第九話

みんなは暗い部屋の中、電気をつけたら目の前に中型動物の白骨化死体があったらどうする?俺なら悲鳴をあげるね。実際あげちゃったし。

ゲーム開始一時間が経過し現在地はトンネル中間地点。何か撃ちあってるようだったから慎重に来たけどもう誰もいなかった。つまらん。

なんで進むのが遅いのかってーとトンネルが地味に長いのと白骨化死体のせいです。あの仏さんはトンネル出入り口の脇に埋葬しました。その間に他のプレイヤーに遭遇しなかったのは今日の俺は随分運がいいんだな。え?銃?それはノーカンでオナシャス。

つーかほんとに誰とも会わない。これじゃ一人トンネル探検だぜ。


(この部屋は何だー?何もなしか…)


部屋を見つけては中を調べる作業もだんだん飽きてきた。最初はメチャクチャ面白かったけど何の発見もないからね。骨はたくさん見つけたけど。


(ここもはずれ…。これで十三回連続…)


一応一通り物色して通路に出ると…、


「ひゃあ!」


「うわ!なになに!」



 未 知 と の 遭 遇 



「なになにじゃないよ!音もなく急に出てこないでよ!びっくりしたじゃないか!」


でもなかった。


「それはこっちのセリフじゃ!」


いやーびっくりした!どれくらいびっくりしたかって?日が落ちて暗くなった校舎のトイレから白衣を着た先生がスーと出てきた時くらいびっくりした!危うくちびるところだったぜ。危ない危ない。


「で、こんなところで何やってんの?」


衝撃的すぎる出会いだったがとりあえず目的を聞いてみる。


「そうだった!迷彩服を着てるの見なかった!?」


「え?そういえばまだ見かけてないな…、なんかあったの?」


「ゲーム前みんなで話し合ったじゃん!あの三人を集中攻撃しようって!」


え、ちょ、それどういう……、


「どうしたの?もしかして聞いてなかった?」


ソウダナーハツミミダナー……。


「あれ?でも人数数えた時はみんな揃ってたよね……。まさか……」


あ、これアカンパターンの奴や。


「君はあの三人のひt……」


「南無三!」


「うわぁ!またか!」


いかん!今まで誰にも会わなかったせいで忘れてた!これFフリーFフォーAオールだった!

とりあえず持ってきてたライトを一瞬つけてその場に伏せて匍匐でさっきまでいた部屋・・に逃げ込む。

さっきまたかと言っていたから同じ手で一杯食わされたんだろうな。つまり……。


「このー!今度は逃がさないぞー!」


俺の予想通り俺が入ってきた出入り口方向に走り去って行った。


(計画通り)


俺はどこぞの新世界の神のようにほくそ笑み、今度はクリアリングをしてから部屋を出る。あれだけ大声出してたのに誰も来ないなんてやっぱり俺は(ry。

騒いでたせいで分からなかったが少し先に光が漏れているところがある。大きさからして別の出入り口っぽいな。


(ふー。そろそろお天道様の下に出るかの……)


近づいてみて分かったが机で塞がれたひしゃげた扉みたいだな。よく見ればそこらへんに新しい足跡が残ってる。大きさからして男。数は三人かな?

扉の隙間から外の確認をすると机の上にある足跡と同じ足跡があった。複数あったがどれも外からトンネルに続いているから外に脅威はないと判断して机をずらして外に出る。


「ふぃー。空気がうまい!さてと…」


足跡は何かを追うように全部同じ方向、山頂の方に続いていた。


(だったら俺も行かなきゃな!)


ゲームが開始して早くも一時間半。ゲームはまだ、始まったばかり!




(くっそ!ヒャッハーズの奴らなかなかしつこいな!)


トンネル突入から十分間、俺は休むことなく山頂の出入り口に向けて走り続けていた。

後ろからは青いジャージを着た三人のムサイ男たちが軽機関銃を持って追いかけてきている。ていうか軽機関銃を『抱え銃』の状態で十分も走っていられるなんてあいつらは化け物かよ。どうやら若者の人間離れは本当のようだな。

途中にある部屋に入って隠れるなり立てこもって迎撃するという策もあったが、それぞれ足音、ごり押しという理由により否決された。結局重装のあいつらと軽装の俺によるどちらが先に体力切れを起こすかを競うことになったがあいつらマジでしぶとい。

ところどころ出口みたいなのが存在しているが、塞がれているため追われてる以上壊す時間もない。だからまっすぐ出口を目指すことにした。


(地図だとあと少しで出口なんだけど……、っ!)


パチッ!パチッ!


嘘だろ!?追いついて来てる!?

慌てて後ろを確認するが姿は見えない。なぜこんなところで無駄弾を……?

相手の意図を考えながらこちらも応射しようとしたところで一つの結論に至って銃を抱えなおす。


(こちらの位置をつかむためか!)


この暗い中相手の位置をつかむのは容易ではない。ましてお互いに走っているとなると一層難しくなる。


(ヒャッハーズ…なかなかやるじゃないか。面白い!)


俺の目の前には半円状に光が漏れている。つまり……、


(俺にとっては不利だが、決着は外でつけようぜ!)


そのままの勢いで外に出て俺は手近のバリケードに滑り込んで身を隠し、出口に銃を向ける。


(いつでも来い…準備はできてる)


だが待ち伏せを予想しているのかなかなか現れない。


(やっぱり馬鹿じゃないよな…)


今のうちに移動しようとバリケードから半身を出した途端、右側から、


  ヒュン!


左から、


カツカツカツカツ!


「くっそ!外した!」


「馬鹿!声を出すな!気付かれんだろ!」


「うわ!バリケードかよ!」


「落ち着け。まだチャンスはある」


「そうだぜ!何せこっちには五人もいるんだからな!」


「おい…………」


あの三人組、やっぱり俺が出たところを狙ってる事を予想して途中のドアを破壊してまで回り込みやがったな!それに偶然か知らんがL96 AWSとM24を持った奴まで合流しやがった!


(五人に挟まれた……!まずい!)


L96はVSRよりも大型の狙撃銃で命中精度も良くマガジン装弾数も多い。M24はVSRと大して性能は変わらないが油断は出来ない。ただどちらもボルトアクションのため、近づいて一斉射加えることが出来れば勝機はあるだろう。


(一番の問題はヒャッハーズだな…)


どうする?こうしている間にも距離を詰められてる……。


(一か八か…、打って出るか…)


覚悟を決め、ヒャッハーズに銃を向けようとした時、


「カモォォォン!レッツパァァァァァァリィィィィィィィィィ!!」


フィールドに雄叫びが轟いた。




マムシのせいでバリケードから追い出され、受験生に見つかり野山を駆け回ること早十五分、偶然遭遇した受験生三人からヒットを奪い、絶賛逃走中である。


(何人かは疲れて脱落したか。そろそろかな…)


マガジン内は残りニ十発、三人ヒットさせるのに十発使ってしまったがまだ余裕はある。

前方にある土嚢に身を隠し、展開しっぱなしだったバイポットをたたんで赤軍のごとく走ってくる受験生の内、先頭に照準を合わせる。


(距離は大体百……まだまだ……)


普段山に慣れていないせいかふら付きながら追ってきている。体力的にもそろそろきつくなっているのだろう。


(五十…………今!)


距離が四十に差し掛かったところで引き金を引く。丁度正面から走って来ていてため、吸い込まれるようにヒット。さらに後続二人も撃ちながら走ってくるが、近くても土嚢に阻まれ無駄弾となった。すかさずワンショットづつで仕留める。


「みんな落ち着けよー!」


「手柄にこだわり過ぎだって!」


相手の会話が聞こえてきた。………手柄だって?

確かにおかしいところはあった。FFAは全員敵なのに受験生は周囲に呼びかけてまで俺だけを集中的に狙ってくる、これはまるで………、


(キツネ狩り……?)


キツネ狩り、フォックスハンティングとも呼ばれるこれは集団で一人を追い詰めるゲームであり、追う側は集団のチームワーク、逃げ側は個人の技量が試される各国軍隊でも行われている訓練の一種である。


(でもこれはFFA、キツネ狩りじゃないはず……。流石に考え過ぎか……?でもあの部長さんたちのことだ……無きにしも非ず、か……だとしたらあの二人も危ないな……)

俺たちは共闘することを禁止されている。だが偶然・・・・居合わせ(・・・・・)、それぞれ(・・・・)が(・)別・の(・)目標・・を(・)狙って(・・・)いた(・・)とすれば全く問題はないはずだ。


(面白れぇ。そっちがその気ならこっちもやってやる!その前に!)


ポンッ!


「いてっ!ヒットー!」


息を整えて合流してきた一人を仕留め、


「お前たちを片付けてからだな」


俺は受験生でなく、先輩たちに対抗心を燃やした。




新入生が元気に山を走り回っている中、ゲームに参加したい衝動をこらえ、私たち二年生は管理室でそれぞれのカメラから送られてくる映像を観察しています。


『お前たちを片付けてからだな』


「おや、大岩君は気づいちゃったかな?」


「どうでしょうか……今の一言では何とも……」


カメラ番号三番、大岩孝史君。

今回の新入生の内、サバゲープレイヤーの一人。

一番、二番の佐村陣君と大西洋君と比べると参謀向きと立風君が評価した通り、今回の試験の秘密にもう気付いた可能性が出てきました。


「うーん。判断するにはまだ早いけど、用心するに越したことはないね」


「そうですね」


永原部長の意見に賛同する。


「じゃあ、ヨシー、よろしくー」


ヨシと呼ばれた同級生。立風たちかぜ義よし明あき君、我がチームのスナイパーを勤めている方です。


「分かった。あとヨシっていうのやめろ」


「気を付けるよ」


このやり取りはもう入部当初から続いています……。

立風君はギリースーツを着込み、迷彩ペイントが施された愛用のM24を手に取ると、そのまま三人のうち一人でもこのゲームの本当の目的に気づいた場合に対処するために、あらかじめ決めていた手筈通り、フィールド(・・・・・)に(・)入って(・・・)いく(・・)。


(もし大岩君が本当意味に気付いていたら、とても厄介になりますね。……彼ら三人にとって……)


「友美ー、全員に連絡入れるから準備してー」


「え?まだ早くないですか?」


「いいんだ。やってくれ」


「分かりました。準備します」


さて、あの連絡を入れるとなると、あの三人はいよいよ追い込まれることになります。


「よし。準備できました。……どうぞ」


「みんなお疲れ様ー。何人かヒットしたようだけど、順調だねー。ここからイベントルールが加わるよー。フィールド内にうちのエーススナイパーが一人潜入したから注意してね。撃たれたらヒット判定だから、ルール厳守でお願いね。以上みんなの健闘を祈るよ」


遂に本物のハンターが、放たれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る