第38話 俺が呼ばれた真実

 和田さんをマークしている異界の根源モンスターの目を逃れるため、彼は世界の法則を書き換えることができるエリアへ退避し、その際に自身が入っていた「天空王」に知性を与え、俺を導く知識も付与する。

 法則を書き換えることができるエリアで和田さんは、異界の根源モンスタークラスをゲーム内で倒せたプレイヤーをこの世界へ召喚し、異界の根源モンスターを倒してもらおうと考えた。


 「天空王」を通じてリベールが生贄になることを知った和田さんは、ゲームのリベールが最高難易度のモンスターであっても討伐していることを知っていた。そのため、リベールに白羽の矢が立ったわけだ。

 余談ではあるが、この世界にもゲームと同じ名前の人間が多数いたが、一部ゲームには存在するが、この世界には存在しない人間もいたそうだ。


 生贄になってはいたもののリベールはこの世界にも存在したので、和田さんはリベールをキャラクター化し、俺の精神を呼び寄せることにしたらしい。その際に俺がゲーム時代で親しかったプレイヤーについてもキャラクター化を行った。

 キャラクター化した人間には、それぞれキーワードが頭に浮かぶようにしたそうだ。しかし俺を召喚した時に、想定外の事態が起こってしまう。

 なんと俺の本体が転生してしまい、俺自身は和田さんの意図どおりリベールに精神が入ったまではよかったが、ゴルキチとリベールの精神がそれぞれ入れ替わってしまった。


 和田さんの予想ではあるが、ゴルキチ・リベール共に俺がゲームで扱っていたキャラクターだったためバグが発生し入れ替わりや俺の本体が転生してしまう事態になってしまったとのことだ。

 本来は、俺の精神がリベールに入り、リベールの精神はリベールに入ったままが想定していたありようだった。

 そして、キャラクター化した人物にはキーワードを与えていたため、ゴルキチの精神が移動したリュウが「D」を知っていたというわけだ。


 キーワードを持った人物は「天空王」、リュウ、しゅてるん、他三名いた。このうち「天空王」は「W」、リベールと同じメールアカウントで登録していたゴルキチに「D」を与えた。

 「天空王」に会える公算が高いリベールを呼んだわけだから「天空王」にキーワードを持たせたのは最もだ。

 ゴルキチはリベールと最も親しかったと和田さんが想定していたキャラクターで、情報を集めるだろうジルコニアにも出没していた。なので「D」を与えたそうだ。

 他の人物には全部「A」を教えていたとのことだ。和田さんの想定ではこれが最もキーワードを解ける確率が高いと思ったと俺に教えてくれた。


 俺は最後の「A」を聞く前に、たまたま発見してしまったが他にもキャラクター化した人物がいたというわけか。


「リベールたん、私がこんな回りくどいことをしたのは理由があるんだ」


 先ほど言っていた異界の根源モンスターが二体いるとか、その辺が関係するんだろうか。


「出てくるタイミングを見計らってたんですよね?」


 俺の確認に和田さんは大きく頷く。


「その通りだ。リベールたん。奴が気が付くまでは短くて十日しかない。ここまで回りくどいことをしたのは君に戦闘に慣れてもらってから会いたかったからだ」


「和田さんが機を見て出てくることもできたんじゃないですか? こんな回りくどいことをしなくても」


「私から、この世界に出てくると奴にすぐ気が付かれるんだ。だからこの世界から扉を開く手段を作ったのだ。最悪君がパスワードを解けなくても天空王に教えてあったしな。ククク......」


 和田さんの言わんとすることは分かった。「天空王」からパスワードを解くのはあくまで最終手段だ。保険としてはいいが、あくまで最悪を避ける手段。なぜなら、「天空王」にはこちらが戦えることを判断することができないからだ。


 だいたい和田さんの計画は分かって来た。異界とこの世界を繋ぐモンスターがいたために和田さんの精神が「天空王」の中に召喚されてしまった。元の世界へ戻るべく動いていた彼はこの世界が少しづつ滅亡へ向かっていることを知る。

 愛すべきゲームの世界に酷似したこの世界を救う手段が自分にはあった。その計画を実行するには、黒幕にマークされている自分では不可能だったため、俺を召喚し黒幕を倒す手段とした。


 いきなり生きるか死ぬかの世界に呼ばれてしまった俺にとっては不幸だったが、和田さんはリベールをキャラクター化し、戦闘用AIを俺が使えるようにすることで戦える手段を与えた。

 さらにキャラクター化することで、怪我してもしゃがむだけで治療し、試してないがゲームと同じであれば例え首を飛ばされようとも一定時間が経過すると復活すると思う。

 つまり、召喚者たる俺には精神的苦痛を与えるものの、死亡する事態は避けると最低限の配慮はしたというわけだ。


 俺の立場から見ると、「ふざけるな!」と投げてもおかしくないが、俺も少ない期間ではあるがこの世界を旅し、街で生きる人、リベールやジャッカル達を見て来た。俺が協力することでこの世界の衰退死を避けれるなら和田さんに協力したいと思っている。

 我ながらお人よしだけど、死ぬことは無いんだ。ここまで来たんだ。やってやろう。


「和田さん、一応確認なんですが、もしキャラクターが死亡した場合どうなるんですか?」


「安心して欲しい。ゲームと同じで一定時間経過後復帰する。ただし、十五分間動けないペナルティがあるが」


「なるほど。安心しました。復帰ポイントはどこになるんですか?」


「死亡した時点からある程度離れた安全な場所での復帰となるよ。ククク......」


「了解しました。和田さん。俺は和田さんに協力しますよ」


「リベールたん。本当にすまない。そしてありがとう。ありがとう」


 和田さんは感極まったのか、すさまじい唸り声をあげている。「天空王」の体でやるものだから、俺のスカートもめくれっぱなしだ。

 もう面倒で抑えることもやめたが、ゴルキチがスカートを抑えてきた......

 そこまで必死ならズボンにすればいいのに。


「君は何故、この時期に召喚されたか疑問に思うと考えていたが、理解しているようだね」


 俺がわざわざこの時期に呼ばれた理由は分かる。リベールと「天空王」を確実に出会わせるためだ。早すぎては逃亡するかもしれないし、街で陰謀に巻き込まれるかもしれない。遅すぎると俺が対応できる前に「火炎飛龍」と戦闘だ。


「その理由は何となく理解してるから大丈夫ですよ」


 俺の推測は恐らく間違ってはいないから、和田さんに詳しく聞かなくてもいいだろう。それよりは俺が何の相手をするのか聞いておきたい。黒幕のほうは予想がつくが......


「和田さん、今回倒すモンスターを教えてくれませんか?」


「ああ、まだ何者か言ってなかったな。黒幕たる存在はアビスデーモン、もう一体は暴帝だ」


 「アビスデーモン」か。「アビスデーモン」は異界のアビスという世界からやって来たという設定だ。「アビスデーモン」を頂点にアビス世界のモンスターがいくつかゲーム内に登場していた。こいつは予想どおりだ。

 狡猾で知性も高いということにも納得できる。強大な魔法も使うし、ゲームでは何かセリフをしゃべっていた気もする。


 もう一体は「暴帝」か。「暴帝」は太古の世界から転移してきたモンスターという設定だった。

 ゲーム内では特殊なイベントモンスターで、体力・攻撃力ともに他のモンスターとは隔絶した存在だった。モンスターとしては特殊な存在で、ゲームでは「レイドボス」と呼ばれ、一度受けたダメージが回復しない仕様だった。

 だから、ゲームプレイヤーたちは複数で何回も「暴帝」にアタックして体力を削っていくのだ。正直、「天空王」「アビスデーモン」「大海龍」なんかよりよっぽど厄介なモンスターだぞこいつは。


 順番に倒していけばいいのなら、俺一人でも対処はできるが......

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