第八話

 インカムからゲーム開始の合図が聞こえてきた途端、俺は銃のスライドを引いて走り出す。

ただやみくもに走っている訳じゃねーぜ?地図もある程度頭に入れたし、もちろんしっかりと周りを見ながら移動をしてるさ。

ただ、こんな行動は本来であれば自殺行為だから良い子は真似をしないようにな。大西クンとの約束だ☆

 じゃあなぜそんなキケンな行動をするのかって?だって俺たちが積極的に前に出ないと面白くないでしょ?ゲームを混ぜっ返すのが俺たちの役目だ。

てなわけで俺はトンネル目指してひたすらに走ってます。周りを見ながらね。

相手が迷彩服だったらこんなことしないけど、参加者のほとんどが学校指定のジャージ、青色だ。それもフィールドは森林。普段迷彩服で撃ちあいをしてるサバゲーマーにとってはパッと見でも判別できる。


(ま、あの二人はどうだかな)


 あの二人とはもちろん陣と大岩の事だ。

 あの二人は同じサバゲーマーだが、まだ共同出撃したことがない。言わば実力未知数だ。しかも同じ迷彩服を着ている。動いていなければ判別は難しいだろう。それに説明会の時に聞いた装備からして二人ともアタッカーなのは確実。この場合、今回のゲームで一番の脅威は陣だ。なにせ陣は電動ガンも実銃も、小型で軽量、扱いやすいの三拍子がそろった傑作短機関銃、MP5を引き当てた。集弾性もアサルトライフル並にあるし正直出くわしたくない。

大岩に関しては……、本当に何も言えないな。データ不足だ。許してちょ。


(確かこのあたりだったよな……、お、あった)


そうこうしてるうちにトンネル入り口に到着。

目の前にはコンクリでしっかりと固められた出入り口が、人一人が通れる最低限の大きさで口を開けている。

部長氏の警告通り電気はついてなく、昼間であっても進んで入ろうとは思わない場所だ。え?夜?馬鹿なの?死ぬの?


(よっしゃ!幽霊でもなんでも、銃なんか捨ててかかってこいってんだ!)


一瞬入るのをためらったが、意を決して突撃。抜き足差し足千鳥足……じゃなかった、忍び足で進む。

一応フラッシュライトを持ってきているがまだつけない。もし先客がいたら気づかれちゃうからね。常識だね。

にしても暗い。とにかく暗い。どれくらい暗いかって?夜に部屋閉めきって暗幕閉じた時より暗い。そんでもって怖い。暗さがいい仕事しすぎてる。もっと休んでもいいのよ?


(そういや人を暗い部屋に長時間閉じ込めると精神崩壊するんだっけ)


いかん、思考がアカン方向に……。

五十メートルほど進んだところで一度立ち止まり耳を澄ましてみる。



   ……………………………………………………。



静寂。この一言に限るね。誰もいないようだ。よかった!ライトをつけれる!

そして俺はライトをつける。すると目の前には……、


白骨化した動物の死体が転がっていた。



「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



ゲーム開始十五分経過、SAN値、ピンチ。




(ん?なんか悲鳴のような音が聞こえた気が……、気のせいか)


ゲーム開始十五分が経過し、私こと佐村陣は、スタート地点から十分くらいの、地図ではちょうどトンネルの中間付近のトーチカ近くのバリケード内にいた。

別に芋ってるわけじゃないよ?これにはしっかりと訳があるんですよ。それはね……、



カツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツ!! 「イツマデカクレテンダーーーー!」「デテコイヤーーーーー!」「ヒャッハーーーーーーーー!」



はい。絶賛狙われ中です。ブラ○ト艦長も納得するんじゃないかって思うくらい凄い弾幕です。

全く誰だ!くじに軽機関銃とか書いたやつ!一つならまだ許せるが三つも入れやがって!全部俺に降りかかってきてるじゃねーか!俺が何したってんだ!

しかもあいつら信長の鉄砲三段撃ちみたいに入れ替わりに撃ってくるからなかなか反撃できない。弾切れを待とうにも距離を詰められるし。


(クソッ!発射音が聞こえてきた!このままじゃやられる!何か手はないか!)


俺はふと横を見る。


(あ。これだ!)


そこにはトーチカの脇。そこには扉があり、板で塞いであるが立てつけも悪く、強い力を加えれば取れそうだった。


(えーい!畜生!やるっきゃねー!)


自衛隊でいう第四匍匐ほふくで弾幕をやり過ごし、扉の前に到着。ここは丁度トーチカの陰になっているため弾は届かない。

扉の前に立ち、思いっきり扉を蹴りつける。すると扉は大きな音を立てて後ろに倒れた。


(やった!予想通り!)


すぐさま中に入り、吹っ飛ばした扉を不恰好ながら元あったところに立てかけて、近くにあった机であったであろうもので固定する。これでごまかせるか分からんが何もしないよりはましだろう。


「助かったー。怖かったー」


俺は自然と声が出ていた。


「えっと、何があったの?」


「はぁ~、軽機関銃を持った男三人に追われてたんだ。でもこれで一安心だ」


「そっか。よかったね」


「あぁ、マジでよかっt……」


ん?俺は一体誰と話してるんだ?あ、そういえばクリアリングしてねー……。でも女の声だったから幽霊かな?


(アカン)


「「「……………。」」」


背中に嫌な汗が流れる。


「あれ?その服って迷彩服?じゃあ……」


バッ!ピカッ!



「わぁ!」


「きゃぁ!」


続きを聞く前に俺は素早く持っていたフラッシュライトを一瞬だけ光らせてトンネルを彼女たちがいる方向とは反対側に向けて次の行動を見越して匍匐で進んだ。


「このー!逃がすかー!」


案の定撃ってきた!

でも目が使えない以上狙いながら撃つことは出来ないため、弾は明後日の方向へ飛んでいく。しかし……、


「おい!この中から音がするぞ!」


「なに!?今行く!」


やばい!ヒャッハーさんたちも来ちまった!ここまでか!?


「クッソ!開かねー!」


机先輩ナイス!

机先輩に手間取っているヒャッハーズと、弾切れになったUZI(さっきチラッと見えた)を振り回す女の子を置いて、俺はその場から戦略的撤退を敢行するのであった……。




(………発射音が聞こえてくるってことは結構近いところで撃ちあってるな。ここもそろそろ危険地帯かな?)


スタートから大体二十分くらいが経過し、俺、大岩は装備の都合上あまり前に出ることが出来ないため、丁度目の前にあったVを逆さにした形のバリケードに身を隠した。休み休み索敵していると断続的な射撃音が聞こえてきたため、木の枝を積み重ねたバリケードから頭を半分出し、音のする方を慎重に覗いてみると、……居た……。FAファ-MASマスを持った奴が一人と、倍率スコープを付けたG3/SG-1を持った奴が一人の計二人。距離は四十メートルといったところか。

FA-MASはフランス軍で使用されているブルパップアサルトライフルで、見た目から『トランペット』の愛称で呼ばれている。最近の事情はよく知らないが、滅多に自国の物に文句を言わないフランスが『クソ銃』と言ったほど評判が悪かったとか。なにも秒間二十発という連射速度のせいで一マガジンを一秒で撃ち尽くすから、すぐに弾がなくなるということで兵士からは不満があったそうな。

だがこれは実銃の話。電動ガンの場合これはプラスに働く。

先ず、ブルパップだけあり軽く、バレル長も通常タイプの電動アサルトライフルと大して変わらないため射程と集弾性が高い。駆動部の騒音は多少あるが、そこまで大きい音ではないため問題ない。さらに実銃と同じく秒間二十発近い速射力があるため、多弾マガジンを使うことにより弾幕を張ることも出来る。まさしく実銃と電動ガン良い所を集めた傑作電動ガンなのだ。

G3/SG-1はかの有名なドイツのHヘッケラ&(ーアン)Kドコッホが制作したアサルトライフルで、バトルライフルとも呼ばれている自動小銃だ。実銃は狙撃銃としても使えるくらい命中精度が高いが、電動ガンの場合は、重いし集弾性もあまり高くないので正直ゲームで使ってる人をあまり見たことがない銃でもある。ただ今回は倍率スコープが取り付けてあるため、監視能力が高いという面においては油断は出来ないのには変わりはない。



(あっちは連発可能、こっちは単発、それもボルトアクション。無駄な戦闘は避けるべきだな。幸いあっちはまだ気付いてないようだし)


俺は前方の二人を監視しつつ、左右も警戒する。敵は目の前にいるとは限らないからね。しかし……、


(あと少し……)


あと少しでお互いに射程外になろうとしているときにそいつは現れた……。



     カサッガサッ



突然右隣で物音。石か何かだろうと最初は気にしなかったがこれは違った。



     カサカサカ



明らかに動いてる。これに気づいた俺は咄嗟とっさに銃を向けた。

向けた瞬間、飛び掛かって来ようとした細長い何かは銃に体をぶつけバリケードの内側の壁に叩きつけられた。そう、そいつは………、



日本に生息する毒蛇の代表格、『二ホンマムシ』




「―――ッ!!?!」


姿を認識した途端の俺の行動は早かった。

すぐにバリケードから飛び出し全力で左に転がる。次の瞬間マムシはさっきまで俺がいたところめがけ、毒牙を出しながら飛び込んでいた。


(っぶねー!蛇が出るなら先に言ってくれよ!)


「おいあそこ!誰かいるぞ!」


「ホントだ!迷彩服がいる!」


「みんなー!こっちに迷彩服がいるぞー!」


見つかった上に増援まで呼ばれちまった!

だが焦るなよ俺。まだ射程外だし相手は素人。落ち着けば対処は可能だ!


(こんなところでシモ・ヘイヘごっこをすることになるとはねー……)


俺は枢軸の人外ズの一人である天才スナイパー、シモ・ヘイヘの事を考えながら弾を装填。丁度良いスポットを探しながらひたすら山を走り回った。


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