第十一話

あのゲームから三日後の水曜日、書類の記入やら保険の加入手続きやらがあり、正式な活動開始が三人そろって少し遅れてしまった。

その日一日の授業を終えて部室棟へ向かい、『サバイバルゲーム部』と黒いマジックで書かれた表札がある部屋に入る。


「失礼します!本日付けをもって八重里高校サバイバルゲーム部に配属となりました、大西洋です!」


「同じく、佐村陣です」


「同じく、大岩孝史です」


ノックした後入室許可を貰ったのを確認してから入室し、三人ならんで敬礼を送る。我ながらきれいな流れで出来たがどうだろうか。


「うん。ようこそ我がサバイバルゲーム部へ。君たちを歓迎するよ。さぁ、こっちに」


オーケー。流石部長、期待通り乗ってくれた。

部長の案内(一メートル)に従って着席する。他の人達はもう揃っているようで、実質俺らが最後だったようだ。最前列しか空いてなかったので三人詰めて座る。

ちなみに、当初二十人近くいた希望者だが彼等の本当の目的はただ銃を撃ってみたかっただけだったようで、ほとんどが入部を辞退したようだ。中には本気で入部を狙っていた奴もいたであろうが、この場にいないということは、つまりそういうことだ。


「よし、じゃあみんな揃ったところでミーティングを始めようか。まずは一年生から自己紹介してもらっていいかな?」


上から見ると『一二』の字に並んだ席の一番前側の真ん中に座った部長氏が号令をかけた。


「はい。一年C組の大西洋です。サバゲー歴は四年ほど。基本スタイルはアタッカーだけど時々スナイパー!よろしく!」


大西が終えて俺の番。


「同じくC組の佐村陣です。サバゲー歴も同じく四年。基本スタイルもアタッカーです。よろしくお願いします」


そして最後は


「B組の大岩孝史です。サバゲー歴は三年、基本はアタッカー。よろしくです」


そして二列目へ


「一年C組の松島美波です!サバゲー歴はありませんがルールはなんとなくわかりまーす!体力にも自信があります!よろしくおねがいします!」


「えと…、C組の長良亜季です。サバイバルゲームは何も知らない初心者です。よろしくお願いします…」


「一年B組、伊縄千代。サバゲー歴は二年、基本スタイルはその都度変わる。よろしくお願いします」


一年生が全員終わったところで部長が区切る。


「うん、ありがとう。じゃあ我々の番だね。ご存知の通り、二年A組、部長の永原兼です。指揮も兼任してるからよろしくー」


「二年D組で副部長を担当してます、沖田友美です。通信手をしています。よろしくね」


「B組の森口要平、分隊支援なら任せろ!」


「同じくB組、立風義明。メンバーの都合上スナイパーをしている」


といった感じで全員分の紹介が終わった。……なんというかあれだね。例のごとく思考が読めない部長さんと、愛嬌たっぷりの副部長、冷静沈着立風さんに、極めつけは森口さん。すごいね、制服着てても分かるくらい筋肉モリモリだね。上裸にチェストリグ着けて頭にバンダナ巻いてM60持たせたらまんまラ○ボーだね。もしくはシ○ワちゃん。前線に送り込めば相手チームも逃げ出すだろうよ。


「みんなこの間はお疲れ様でした。あの時は敵同士だったけど今日からは背中を預け合う仲間同士だから、仲良くしてね。さて、次は緒説明をするよ。友美、お願い」


「はい。まず装備関係について説明します。この学校のサバイバルゲーム部は装備を統一しています。具体的には陸上自衛隊装備です。これは全国高等学校サバイバルゲーム連盟に団体として登録する際、一緒に登録するものであって、一度登録すると変えることはよほどの理由がなければ変更することはできません。よって、基本的には新規に迷彩服を購入していただきます。すでに持っている方はチェックをしますので後日持ってきてください。銃につきましては自衛隊統一なので89式小銃と64式小銃と4.6mm短機関銃(MP7)、P220、USPを学校から貸し出しますので自ら買う必要はないです。装備に関しては以上です。何か質問はありますか?」


「あ、いいすか?」


大西が早速手をあげた。


「はい、大西君どうぞ」


「えーと、自衛隊装備を個人的に持ってる人はチェックを受けて合格したらそっちを使っていいってことですか?」


「構わないよ。そっちの方が経済的だしね」


「マジすか!ありがとうございます」


部長氏の答えに満足したご様子。


「他にないかな?……じゃあ友美、次の説明よろしく」


「はい、次は部費についてです。重要なのでしっかり聞いておいてください。サバゲーをするにあたり、弾は必ず必要になります。なので、毎月一人当たり4000円を徴収しています。これがないとガダルカナルみたいな状況に陥ってしまうので毎月必ず払ってください。質問はありますか?」


「はい」


またしても大西だ。


「どうぞ」


「大会参加費はどうするんすか?」


「大会参加費は学校が負担することになってるから気にしなくていいよ」


「おー、随分太っ腹ですねー」


「この島の事情が事情だからねー。上の人たちも『何の成果も得られませんでしたぁー!』じゃ済まないんだろうねー。ま、その結果僕らが多少楽できるし、その期待に答えなきゃいけないんだけどね」


「そうっすね。ヤッテヤルデス!」


副部長が説明して大西が質問して部長が答える。こんなノリの会話が終わりまで続いた。

ミーティング後、自衛隊装備をすでに持っている俺ら三人は今週中に装備を持ってくるように言い渡され、解散となった。

なお、来週のミーティングでは正式にポディションが発表される予定だそうだ。聞いた話だと基礎練習は同じだが、その後の実戦練習はそれぞれ全く違うとのこと。さらに説明書なしで銃のオーバーホールも出来るようにならないといけないらしい。俺らと伊縄さんは問題なさそうだが他の二人が心配だと副部長が心配していて、「何かあったらフォローしてね」なんて小首を傾かしげてを笑顔で言うもんだから三人そろって最敬礼しちまった。



     ‡   ‡   ‡



「ていうわけで、今発表したポディションと装備で今度民間フィールドに行って定例会にチーム参加しようと思う」


一週間たってポディション発表の日。大西と教室を出て大岩と待ち合わせてから部室に向かった俺達。部屋に入ると他のメンツは揃っていてまたしても俺らが最後だった。そういえば三人の装備を見てもらったところ問題ないとのことだった。やったぜ。

部長から言い渡された結果は、俺ら三人と伊縄さん、松島さんの五人は小銃持って走り回るアタッカー、長良さんはアマチュア無線の免許持ちということで副部長と同じ通信手を担当することとなった。ちなみに通信手はメディック戦ではメディックを担当しなければならないという連盟のルールがある。あ、メディック戦のルールは多分大西が説明するだろうからまた今度ね。


「どこのフィールドに行くんすか?」


こういう話に真っ先に食いつくのはただ一人、大西だ。


「それはみんなで話し合ってから決めようと思ってたからまだ決めてないんだ。大西君、どこがいいと思う?」


「初心者も楽しめてかつ経験者も楽しめるところかー。無難にAPCで良いんじゃないんですか?」


『サバイバルゲームフィールド APC 』は八重ヶ島の端にある森林フィールドで、ただの森林ではなく半分が丘のようになっていて、中央ルートの突破は困難なため左右のルートをどう攻めるかがカギとなるフィールドだ。丘になっているため上にフラッグがあると下が不利になるが、そうなった場合は他のプレーヤーとの協力で乗り切らないといけない。つまり、ルーキーにとっては戦い方をベテランから学べるフィールドなのだ。


「うん、やっぱりそこかー。他にはあるかな?」


「ファイアウォールとかファクトリーなんかは中級から上級者向けのフィールドですからねー。俺もAPCで良いと思いますよ」


「確かにな。行くのであればAPCで良いと思う」


大西の意見に俺と大岩も同意する。


「そうだな。いつものメンバーだとファイヤーウォール(FW)でもいいんだろうが、今回は俺もAPCで良いと思うぞ」


森口先輩も乗ったぞ!


「私もそこでいいと思う。みんなは?」


副部長が一括して聞いてみると、


「異議なし」


「大丈夫です」


「皆さんに任せまーす」


「私も皆さんに任せます…」


立風先輩が興味なさげに、伊縄さんはクールに、松島さんは適当に、長良さんは自信なさげに答えた。


「じゃあ、決定で。日程はどうしようか?次の日曜日で良いかな?」


「「「「「「「「「異議なーし」」」」」」」」」


「うん。集合時間と場所は追って連絡するから今日は終わりで。明日から訓練開始だからみんな遅れないようにねー」


全会一致したところで議題もなくなり今日は解散となった。



     ‡   ‡   ‡



三人で馬鹿話をしながら下駄箱まで行き、外履きに履き替えて続きを話しながら校門に向かう。


「いやー、二週間連続でサバゲーってのは随分ハードだと思わんかい?」


「その割には随分嬉しそうな顔してんじゃねーか」


大西よ、満面の笑みで言うセリフではない。あぁ、殴りたい、この笑顔。


「だが楽しみなのは違いない。そうだろ?」


含み笑いをしながら聞いてきた大岩に対し、


「当たり前だぜ!」


キリッとした顔で返してやると、


「「だよな!」」


二人の声が被って返ってきた。すると、


「あ!ねー!そこの三人!」


呼び止められた。確かこの声は、


「えーと、松島さん達か。どうかした?」


松島さんと長良さんと伊縄さんだ。あっちから声を掛けるとはめずらしい。


「あのさ、私達三人の内、チーちゃんは問題ないんだけど、私銃のことはほとんど知らないし、アーちゃんに関しては、メディック戦だっけ?そのルールを含めてサバゲー自体初心者だから良く分かんないらしくてさー、教えてほしいんだよね」


なるほど、そっちの勉強を教えてほしいと。


「あぁ、別にいいけど…。いつにしようか?」


大岩が承諾し、日程の調整に移る。


「うむ、明日から平日の放課後は毎日訓練だから無理だとすると、土曜か?」


「そ、そこしかないだろうなー。あとは今日この後とか?」


ホント大西ってこういう時は普段とガラッと変わって真面目になるから調子狂っちまうよ。


「今日この後はちょっと厳しいから土曜日にしてもらってもよろしいでしょうか…?」


長良さんがびくつきながら提案してきた。そんなに俺らって怖いかな?ちょっとショック。


「うん、俺らは基本いつでもいいよ。なぁ?」


「あぁ」


「サバゲーなければ暇だからなー」


と、基本暇人の俺らは受け入れ態勢万全なわけで。


「ありがとー!じゃあ、土曜日の十時に学校の自習室集合ね!じゃあね!帰ろ!二人とも!」


といって暗い夜道の正面から来た車のヘッドライト並に明るい笑顔を向けて去って行った。

連れられた二人はそれぞれ「よろしくお願いします」、「じゃあ、また」と言い残し松島さんの後を追った。


「最初見た時は心配だったけど、なかなか向上心があっていいじゃないか」


大西が三人の心意気に感激したように呟く。お前はおっさんか。


「ま、副部長に言われてることもあるし、丁度良いんじゃないの?」


大岩が先週副部長から言われたことを思い出したのか、苦笑を浮かべながら答えた。


「せやな。さて、俺たちも負けないように明日からの訓練、がんばりますか!」


「「おう!」」


高校生になって一カ月ちょっと。

中学とは違う環境と空気にはもう慣れた。

心強い先輩と仲間もいる。

そんな先輩に『教えてあげて』と言われ、仲間に『教えてくれ』なんて言われていやだなんて言う奴は人でなしだ。

少なくとも俺はそう思ってる。

だんだん小さくなって行く三人の背中を見送ってから、俺ら三人もそれぞれの帰路についた。



     ‡   ‡   ‡



 佐村君たちの三人組と、松島さん達の三人組が何やら校門前で話し込んだ後、笑顔で手を振って別れていくのを部室の窓越しに眺めて一言、


「青春だねぇー」


と、永原君が呟きました。


「部長、おじさんみたいですよ?」


予想はしていましたが実際に聞いてしまうと吹き出してしまうものです。


「だって、実際青春してるじゃないの。人数も丁度三人ずつだし、誰が誰とくっつくのかも楽しみだな~」


確かにそれは、私も気になります。ですが…、


「それより、俺たちもとっとと上がろうぜ。もうすぐ時間だ」


森口君の言う通り、もうすぐ完全下校時刻です。


「……そうだね。帰ろっか」


まだ何か言いたそうでしたが、みんなが荷物をまとめてあるのを見るや否や永原君も荷物をまとめ始めました。


「じゃあ、友美、鍵頼んだよ」


「はい」


みんなが部屋を出た後忘れ物が無いかどうか確認して部屋を施錠。職員室までみんなで行き、返却後はもう帰るだけ。


「じゃあ、今日も一日お疲れ様」


「お疲れ様でした」


「おーう」


「あぁ」


あの三人組のように校門で別れ、それぞれの帰路につきますが、私と永原君は方向が同じなので途中まで一緒に帰ります。

聞くなら、今ですね。


「部室で荷物をまとめる前、何を言おうとしていたのですか?」


右隣を歩く永原君に顔と目線は前に向けたまま問いただします。


「気付いてた?」


「当たり前です」


「いやぁなに、あの三人なら、奇跡を起こせるかなって」


奇跡ですか……。


「起こしますよ、彼らなら。起こしてくれるはずです」


この『奇跡』が何を意味しているのか、それが分からなければ永原君の補佐は務まりません。


「そっか。そうだよね。彼らを信じよう」


私の答えを噛み締めるようにうなずいた永原君に、


「はい」


と、私は短く返事を返して彼の左手を私の右手で握って歩きました。 







―――――――――――今日も結局、最後まで握り返してもらえませんでした。







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