第十二話

 そして迎えた土曜日。一応持ってきた自分の銃を持って予定の十五分前に学校に着いた俺と大岩は下駄箱で靴を履きかえ自販機に向かい、飲み物を補給した後、ガンケースを担いだ大西と合流し自習室に向かう。

 部屋にはすでに松島さん達がいて、部室から借りてきた銃(89式とMP7)と説明書を交互に見ながら話し合っていた。

ちなみに自習室を使用しているのは俺たちだけのようでこれなら気兼ねなく話せそうだ。


「おーす。はやいな」


大西が軽く挨拶をすると、


「早くなじみたいからね…」


と、長良さんが微笑みを浮かべて返した。んー?天使二号かな?


「確か長良さんは通信手だからMP7だけだよね?」


大岩の問いに対しては、


「うん。これなら軽いから持って走れそう」


とこれまた笑顔で返してきた。


 この学校に限った事ではないが、大体の学校は、通信手はサブマシンガンか拳銃のみを持たせる。

 理由としては単純で、通信用具を持ってさらに小銃も持って前線についていくのは、並の体力じゃ出来ない。

鈍足になった通信手がやられて味方とのコンタクトが取れなくなり、孤立して撃破されるなんてのは笑いものだしな。


「MP7を持ってるのは…、大西?」


「おう、持ってるぞ」


教官気取って腕を組んで壁に寄りかかってる大西が、「出番か」といった様子ですかしたニヤケ顔で返事をする。


「じゃあ、長良さんを頼む。俺と大岩で二人に…って、伊縄さんは大体わかるか」


「うん」


「オッケー。大岩、松島さん頼んだ」


「丸投げかよ」


抗議顔の大岩に、


「違う違う、俺はメディック戦についてまとめておくさ」


俺の役目を伝える。


「あー、了解」


納得したところで各々講義を開始した。



   ‡   ‡   ‡



「つまり呼ばれたら敵に気を付けながら、味方のところまで走ればいいんだね?」


銃の取り扱いの説明を終えて、メディック戦についての説明も終えたところで、松島さんがうなずきながら確認を取った。


「そういうこと」


間違ってはいないから肯定しておく。

にしてもこの娘ら覚えるの早いわ。

長良さんに至っては早くも分解整備まで覚えたようだ。ついこの間までサバゲーのサの字も知らなかったとは思えないね。大西、誰がそこまでやれといった。


「いやー、この娘いいね。教えがいがあるよ」


と、ニコニコ顔で今度は自分が持ってきたカスタムの施された89式の説明に入った。

部で使っている物とは少し違う形をしている(レイルハンドガードにフォアグリップ、ドット・ホロサイト用のローマウントレイルなど)89式を見て伊縄さんを除く二人は衝撃を受けたようだ。

 続いて俺のG36Kと大岩のM4を説明して昼休憩をはさんだ後、部長から使用許可を取っていたらしい射撃場へ移動して、それぞれ五メートル先の的を狙わせる。


「なんか近くない?」


松島さんが長良さんも抱いているであろう疑問を代弁する。

周りの的が二十メートル以上あるにもかかわらず、自分の前にある的の近さを考えれば当然といえた。


「最初はこれくらいで慣らすのさ」


「遠い的の方が楽しそう何だけどなー。それに連射も駄目だなんて……」


残念がる松島さんの横で、


「ダメダメ、ただでさえ初心者はトリガーハッピーになりやすいんだから」


後ろから嗜める大岩の発言に、


「「トリガーハッピー?」」


二人の声がハモった。説明してなかったか。大西さん、頼んます。


「トリガーハッピーってーのは、撃つという行動が楽しくなっちゃって弾の事とか考えずに無駄にばら撒いちゃう事。初心者サバゲーマーに時々いてね、射線上の味方を誤射することもあるから絶対にやらない事。いいね?」


「はい。肝に銘じます」


とすっかり教官と訓練生になっている大西と長良さん。コンビでも組む気か?


「まずはセミオートで一発ずつ丁寧に狙って当ててみな」


 大岩教官の指示の下、松島さんが89式、長良さんがMP7を構えてまずは一発。

〝パシュッ〟という音とともに放たれた直径6ミリ、重さ0.20グラムのBB弾は、的には当たったものの、中心からは大きく逸れ、外円の左側をそのまま貫通した。


「なんで!?ちゃんと中心を狙ったのに!」


松島さんが憤りをあらわにし、長良さんは小首を傾げる。


「二人とも、ガク引きっていってな、トリガーを引くときに余計な力を入れてるせいで、わずかながら狙いが狂ってるんだよ」


大西さん、流石っす。


「今度はそのことを意識して引いてみ」


大岩の指南が入り、再度構えなおして狙いを定める。


―――――パシュッ!


 満を持して放たれた二つの弾は、一直線に中心円に向かい松島さんは的心×(クロス)のわずか右側、長良さんは少し下を貫通した。


「やった!当たった!」


「―――――!」


松島さんは松島さんらしく初的中を声に出し、長良さんは長良さんで「感激した!」という表情で嬉しさを表に出す。


「な?言ったとおりだろっほ!?」


 狙い通りだった結果を大西がほめようとした瞬間、後頭部を狙撃された。


「ス、スナイパー!」


伏せる大西。だが、


「痛い!痛い!俺死んでる!オーバーキルもダメ絶対!」


隠れるところもないところで伏せても的は的であった。


「立風センパーイ、その辺にしときましょうよー」


そろそろやめさせた方がよさそう。


「調子はよさそうだな」


「そうですね。二人とも呑み込みが早くて助かります」


「まぁ半分くらいは俺の…、すみません何でもないです」


途中からM24を突き付けられ諸手をあげて降参する大西を他所に会話は続く。


「次のゲームに使えそうか?」


「このまま射撃やゲームの進め方を覚えたらすぐにでも使えると思いますよ」


「そうか、ならいい」


そういって立ち去ろうとする先輩に問い掛ける。


「?練習しに来たんじゃないんですか?」


「はぁ、俺たちの隊長は心配性らしくてな、今回はただの様子見だ」


ため息を一つつき、そのまま校舎に戻って行った。


「え…?じゃあなんで俺は撃たれたんだ…?」


大西の問いに答えたのは、頭上の烏だけだった。



   ‡   ‡   ‡   



 ガチャという定番な音を響かせて開いたドアを見ると、偵察に行かせたヨシが帰ってきた。


「で、新入生の様子はどうだった?」


「あの調子なら二人とも問題なさそうだ。長良なんてMP7の分解整備と89式の扱いまで覚えたみたいだしな」


ヨシの報告にその場にいた全員が目をむく。


「おいおい、長良ってあのメガネっ娘だろ?相方の元気っ娘なら分かるが、サバゲーをやった事もないのにそんなにすぐ覚えられるもんなのか?」


要平の疑問に友美が、


「いやぁでも、今までやった事もなかったから、逆に新鮮で楽しくて覚えられたんじゃないですかー?私も最初は似たような感じでしたし。それに、あの娘、アマチュア無線の資格を持っているので、案外機械に強いのかも」


そういえば見かけによらず無線の免許を持っているのを思い出した。


「確かに。それかもね。一年生全体の様子はどうだった?」


今回一番知りたいのはこれだ。

チームの一体感も大事だが、学年ずつにもまとまりがなければ、チームがまとまる訳がない。


「そっちも問題なさそうだ。メカニックを含めて分からない事はその場であの三人に聞いてるようだしな」


「そうかそうか。それはよかった」


心底安心した。この調子なら次の大会も問題なさそうだ。


「じゃぁ、次のゲームの配置を決めようか。友美」


「はい。一年生にとっては初の部活参加となりますので、一年生同士でツーマンセル行動をとらせるようにするのはいかがでしょうか?勿論、親睦を深めて経験積ませる目的であの三人は別行動とし、他の娘と組ませます」


という友美の意見。概ね同意だね。


「いいと思うぞ。まぁ長良は通信手だから沖田とだがな」


要平も同意した。


「佐村は伊縄と、大岩は松島、大西は森口か?」


ヨシが起てた編成案、悪くない。けど少し訂正しよう。


「うーん、大西君はあえてフリーにするのはどうかな?」


「泳がせるのか?」


「いや、指示は出すよ。けど、大西君は意外性のある男だと思うからね」


 歓迎ゲームを思い出す。

 まさかエアコキであんなに大暴れするとは思わなかったから、武装を整て明確な指示を出して行動させればかなり優秀な人材かもしれない。


「ゲームをひっくり返しそうだな、二つの意味で」


ヨシが悪い笑みを浮かべて呟いた。

この場合は劣勢から優勢か、それとも優勢から劣勢か。状況は二つに一つだ。


「そういう意味でも、次のゲームでは、彼はゲームの鍵を握っている存在にしようと思う」


「ふん、面白そうだ。その話、乗った」


「俺も乗った」


「私も乗ります」


「全員の意見がそろったところで今日は解散にしようか。まだ時間はあるから練習したい人は射撃レンジなりなんなり使っていいよ。ただし片付けはしっかりお願いね」


「了解」


「俺はミニミの調整をする」


「では、私は帰りますね」


「おーう。じゃぁなー」


「お疲れ様でした」


礼をして退室した友美を見送り、暇そうなヨシに視線を向ける。


「ヨシ、ラーメン食べに行かない?」


「おま、さっき昼食ったばかりだろ。あと俺の事ヨシっていうのやめr」


「ミニミの調整は後だ。行くぞ!」


しかめっ面で抗議しようとしたヨシを遮り、要平がヨシの腕をつかみ無理やり立たせた。


「あー!分かったから手を放せ!お前はいつも力任せすぎるんだよ!」


「よっしゃー!ラーメン行くぞ!」


要平は実家がラーメン屋なだけあり、ラーメンの話になると力加減を間違えるのは現二学年では有名な話。


「今日はどこだ!?学校前か!?駅前か!?それとも本土か!?」


「要平落ち着いて。今日は駅前だから」


「本土にはツッコミなしかよ…」


というような会話をほぼ毎回やっているありさまだ。


「駅前か、なら今日は味噌にしよう」


「じゃあ行こうか」


射撃レンジの佐村君に連絡を入れ、帰る際はロッカーに銃をしまって鍵をかけ、部室には鍵を掛けなくていいと伝え、三人そろって駅前のラーメン屋に向かう。


(次のゲームがこんなに楽しみなのは久しぶりだな…)


あの三人、特に大西君にはがんばってもらわないと。まぁ、僕がうまく指示を出せなきゃ意味ないけどね。


(責任重大だな、指揮官って)


隣で騒いでいる要平とうんざり顔のヨシには気づかれることなく、僕は隊長という今までとは違う立場に就いたことを実感していた。

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