Viarl book(300字SS)

 男は路地を歩いていく。萎びた花束を警察の名の入った看板を、無感動に視界の隅に収めながら。

 ふと過ぎる影に足を止めた。淡く光って女の形が浮かび上がる。


 ――噂があった。


 影はゆっくり面を上げる。

 整った顔を触りの良い黒髪が縁取っている。大きな目が男をぼんやり捕らえていく。

 どくり。男の心臓が音を立てる。どくり。

『探しているの』

 女の顔に痣が生まれる。服が裂け、大きな瞳に涙が浮かぶ。


 ――タブレットを渡り歩く幽霊の。


 男は慌てたようにタブレットを引っ張り出す。震える指でePUGの終了コマンドを画面に探す。探す。探せずに。


『ねぇ――』


 男はタブレットを、叩き割った。


 影は消える。

 街灯のない暗い路地に、男の荒い息が響く。

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