第42話 入隊試験-14

「妹としての私は、神代栄太を罰する必要はないと考えている。しかし、私にも王族としての立場がある。民は今でも兄様を慕っている。無能な私に従うのも兄様の妹であるが故だ。兄様の力の象徴であったデアの簒奪。これを見過ごすわけにはいかない」

「て、言われてもな……。まさかとは思うが、民衆は俺が公開処刑されることを望んでいるわけじゃないよな」

「シュルーク様の人気は凄まじいものがありましたから、妄信的な人物ならば主様の寝首を掻きにくるやもしれません」

「冗談だよな?」

「家臣の大半は神代栄太を快く思ってはいないだろうな。夜は無暗に出歩かないほうが無難であろう」

 物騒な所だな。一刻も早くお暇させて頂きたい。


「ご安心を主様、老若男女問わず、仇名すものは全て返り討ちにいたしますので」

 アワイならやりかねないところが怖い。

「もし、民に手を出せば私が神代栄太を地の果てまで追いつめて惨たらしく処理するがな」

「さすがに国一つを敵に回したのでは分が悪いやもしれませんね。しかし、私の存在の一欠けらでも残る内は必ずお守り致しますのでご安心下さいませ」

 

 バリーク対栄太さん一行。対応を間違えるとそんな大事になってしまうわけか。どうしたものかな。

「そんな神妙な顔をして、お前も転生者であろう。そんなに恐れを抱くことでもないだろうに、転生者が本気になればこんな小国転覆させることだってできるだろう?」

「転生者って、そんなにすごいのか?」

「ああ、なにせ兄様を打ち負かすくらいだからな」

「ヒラール姫、その話は禁句でございます!」

 急にアワイが声を荒げた。


「もしかして、話してはいないのか? デア、そなたは休眠する前、怒り狂って数名の転生者を奇襲したな」

「あの時の私はどうかしておりました。内に生じた怒りという感情をうまく制御できず、お恥ずかしい話です」

 アワイが俯いて、下唇を噛みしめている。

「バリークは水の悪魔を飼っている。そんな噂が広がってしまい方々に手を回して沈静化に向けて動いたわけだが、結果としていくつかの水源を失うことになってしまった」

「謝罪をしてもしきれません。結果的に、シュルーク様の守りたかっものを失うことになっていまったわけでございますから……民に恨まれても仕方がないことにございます」

「勘違いをするな。民はデアのことを恨んではいない。それどころか、兄様の敵討ちに身を投じた水妖として崇められている。吟遊詩人などが慈愛に満ちた悲恋の歌として流布している。昨今では観光目的でバリークに訪れて者まで出てくるくらいだ」


「アワイは、亡き王子の相棒として人気があるわけだな。つまるところ、俺とアワイが釣り合っていないのが問題なわけだ」

「謙遜はよせ。お前も転生者であろう。家臣の話では火竜をも使役しているらしいではないか。二柱も使役するなど、もはや神の御業」

「俺は転生者じゃないぞ。少し体丈夫なだけの求職者だ。ガブのことにしたって別に使役しているわけじゃない。一時的に保護しているだけだ」

「きゅうしょくしゃ? デアよ、神代栄太は転生者ではないのか?」

「主様は、転生者ではありません」

 アワイが断言する。嘘はついてないけど転移者だって補足説明しといたほうがいいのだろうか。

「……なら、手はある。神代栄太よ。国王軍の入隊試験を受けよ。そして、己がデアに相応しい人物であること証明してみせよ」


「はい?」

 ヒラール姫が握手を求めてきた。この手を取れば厄介なことになりそうだ。だけど、スルーしたらもっとヤバい状況に陥りそうだ。

 有無も言わせず投獄。拷問された後、公開処刑。アワイは狂ってバリークは水没。ガブは、野生化し、お腹をすかして民家を襲う。そして、駆除される。

 最悪のバットエンドだ。それだけは回避しなければならない。

「結果はわかりませんが、とりあえず受けてみます」

 ヒラール姫と握手をかわす。

「これで我々の間には約定が交わされた。万が一にも入隊が叶わなかった時には極刑だ。私もできればそんなことはしたくない。全力で励んでほしい」

 何か意思疎通に齟齬があるような気がするな。まあ、アワイがいれば何とかなるだろう。

 

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無職が始める異世界争乱記 六輝ガラン @keyroleworld

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