無くしモノ

今村広樹

本文

北海道と1口に言っても、道南、道央、道北、道東、さらにオホーツクとか色々あるけど、僕が住んでいるのは、道央の石狩地方である。

そして多分、一生出る事は、ないのだろう。

札幌の端っこの辺りから僕は、ガメラ2で大泉洋さんが食べられてたでお馴染みの地下鉄に乗って、北海学園大学に通っている。

と書くと、「なんだ、北海道なのに味気ないなあ」と言う人もいるだろうけど、正直、海の幸やら、大自然なんて物、みたことない。

あえて書くとしたら、酪農学園大学に付属みたいな形のとわの森三愛高校に通ってた時に、通学した時に見た牧場位

(普通科、特進科の他に酪農経営科があるのだ)。

さて、ある日大学で

「地域の民衆史」

についてのレポートが、課題になった時、高校時代の友人を思い出した。

彼女とは、小学生の時に出会って、中学、高校と一緒だったけど、そのまま大学に入って疎遠になってしまった。

別に付き合ってたわけではない(僕がそういうのに敏感でなかったというのも、あったし、そもそも、彼女には付き合ってた彼氏がいた)

けど、その疑いがかけられてしまうくらい、仲の良かった友人だった。

たとえば、強歩遠足(遠足とは名ばかりで、中山峠を越えるという、まあキツイ行事だった)で、彼女は何故か水筒にガラナを入れてきていて、

案の定、咽喉が渇いても、飲めなくなってしまった。

僕は仕方ないなあ、と思いながら、

「ほら、これでも飲みなよ」

と、ポカリスエットを、飲ませてあげた。

2人してゴールすると、回りでは、

「ヒュウ、カップルのゴールだ♪」

と囃したてて、僕と彼女は顔を見合わせて、赤面してしまった。

彼女は、地元の江別市出身で、酪農家の両親と一緒に住んでいた。

彼女はよく

「私の大御爺ちゃんは、地元で漁業をしてて、松浦武四郎の案内ガイドみたいなことをしていたのよ」

と言っていた。

これはいいと思って調べてみようと、彼女に久々会おうとした。

が、彼女は道外の大学に進学したらしく、代わりに彼女のお婆ちゃん(大御爺ちゃんの孫だという)に、話を聴くことになった。

…彼女の近況について、なにやら奥歯の挟まった言い方をしたのが、気にかかる。

が、僕は聴くことに、なぜだか躊躇してしまった。

とりあえず、お婆ちゃんに話を聴くのが先だと、嫌な予感を振り切って、彼女の家の2階に上がる。

高校時代の彼女曰く

「うちのお婆ちゃんはね、なにか悲しい事があってね、私の生まれる前からずっと、2階の自分の部屋に、閉じこもってるの」

ということだ。

「…私のおじいちゃんは、アイヌの人と付き合いがあってねえ、その中の、1人の少女と恋仲になったんだよ。

それこそ、おじいちゃん、私がその話を聴いた時は、大正も終わるころで、私は7歳位、おじいちゃんは、もう、80は過ぎてたね、

そのおじいちゃんは、彼女と添い遂げようとしたらしいわ。

おばあちゃんの話だと、いや、その時は、おばあちゃんは、おじいちゃんや自分の親父さんと一緒に、魚捕るの手伝ってたんだけどね。

まあ、そのおばあちゃんが言うにはね、本当、嫉妬しちまうくら、いちゃいちゃしてたらしんだよ。

今でいう、豊平川の川岸で、いっつも逢引してたらしい。そんで、おじいちゃんは、祭でよく踊ってたくらいに、おどりや歌が好きで、

彼女によく聴かせていたらしいよ。私が言うのもなんだけど、おじいちゃん、踊りはうまいけど、歌はからっきしだったんだけど、

彼女は、ニコニコして、観ていたらしいわ。

でもね、彼女の兄貴が、和人と喧嘩しちまってね、それが拗れて、一族郎党皆殺しにあったのさ、それこそ松浦さんが来てた頃の話だよ。

それで、おじいちゃん、怒っちまったんで、そいつを、さんざんぶん殴った挙句、川に投げて、土左衛門にしちまったのさ。

それこそ、あちらこちら、大騒ぎになったんだけど、松浦さんが、ようわかわんけど、大岡裁きみたいなことを、してくれて、ことなきをえたって、話さ」

その後、友人の父親が、僕を工栄町にあるというその事件があったという場所に、この雪が降り積もる中、わざわざ送ってくれた。

その道中、僕は友人について、こんな話を聴いた。

「いやねえ、東京の大学に行ってた時に、悪い男に、捕まっちまったみたいでね、もうそれは、結婚するんだって、言ってたなあ。

でもよ、そいつが、やっぱりろくでもない野郎でね、なんつったけ、そうだDVをやられてたんだってよ。

そんでさ、音沙汰がなかったんで、俺とつれあいは、心配になっちまってさ、娘が住んでるマンションに行ったんだよ。

そしたらさ、血まみれで、娘が倒れていたんだ…。

後で、警察に聴いたんだけど、やっぱりDV野郎が、ついに娘を、ぶっ殺しちまったらしい。

まったく、そんなところまで、ご先祖様に似なくてもよう…」

しばらくして、その場所に着くと、雪どころか吹雪になって、目印である「江別チャシの史跡」が見えなくなるくらいの、所謂ホワイトアウトが発生していた。

ふと眼を凝らすと、目の前に、小さい人影が見えた。

それは、アイヌの少女のようにも見えたし、友人にも見えた。

瞬きをすると、その影はかき消えてしまった。

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