第19話  異世界求職者-15

「……デアダクリ?」

 彼女は苦悶の表情を浮かべている。右手に携えた矢が黒く輝いている。

「……傷の……具合はどうで……ござい……ますか?」

 息も絶え絶えでとても苦しそうだ。

 原因である黒矢を取り除かなければ彼女が消滅してしまいそうだ。

「俺はどうするればいい?」

「…そんな心配そうな顔をしないで下さいませ。思っていたよりも強い呪が付与されていただけのことにございます……」

「全然平気そうに見えないぞ」

 平素を装っているが相当に消耗しているようにみえる。

「その矢が原因なんだろう?」

 弱々しくデアダクリが頷いた。

「早くそいつを手放せよ」

「それは、承諾しかねます!」

 両手で矢を掴み、守るように抱きかかえた。

「どうして」

「……これには暗黒神プルートー様の力が込められています。何重にも偽装が施され、特定の条件下で真価を発揮するように術式が組まれていたようでございます」

「暗黒神?」

「我が父神メルクリウスと同格。二世代神が一柱にございます。彼の神が関与しているとなると事態は深刻にございます」

「話についていけないんだが……」

「名残惜しいですが、そろそろ時間切れのようにございます」

 デアダクリが淡く笑った。

「おい、何をする気だ!」

「我が根源に誓いアナタ様をお守り致します」

 まさに泣きっ面に蜂。デアダクリが見据える先にあるのは無数の矢。

 黒い尾をひきながらこちらに向かってくる絶望。力尽きて、地面に倒れ込んだ彼女を水越しにただ見やることしかできない。

 俺を覆っている半径2m弱の水球に体当たりしても衝撃が吸収されてしまう。だから、突破はかなわない。

 翌々見れば、四つの水流が互い違い水球を覆っている。おそらく彼女は最後の力を振り絞ってこの結界をつくりだしたのだろう。

 

 

 どうして主でも家族でもない俺のためにそこまでのことができるんだ。

 合理的に考えれば得体の知れない人外のことなど信頼するべきではないのだ。早々にこの水檻から抜け出して、遠くに逃げるべきだ。

 少し前までは俺のことを仇敵とか呼んでいたくせに……。態度を急変させて命に代えても俺を守るとか意味がわからない。

 彼女は俺を仇として害そうとした。俺は降りかかる火の粉を振り払うため彼女を殺そうとしていた。俺達はそんな関係だったはずだ。


 でも、今の献身的な彼女の姿が本質なんだとしたら……。人として俺が取るべき行動は一つだ。

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