第二部 荒野の世紀末覇者編

第21話  モヒカン!

 「天空王」に降ろしてもらった場所はもちろん街道から離れている。上空から見る限り、海岸線沿いに街道があったのでそちらを目指してみようと思う。

 街道に出るまでおよそ半時間くらいだろうか。街道に出れば恐らく三日以内で港町ジルコニアに辿り着くことができるだろう。


 しかし港町ジルコニアか。ゲーム内最大の都市と名前が同じでこちらも港町か。ゲームではジルコニアスタートで様々なイベントがあった。

 これだけ大きな街ならゴルキチを見た人や、システムのことを知る人がいるかもしれない。


 俺とゴルキチはまず周辺に危険がないか念のためチェックをしつつ、デイノニクスに餌を与える。

 基本デイノニクスが警戒に当たってくれるので、俺たちは安心してくつろぐことができるのでありがたい。

 もしデイノニクスがいなければ、馬車も動かせないし周囲の警戒も怠ることができないから。

 正直夜盗に襲われでもしたら俺は一たまりもないんだ。ゴルキチがどこまで戦えるのか確かめておく必要があるなあ。


「ゴルキチ、これからのことを話す前に伝えておかないとダメなことがあるんだ」


 簡単なスープとストックのあるフランスパンのようなパンを並べているゴルキチに、俺は声をかける。


「ん、どんなことだ?」


 手を止めずにゴルキチが聞き返してくる。俺は念のため周囲に人がいないことを再度確認し、彼に向き合う。


「俺、対人は全くできない」


 正直に告白したのだが、ゴルキチは食事を準備する手が完全に止まり、俺を凝視している。驚き過ぎだろ......


「君の舞を見た後では信じられないが......」


「俺の技術はモンスターにしか使えない。武器を振るうことはできるけど、素人の域は出ないと思う」


 動作パターンどおりの動きならできるが、相手は人間だ。読みやすい動作パターンの攻撃は当たらないだろうし、駆け引きも俺にはできない。そうなるとまず対人では勝てないだろう。

 可能性があるとすれば、遠距離の正確な射撃か。ゲーム内でリベールは弓も魔法も使ったことがなかったが、幸いモーション自体は俺の脳内に存在する。ジルコニアに行ったら、弓を見繕おう。少しは役に立つと思う。


「そうか。私は一応武芸は習得している。最も、よくて中の上と言ったところだ」


「それくらいの腕があれば、何とかなりそうだよな。弓なら俺でも何とかなりそうだけど」


 俺は弓ならば正確な射撃が可能とゴルキチに伝える。


「弓が使えるなら、多少の夜盗でも相手ができるだろう。私は剣と盾を使う」


 ゴルキチは剣と盾を使うのか。これはゲーム内のゴルキチと似た形になる。どこまでリンクしてるのか分からないが、中身がリベールだが剣と盾なのか。

 ゴルキチは他にもクロスボウという弓の一種を扱っていた。これは世紀末な服装が好きだったゲーム内の俺を大変満足させる武器だったなあ。

 ヒャッハーと言いながらクロスボウを発射する。これほど楽しいゲームプレイは無かった。


「一つ気になったんだけど、ゴルキチになってから剣は振ったのか?」


 俺の言葉に微妙そうな顔をするゴルキチだったが、返して来た言葉は意外なものだった。


「実はな、この体になってから以前より上手く剣と盾が扱えるんだ。私より身体能力が高いんだろうな......」


 ゴルキチは暗い顔だが、結果的に以前より強くなるなら悪いことじゃないと思う。ただ一つ理解できないことがある。ゴルキチとリベールの体は一回りほどサイズが違う。

 リベールはもちろん自分の小柄な体で修行していたはずなんだけど、いきなり大きなゴルキチの体で以前より剣が上手く扱えるものなのだろうか。

 これはまるでゴルキチの肉体は、剣と盾を扱えるようになっていたのだと錯覚してしまう。

 まさかなー。


「まあ、ゴルキチ。以前より戦えるなら悪いことじゃない」


 俺はゴルキチの肩を叩き、ことさら明るく振る舞う。


「あ、ああ。あまり納得できていないが、悪いことではないな」


 ゴルキチも薄く微笑みを返してくれた。



◇◇◇◇◇



 食事を終えた俺たちは海岸沿いの街道に向けて馬車を走らせている。海に近いこの場所はまばらに背の低い木が生え、雑草が生い茂る荒野だった。

 荒野を海に向かって馬車を進めているというわけだ。


 俺は御者台に座るゴルキチの隣に腰をかけていた。


「ゴルキチ。街についたら二つのことを調べようと思う」


「一つは私を知る者がいないか調べるんだな?」


「ああ。そうだ。もう一つはベルセルクを知る人がいないか調べる」


 ベルセルクの言葉に苦い顔をするゴルキチ。俺が蜂蜜熊で修行している間、ゴルキチはベルセルクの情報を集めに街に行ってもらっていた。

 しかし、一切の情報を得ることができなかったのだ。その時のことを思い出し、彼は苦い顔をしているのだろう。


 俺がゴルキチにベルセルクと言ったのにはもちろん理由がある。ベルセルクはゲームであった職業で、この職業になれればスキル「バーサーク」を使うことができる。

 ゴルキチは「スキル」のことを知らなかった。彼の街ではたまたま「スキル」を知るものがいなかったのかもしれないけど、曲がりなりにも戦闘集団に属していたリベールが知らないとなると、「スキル」を知る者は居てもほんの僅かかもしれない。

 そうであるならば、「スキル」を知っているならゲームシステムのことを知る可能性が高いと見たんだ。どちらにしろゲームシステムのうち「スキル」を使える人と会話することはマイナスにはならないだろう。

 「天空王」曰く、動作パターン(ゲームシステム)を使える人間は俺しか知らないみたいだからな。「スキル」を使えるなら一部ではあるがゲームシステムを使えるということだ。


 そういうわけで、ゴルキチにも分かりやすいベルセルクの調査とした。ゲームシステムの調査と言っても意味が分からないからね。


「分かれて情報収集できるのならそうしたほうがいいと思うんだけど、どう思う?」


 ゴルキチの表情が曇ったままなので、話題を変えることにした。


「慣れないうちは一緒に行動したほうがいいかもしれないな。君はジルコニアが初めてだろう? 迷子になられても困る」


 子供じゃないんだから、迷子になんて......なるかもしれない。俺の世界と街の構造がまるきり違うだろうからな。似たような街であれば想像はつくかもしれないけど、完全に門外漢だ。

 からかうように言ってきたゴルキチだったが、実は的を得ていたのか!


「あ、ああ」


 俺は答えるのが恥ずかしくなり、うつむいてしまう。


「あ、ああ、すまない。まさか君が方向音痴だったとは」


 謎の勘違いをしてゴルキチは謝罪してくれたが、何か納得いかない俺は彼の肩を二度ほどポカポカ叩いておいた。


 その時デイノニクスが突然そわそわし始める! どうやら何かがこちらに接近しているようだ。



 警戒しながら待つこと数分。土煙を上げながら迫る二つの影。デイノニクスよりも大型だがのっぺりとした竜を駆る二人のモヒカンが見えてきた。

 二人とも鮮やかな赤色のモヒカンに袖の無い鋲の入ったレザージャケットを裸の上半身に着込み、同じく鋲の入った黒いレザーズボンを履いている。


 どこかで見たような、世紀末な雰囲気の二人はこちらを発見すると大声で叫ぶ。


「紅亀が出た!」

「紅亀が出た! 注意しろ!」


 彼らは減速せずそのまま、俺たちを通り過ぎて行く。何やら急ぐ用事でもあるらしい。


 紅亀か。紅亀ならば自動操作モードで戦えるから倒すのは容易だ。


「ゴルキチ。俺たちの旅の資金はどんなもんだ?」


「それほどあるわけではない。まさか君は」


 ゴルキチも俺の意図に気が付いたようだ。ゲーム内の紅亀素材は高く売れたんだよな。ここらで一発お金稼ぎをしとこうじゃないか。

 ニヤりと悪い笑みを浮かべた俺は、ゴルキチに街道に向けて馬車を走らせるよう頼むのだった。

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