1-2:横須賀、出航

第五話:技術のゆりかご(前編)

翌朝、六時半頃。

「ふぁぁ~……」

起床した吹野 深雪は一際大きな欠伸をかき、眠気でショボショボする目を袖で拭った。

「…………」

しばし無言のままボーっとした後、

「やるか……」

そうぼやきながらも長く伸びた黒髪を手早く後頭部で束ね、手に取ったタブレット端末を操作し始めた。

Word、Powerpoint等のアプリケーションをいくつか起動し、

「これ、これ、これ……あー、これも……これはいらない、これ……あとこれ……」

言いながら、本日午後一時に開かれる会見に必要なファイルと不必要なファイルとを分けていた。

すでに大半の資料データは編集、記録されている。とは言っても、設計データや製作時の記録等の開発データはあっても運用データは皆無だった。

「…………」

それもそのはず、昨日の戦闘における試作三号機の起動が実質初飛行であり初陣だったのだ。おまけにできるはずがなかった人型形態からの変形をやってのける等、多数のイレギュラーも発生している。

おまけに、騒乱のせいでそれどころではなかったというのもあるが、初起動かつ初陣にも関わらず肝心のデータは取っていなかった。

「あれ、使えるかしら……」

データ取りが大変と考えたその一瞬、ふと思い付いた、というか思い出したものがあった。

「……艦長に聞いてみるか」

そう呟いた深雪は、端末から艦長室に通信を入れた。


数時間後。

一二五五、信濃 艦内食堂にて。

「あら?」

桂木 優里が入室すると、

「うーん……」

そこでは有本 僚がテーブルに置かれているタブレット端末の画面を覗きながら唸っていた。

その彼と対面しているのはクラリッサ・能美・ドラグノフ。彼女も彼女で何やら顔に苦労の二文字が書いてあるかの如き苦笑いを浮かべていた。

何事かと思い話しかけようという時に、クラリッサが僚に一言。

「もう少し全体を見渡さないとダメですよ」

「それは、わかってるけどさ……」

「…………?」

返しも含め何かのゲームのことだろうか、とは思ったが、結局何のことかわからずテーブルに置かれた二人で画面を操作している端末の画面を覗いてみる。

「あー……」

その画面ではチェスのゲームをやっていた。

ちなみに戦況はというと、白=僚が圧倒的に負けていた。

黒=クラリッサの陣営はポーンを数騎取られた以外は特に損害が無かったのに対し、白の陣営はほぼほぼの駒が取られ、キングとポーン一騎の計二騎しか残っていない。というか一体どういうプレイングをしたらこんな状況になるのか……。

「単騎での戦闘能力は高くても、指揮能力が低いのでは……」

「わかってはいるんだけどなぁ……」

「有本君、チェス苦手なんですね……」

二人の会話の隣でぼやいたところで漸く二人が優里の存在に気が付く。

状況を説明してもらうと、隊長になると聞いたクラリッサが僚にチェスで勝負を誘った様だった。

それで僚が深雪から借りていたタブレットに丁度チェスのアプリケーションが入っていた為そのまま使用してやっていたという訳らしい。

ついでに、クラリッサの居た幼年学校では戦術座学の一環でチェスをやっていたらしい。

故にまずチェスで腕試しというつもりだったのだろうが、この様というわけなのだろう。

それにしても、と優里が口を開く。

「まぁ、あの子のことだから、なんとなく察してましたけどね」

「それはまぁ、そうですね……」

付き合い長いんだな、と思いながらもなんとなくだが納得する僚。

「まさか有本君が真に受けるとは思っていませんでしたけど」

「今朝たくさんの書類を持ってきてましたからね」

「書類、ですか?」

「えぇ。

特別卒業許可届とか階級特別待遇届とか、その他にも色々」

「あの子よっぽど貴方のことを気に入ってるみたいね……」

色々呆れる二人。そこにふとクラリッサが問いかけた。

「それにしても、僚ってどうしてあそこまで戦えたのですか?」

「え?」

そういえば、そもそもの話である。一般人の彼がなぜ機密の最新兵器、というか公開されることなく欠陥機のまま廃棄の時を迎えるところだったかもしれない代物を使いこなせたのか。性能が良かった、では済まされないその件について。

「何でって……」

僚はあたかも「そういえば」という様に、いや、本人ですら無意識に「そういえばそうだった」という様に応えた。

「なんとなくだけど、昔やってたテレビゲームに操作が似てたんだ」

これを聞いて思わず、

「て、てれびげぇむ?」

「テレビゲームって、何の?」

二人して少々意味はことなるだろうが意外という反応を示した。

ちなみに優里はゲームと聞いて、一瞬だけ携帯型のゲームを思い浮かべたのだが、

「大きい球体みたいなやつで、中に入ると丁度コクピットみたいになってたんです。

それでその操作した感じがあの機体に似ていたイメージがあります」

そう付け加えられた僚の一言で、ゲームセンターにある様な大型のものを想像することができた。

「引金を引くのとかの操作だけじゃない、レバーの配置とかもだいたい同じでしたね……まぁ、モードシフトレバーはさすがにありませんでしたけど」

それを聞いた瞬間、聞いていた内容に一から順に整理した優里の脳内にて疑問に思ったことが一つ。

「有本君、もしかしてそれテレビゲームじゃなくて軍用のシュミレーターじゃ」

それを打ち消す様に

「へぇ、『てれびげぇむ』とはすごいシュミレーションマシンなんですね。

今度機会があったらやってみたいです」

そんなことを言い出すクラリッサ。

「クラリッサさん、何か誤解してませんか?

いや、間違ってはいません。

間違ってはいませんけど……」

その時、

「有本君、そろそろ時間だぜ」

菊地 武彦の声が聞こえる。入り口側へと振り向くと、丁度武彦が絆像を連れて入室するところだった。

「あ……そういえばそうでしたね」

応えた僚は食堂に唯一存在するテレビの電源を入れた。

丁度開いたチャンネルではニュース番組をやっている。

「あーそういえば今の時間でしたね」

「はい」

優里が確認し、僚がそれに頷いた。

「え……何が、ですか?」

「零についての査問会議です」

受け答えている間に『続きまして、速報です』と画面の中のアナウンサーが話題を切り替えていた。

「……僕、行かなくて良かったんですかね」

「余計なことに巻き込まれたくはないだろう」

ふと呟く僚だったが、その隣に座った絆像に返される。

「一応当事者なんですけど……」

「良いって良いって、気にすんな」

「あっ、はい」

そんなこんなで、画面の中で会見が始まった。


その頃、横須賀市国防海軍本部 第一会議室。

深雪はそこで、急遽開かれた査問会を兼ねた会見に参加していた。

理由は当然ながら、零式TOKM艦上戦闘機についてである。

「戦闘機の姿で敵地に向かい、爆撃等の空襲で制空権を獲得。

その後人型の姿に変型し、敵地を制圧する。

その様なコンセプトで、私わたしはこの機体を開発することになりました」

公的な場、ということもあり深雪のいつもの口調は鳴りを潜めている。

「元々は可変機構を応用し、“戦闘機形態”と“兵士形態”とを使い分けた三次元的かつ変幻自在な戦闘を可能な機体を目指そうとしていましたが、技術不足が祟り、事実上不可能でした……いえ、そもそも必要性が無く優先順位が低いと判断し、これについてはなしとしていました。

その優位性を証明する術が、我々には無かったからです」

へりくだる様な言い方をしたが、実際そうだった。既存のシュミレーターでは肝心の変形が空中分解という判定と化してしまっていたのだ。それが仇となりロクな資金援助もなく廃品をかき集め自身の給料や中将を始めとする数少ない協力者からの資金をつぎ込むこととなっていたのだ。それで十三機は今となってはさすがに作りすぎたとは思うが、当時の自分は躍起になっていたのだろう、と思うことにした。

実際、悔しかった。

だが、

「ですが先日ここ、横須賀の地にて起きた騒乱に於いて、その優位性は証明されました」

ここでやっと、枯れかけのけっかが芽吹いてくれた。

とでもいうやつが、小さな蕾を花へと変えたのだ。

「有本 僚───今流れている映像に映る零式TOKM艦上戦闘機 試作型三号機のパイロットです。

彼の存在が、それを証明してくれました」

彼女の背後にあるスクリーン。そこには、昨日の戦闘に於ける試作三号機の勇姿が映されていた。

それは、横須賀の各地にあった防犯監視カメラなどに映ったそれを集められるだけ集めたうちの一つだ。

「彼は『空中後転の遠心力で機体フレームの連結を強制的に解除し、その後、機体の各所に搭載された推進器の推力を生かして連結が解除された機体フレームを再度噛み合わせる』という方法を用いて、空中での単独変形を成功させました。

彼の操縦技術により、この機体は本来私が求めていた性能を発揮したと言えます」

そう言った、その時、

「一つ質問、よろしいですか?」

そう言って、記者席に座っていた白髪頭の男性が立ち上がった。

「……は?」

いきなりのことにポカンとし、尚且つ素の口調になってしまう深雪。

質問を許可した訳でもないのに、という以前に、だ。その人物は国防軍の制服を着ていたのだ。

なぜ軍人が記者用の席に座っているのか、まずそこに突っ込みたかったところで、彼は聞かれた訳でもないのにも関わらず自分から名乗りをあげた。

「第一遊撃部隊 所属艦艇 祥鳳 航空隊所属の庄屋です」

それを聞いたまわりの記者達が「第一遊撃部隊?」「そんな部隊あったか?」などと騒ぎ始めていた中、

「第一遊撃部隊 所属───!!?」

その一言で、深雪は戸惑う。いや、その場にいたほぼ全員が戸惑ってこそいたが、深雪の場合は別の意味で困惑していた。

『第一遊撃部隊』は、そもそもマスコミにすらあまり知られていない存在なのも事実だが、それについては別にしたところで現在ソマリアへ遠征中のはずだ。

中破して離脱したとされる戦艦 摩耶と、その護衛艦達だけ帰ってきていたが。先程の彼の所属によれば祥鳳は軽空母。空母が帰港かえってきたなど聞いていない。

「はい。

働きすぎだからと、摩耶と共に日本に帰ってしばらく休む様に隊長に命令されてしまいまして、今こうしています。

全く不甲斐ないですが、それがしは休むことが苦手な様でしてね」

軽口を挟みながらそう言った庄屋という男性。階級章を見たところ、彼は航空兵科の兵長の様だ。

「質問の前に、少し話させて貰ってよろしいですか?」

「え、えぇ……どうぞ……」

その不思議な雰囲気、というか彼のまわりを全く気にしない超展開力に気圧されながら、深雪は彼の主張に主導権を譲った。


長かった為詳細な内容は割愛するが、庄屋 優の話は、要約するとこういう内容だった。


休日で観艦式を見に行くことにした。

だが横須賀に行く途中にて、騒乱の為に電車が止まってしまう。

仕方がないのとスクープの予感との両挟みの感情で歩いて向かうと、途中で空から奇妙な装備をした戦闘機が自分のいる辺りに向かってくるのに気がついた。

それが途端に騎甲戦車の様な人型の形態に変形し、自分の上を通り抜け、着地をした、という。

聞いた途端に深雪はだいたいあの日のどのタイミングかは理解していた。

試作三号機が不時着したタイミングが一度だけあったからだ。

そこから先は、聞いてるだけで疲れてしまう程の称賛で、彼が熱烈に語ること約二十分。


本題はそこから動き出した。



「単刀直入に聞かせていただきます。

この機体は騎甲戦車ではないのですか?」

そう問い掛ける庄屋。その質問に記者一同は両手のメモとペンを構え鋭い眼光を深雪に向けた。

庄屋の熱烈過ぎた零へのファンコールに萎えていた者もいればロボ好きの子供がこの手の話を聞くときの様な無垢な笑みを浮かべる者もいた状況から一転してのこれである。

皆仕事に対しマメだな、等と思いつつも、

「何度も言う様ですけど、これは騎甲戦車とは違います。

内部フレームも全体的に複雑過ぎるので、似ても似つきません」

それでもなお、深雪は圧されることなくそう答える。

「では、貴女……ひいては、日本独自の兵器だ、と?」

「そうです」

そこまで来て、記者達が騒然とする。

何、人型ということは騎甲戦車ではないのか!!?

察してはいたが、そんな疑問すら聞こえてきていた。

「では、なんと名付けますか?」

そこに、庄屋からそう尋ねられた。

「名付け……?」

あまりに突然過ぎて思わず聞き返す深雪。

「この兵器のカテゴリ名です。

貴女自身もわかってはいるでしょうが騎甲戦車ではないにしろ、戦闘機どころか航空機というカテゴリにすら、その機体を入れるのは難しいでしょう。

ならば、新たなカテゴリを設けるべきです」

「……カテゴリ、か」

少し間を空けて呟きつつ、考える。

実際、これを聞かれるとは思っていなかったからだ。

「強いて名付けるなら……」

ホワイトボードに書かれた

『人型に変形する可変機』『空挺機動翼』『高等な戦術に対応した』『騎兵型の形態』

の四文に下線を引く。

そして、その中の三文字『空』『戦』『騎』を円で囲った。

「……『空戦騎くうせんき』」

「……?」

「これでいっか」

そうして、

「正式名称『空挺機動高等戦術対応騎兵型可変戦闘機』。

その略称として、『空戦騎』と命名します」

そう高らかに宣言した。

記者達の席からも「おぉ!」と歓声が上がる。

そこまで話が進んだ辺りだった。

何者かが会場に入ってきたのは。


その頃。信濃 艦内食堂。

「ん、なんだ?」

テレビ中継されている会見の途中でいきなり何人かが押し入っていた。

一人はわざとらしいグラサンを着けた白衣の女性であと二人宇宙服に似た印象のスーツを着ていた。

その光景を目の当たりにしたクラリッサが

「サーシャ!?エレナ!!?」

飛び上がりながら叫んだ。

突然向かいから大声が響き驚く僚だったが、どうやら彼女はそれ以上に驚愕している様だった。

「なんで!!?

二人とも何してんの!!?」

突然慌て始めるクラリッサ。

「え、知り合い?」

「───ッ!!!!」

僚が尋ねてみると急に顔を真っ赤にして

「何でも、ありません……」

そういって彼女は急に俯いた。

「……あれ?」

気がつけば、テレビの番組がいつの間にかボートが浮かぶ湖の映像に変わっていた。


記者達が「なんだ一体!!?」等と騒ぎ始めたところで、扉が開いた。

「───チッ!!」

開いた扉から入室した者達の姿を確認した深雪は、その直後に間髪入れずに舌打ちをする。

「嗅ぎ付けて来やがったか……」

マイクに声が入らない様にしつつ、吐き捨てる様に呟く深雪。

「しかも護衛まで連れてきてるし……」

その者達は入室してきた者達だけで三人、そのうちの一人は女性だった。自身の腰の辺りまで伸ばした長い髪と纏う白衣が、彼女が一歩踏み出すと同時に揺れる。

体型からして恐らく女性だろう後の二人も、フルフェイスのヘルメットを被りフェイスガードをしっかり閉めていた為詳しい容姿がわからない。二人の服装は、ヘルメットを含め恐らく騎甲戦車パイロット用のパイロットスーツ。

そして、その者達は皆『TC』と書かれた紋章(バッジ)を服の胸元に付けていた。

「我々は、───」

先頭に立つ白衣の女性が名乗ろうとしたその時、

「……TCテクノ・クレイドル

深雪が割り込む。

「発展途上国を含む世界中の至る所に支部を持ち、最新技術を発見次第その技術を確保・保存する非政府NPO組織」

「御名答、と言うにはアレですが……大体はご理解されている様ですね」

女性がポーカーフェイスを貫き通しながら「吹野 深雪さん」と呼ぶ。言い方からして話を振りたいのだろう、と察した深雪は『ある事』を警戒しながら、

「……なんの御用でしょうか?」

と、自身ではポーカーフェイスを保っているつもりで実際のところ滅茶苦茶殺気立っている口調と表情で問い掛けた。

「何が御用か……既にお分かりいただけているとは思いますが、お答えしましょう」

道化師の様な口調で、女性は深雪に手を差し出しながら答えた。

「零式TOKM艦上戦闘機の設計データ、及びその設計技術を我々に渡して頂きたいのです」

深雪が一番警戒していたことを。



「冗談じゃないわよ!」



盛大にぶちギレる深雪。

会見場である事も忘れて、散々怒鳴り散らす。

「こんなのが世界中に出回って、世界大戦でも起きたらどうするってのよ!

そんなこと起こさない為に私はコレを作ったのよ!!?

これを騎甲戦車の抑止力とする為に!!!

なのに、アンタ達がコレを世界に広めたらどうなると思ってんの!!?

世界中の軍に配備されたら、絶対に最前線で戦わされるに決まってるわ!!!

そんなこと許せる訳ないじゃない!!!」

「落ち着いてください」

「落ち着いてなんていられるか!!!」

取り付く島もない深雪に対し、特に動じることなく女性は続けた。

「貴女が『公開しないで欲しい』というならば『戴いた情報の一切を、日本海軍を除く世界中の如何なる組織にも公開しない』事を第一に約束します」

「───ッ!!?」

動揺する深雪。そんな彼女に対し、

「それでも物足りないのなら『零式TOKM艦上戦闘機の量産態勢を整えるに当たり、TCの極東支部に於ける全技術・全施設を持ってして無償でサポートする』ことも条件に入れますが、それでよろしいでしょうか?」

女性は続けてそう宣言した。

これには記者達も驚く。

新型機を、無償で。

明らかに自分達の負担しか無いことを平然と提案してきたのだ。

「どうして……?」

困惑の表情を浮かべる深雪。

「そこまでして、何が欲しいっていうの……?

零……空戦騎の設計データ、だけだとでも……?」

力無く抜けた深雪の問いに、女性は一言

「当然です」

とだけ即答する。

すると、彼女は深雪の元へと近づいていく。

「我々はTCテクノ・クレイドル───新たに産まれし技術のゆりかごとなる存在。

新しい技術の補完ができればそれで良い。

技術の発展は補完の過程で分岐するもの。

それは望む者がすれば良いのです」

語りながら一歩、一歩と近づいていく女性。

そして深雪の目の前に来た彼女の口が深雪の耳元で

「───」

ある事を囁いた。

「───ッ!!?」

驚愕、それ以上に畏怖の表情を浮かべる深雪。

「───何でアンタがそんな事を……!!?」

「……さぁ、何でかしらね?」

目を見開き焦る様な深雪に対しどこか哀愁漂う表情を、女性は一瞬だけ見せた。

「その他にも貴女に対し都合の良い条件を受け入れますが?」

「……もし、そうするとして」

数瞬、考えた深雪は、一言。

「関東近辺の工場だけで、一週間で何機作れますか?」

その事を尋ねた。二週間後には彼女を含む信濃は第一遊撃部隊の元へと向かう。それ故にそれまでには受け取らねばならないからだ。

その問いに、女性はほぼ即答で返した。

「Mark1と同程度なら一週間で百機は余裕かと」

話は逸れるがMark1とは、イギリスが開発した世界初の試作型人型機動兵器のコードネームだ。人型をした人が操縦する機動兵器として確立したばかりのそれは騎甲戦車の雛型であり、アメリカ軍がその後に開発した世界初の騎甲戦車 M1もこれに影響されたと言える存在だ。

実際設計上は似ても似付かない存在でこそあるが、零も幾分かそれの影響を受けている部分がある。

それを一週間で百機は量産できるということなら試作型二十機程度くらいは作れるだろうか、と考えた深雪は、

「……わかりました」

どうせ今のままでは量産には程遠いことは承知だったこともあり渋々ながら承諾した。

「他国に技術を譲らない、量産機生産の支援……それを条件として、情報の提示を許可しましょう……」

数拍の後、何故か拍手が送られてきた。

そのままの流れで、会見兼査問会が自然消滅するかの如く終了するかと思われたその時、辺りに警報が響いた。

「───今度は何!!?」

深雪が反応するのとほぼ同時に、スクリーン上に『交戦規定【特一条】発令』の文字が浮かび上がる。

「吹野 深雪さん」

隣の女性が深雪に向き直る。

「貴女のが迎えにいらっしゃったみたいですね」

「ナイト様……?」

言われた深雪は一瞬、彼女が何を言っているのか理解できなかったが、

「……まさか!!?」

その一瞬で色々察し、彼女は顔を真っ青にしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る