第37話 異界と根源モンスター

「話が長くなるから、一旦ここで休憩しようか」


 和田さんは情報が一気に増えて混乱するであろう俺を気遣ってここで一旦言葉を止めた。

 ここまでの話で和田さんの計画の全貌は見えてこない。和田さんがこの世界にたまたま精神だけ呼ばれてしまい、調査の結果この世界の法則を書き換えるといった突拍子もないことをやってのけた。

 彼のやったことはただの世迷いごととは言えず、現に俺がこれまで戦ったモンスターは全て動作モーションで縛られていた。「天空王」は例外だったが。


 いや、「天空王」は和田さんが知性を与えたんじゃないか? これから説明されると思うが、和田さんは世界の法則を変更できるエリアにこれまで閉じこもっていて、外に出てこなかった。事情があってそうしたはずだ。

 後は、遠回りな「W」などの四つのキーワード。これにも理由があるに違いない。

 俺を呼んだのは、異界からモンスターを呼び寄せる元凶を倒してほしいということか。


 ゴルキチが馬車から飲み物とサンドイッチを持ってきてくれたので、ありがたくいただくことにする。


「食べながらでいいから聞いてくれ」


 和田さんはさらに説明を続ける。

 ゲーム内の俺を知っていた和田さんは、リベールへ俺の精神を運び、俺がいままで使用していたゲーム用のパソコンにあるデータ全てとゲームシステムを、リベールへ付与したそうだ。

 ゲームと関係ないデータはこの世界で使用できなかったため、全てごみデータとなってしまったらしい。


 このまま俺がリベールに成るだけでは、他の人間と同じように動作モーションをはじめとしたゲームシステムを使うことが出来ない。

 人間もモンスターと同じように動作モーションで縛ることもできたが、さらに事態が悪化することを恐れ、人間には動作モーションを適用しなかったということだ。

 そこで、リベール個人には動作モーションだけではなく、ゲーム内のキャラクターと同じように振る舞えるようゲームシステムを付与したそうだ。


 そのため、ゲームシステムを付与されたリベールは動作モーションが使えるだけでなく、俺のパソコンに入っていた戦闘用AIも全て使うことが出来た。弊害は、ゲームシステムを付与しゲーム内のキャラクターのようになってしまったリベールは代謝が止ったというわけだ。


「なるほど。和田さん。要はリベールの体はゲームのキャラクターに近い状態になっているということですか?」


 俺の確認に、和田さんは「そのとおり」と答える。


「リベールたん、もう実感してると思うが怪我しても自動で治療するだろう?」


 え、キャラクターだから怪我しても時間経過で回復するってことなのか! 今まで怪我したことないから気が付かなかった。

 ちなみに、ゲームで受けたダメージは座って時間が経つと自動で回復していく......


「今まで怪我したことないから気が付かなかったです」


「さすがリベールたんだ。これまで無傷で戦闘をこなしてきたわけか。ゲームと違い現実になるとリベールたんでも苦戦すると思ったんだがな」


 俺が普通に操作するなら、そら怪我したさ。しかし俺には恐怖などの感情は関係ない戦闘用AIがあった。だからこそだ。


「和田さんの話は見えてきました。異界のモンスターを倒すために俺を呼んだんですね」


「察しが良くて助かる。まだ疑問点はあるだろうから続きを話しよう」


 和田さんは異界からモンスターを呼びよせる能力を持った異界のモンスター二匹を滅ぼすべくゲームシステムをこの世界に組み込んだ。しかし相手も馬鹿ではない。この二匹は長いので異界の根源のモンスターと呼ぶことにする。

 異界の根源モンスターのうち一匹は高い知性を持っていて、自身の体に起こった変化――動作モーションが自身に付与されたことをすぐに察すと、最初は歓喜と共に受け入れていたようだ。


 これまでの自分の力を上回る全方位攻撃や強力な魔法を使えたからだ。しかし、異界の根源モンスターは次第に違和感を感じる。自分以外のモンスターも同じように力を増していたからだ。何者かの意図があることに気が付いたそのモンスターは自身を害そうとしている存在を発見する。

 つまり、和田さんはそのモンスターから逃れるために、この世界の狭間に隠れたそうなのだ。


「和田さん、天空王の体を使えば倒せるんじゃないですか? さらに天空王をリベールのようにキャラクター化してしまえば怪我も平気ですし」


「リベールたん、私は奴に気が付かれている。私と奴が対決するとなると奴は私の強さを知っている。奴自身だけなら何とでもなるだろうが......」


 なるほど! 奴にこちらが強大な存在だと知られてしまったのが和田さんが自身で突撃できない理由か。奴は異界の根源モンスター。ならば、なりふり構わず異界からモンスターを召喚しまくるだろう。

 そうなると、世界の破滅だ。和田さんがいくら強くても「天空王」一体だからな。


「それは、奴が召喚能力があるからですね」


「それもある。奴以外にもう一匹も厄介なんだ。自分と同じ異界の根源モンスターが必死に召喚を行っていることを知ったもう一匹はどうなるかね?」


「なるほど。同じようになりふり構わず召喚してくるでしょうね」


 それはやっかいだ。二匹いるから手が出せないのか。今は俺と和田さん二人いるから同時に討伐することも可能か。


「ククク......奴は狡猾だよ。ゲームの設定と同じく。奴ら異界の根源モンスターを二匹討伐した直後、私は世界の法則を書き換えるつもりだ」


「つまり、二度と根源モンスターがこの世界にやってこないようにするってことですか? 今からでもできそうですが」


「残念ながら、奴らがいる限り書き換えることはできない。先行者有利のようでね。ある意味奴らも異界とこの世界を繋ぐという法則を持ってるわけだ。先に書かれた根本を始末しなければ書き換えれない」


 和田さんの言うことはよくわからないが、とにかくその二匹のモンスターを倒せば、今後異界のモンスターが新しく出てくることが無くなるようだ。


「一つ疑問なんですが、現時点でも根源モンスターは異界のモンスターを呼び続けてるんじゃないですか?」


「確かに異界からモンスターを呼んではいるが、自身の快楽を優先するため年単位で数匹といったところだ。それでも数十年単位で見れば相当な数になる」


 短期的には影響がないが長期的に見れば世界の食物連鎖が盛大に乱れるだろうな。人じゃ倒せないみたいだし。よくこの状態でこの世界がもったな。実は結構終焉までの年数は近いのかもしれないが。

 この世界の「龍」が異界のモンスターと戦って数は減っていたのかもしれない。しかし、異界のモンスターは数に制限がないから、いずれ「龍」がいなくなり、人も滅亡といった事態になるのかも。

 俺が「火炎飛龍」らを倒したことは不味いことだったのか?


「リベールたん、君はここに来るまでいくつかのモンスターを倒して来たことだろうと思うが、気にする必要はない。人と龍は常に生活圏をかけて争っているからね」


 和田さんは俺の考えを正確に読んだようで、この世界の事情を説明してくれた。人が生活していくためには常に「龍」との対決があったというわけか。「龍」に滅ぼされた村もあったかもしれない。


「私が君に会うまで回りくどいことをしたことに疑問を感じているだろうが、これも今から説明しよう」

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