら、笑顔を振りまいた。


その際、ガランが血を撒き散らしたのは言うまでもないだろう。


「……お主、そんなにチョロかったか?」


騒ぐ少女とガランを見つめながら、アルバートが苦笑いで呟いた。


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