唐突の転校生(丁)

 あかねさんが校門の前に立っていた。99.9%何か企んでいる、そんな顔で生徒会長が校門の前に立っているのだから、注目の的である。


「来たわね。」


どういう訳か嬉しそうに言った。嬉しいのはあかねさんだけだと思う。


「——あ、可愛くなったじゃない。」


あかねさんはシオンの頭をワシャワシャと撫でた。


「ん……」


シオンはあかねさんの手を嫌そうに払いのけた。



 夏織かおりが明らかに物言いたげだった。俺は夏織かおりに目配せをする。分かってるわよ、と小声で、それはそれは不機嫌な声で、反応が返ってきた。



 あかねさんは、今度は夏織かおりの肩を叩いた。


「じゃ、夏織かおり、宜しく。」


夏織かおりはデカい舌打ちを一発した。


「仕様がないじゃない。一般人しかいない教室にまがりを入れるのは不安なのよ。」


「姉さん、一般人ばかりの学校にまがりを入れるのには不安がなかったの?」


最もな意見だ。そもそも、まがりを学校に通わせるという考えがあり得ない。


「あら、この決定が私だけのものだと思ってるの?」


「そうじゃなきゃ誰が?」


あかねさんは夏織かおりが答えを見つけるのを待つようにただ微笑んでいた。実に性格が良い。


「……まさか……、いや、でもあの人はさすがに……」


夏織かおりが呟く。


「そのよ。」


みのるさんが!?」


「ええ。」


「当主なのよ。そんなこと……。だって、まがりを学校に……。」


「まあ、夏織かおり保守的みぎよりだものね。」


「姉さんは左に寄りすぎよ。むしろ、頭、おかしいんじゃないの? それより、本当にみのるさんが決定したのよね? つまり、士示しし家としての判断ということなのよね?」


「昨日そう決まったわ。」


あかねさんが勝ち誇った顔をする。


「分かりました。従うわ。」


夏織かおりは再び大きく舌打ちをした。


〈狂ってる。〉


夏織かおりのその呟きは、恐らく俺にしか聞こえていなかっただろう。



 カラン……、カラン……。下駄の音が聞こえた。周りの生徒が妙に静かになって、ヒソヒソとした話し声が四方八方から聞こえてくる。



 嫌な予感がする。



 振り向けば、三隹みとりさんがこっち向かって歩いてきていた。



 ああ、やっぱりそうか。


「ごめんなさいね。手続きは私も必要なのよね。」


「ええ、来ないからどうしたものかと思ってたわ。」


あかねさんが愛想良く応えた。いつもよりは高圧的じゃない、とする方が正しいかもしれない。


「シオン、行きましょう。あかねさん、案内してくれるかしら?」


「もちろん。」


そうしてあかねさん、三隹みとりさんに加えて三隹みとりさんにピッタリとくっ付いたシオンが校内に入っていった。


────────


 その日の昼休み、俺、夏織かおり、それにあかねさんと詩音しおんに揃っていた。漢字名は夏織かおりが教えてくれた。


「姉さん、朝は時間が無かったけど、今度は話してくれるわよね?」


夏織かおりあかねさんに詰め寄った。


「何のことかしら?」


嘘つけ、分かってるだろ。


詩音しおんのことよ。私にくっ付きぱなっしで大変だったのよ。」


「まあまあ、そう怒らないの。詩音しおん、まだ慣れてないのよ。」


三隹みとりさんが夏織かおりの肩を叩いた。


「まあ、私も悪いとは思ってるわよ。」


あかねさんも夏織かおりの肩を叩く。思ってるわけねぇだろ。


「もう面倒臭いからそういうことで良いわ。じゃあ、私と詩音しおんはこれで。……次、体育なのよ。」


夏織かおり詩音しおんの腕を引っ掴んで、部室から出ていった。



 あかねさんが俺の方を見ていた。


「何ですか?」


「今日は巡回、無いわよね?」


「ああ、はい。どうかしましたか?」


「別に。」


あかねさんは言った。



 ……妙な沈黙が漂った。


「ああ、そうそう、私、ちょっと三隹みとりさんと話したいから席を外してもらえる?」


あかねさんに言われて、俺は部室を出た。


────────


 放課後、俺は士示ししの本拠地である四重草神社にいた。二日ぶりの帰宅である。



 酒臭い神主が玄関に座っていた。


「おやおやぁ、はじめぇ君、久しぶりです。」


ダメだこいつ。酔ってやがる。つーか、今朝、寝込んでたんだよな?


「昨日、会いましたよね?」


「そうでしたかぁ? ああ、そうだったかもしれません。」


「そうですよ。ああ、もう……、とりあえず帰ったらどうですか?」


「そうですにぇ。」


和泉いずみさんは靴を履いてふらふらと出て行った。酒臭さだけが玄関に残っていた。



 あの野郎、あれで神主やってるんだよな。俺だったら参拝したくはないけどな……。



 俺の部屋には札が散乱していた。あ、片付けるの忘れてた。


「はぁ。」


ため息をく。


「——片付けるか。」


俺は札をまとめ始めた。



 作業には思いの外時間が掛かった。時計を見たら1時間近く経っていた。



 コンコン、ノックする音が聞こえた。


「はい?」


はじめ、入って良いかしら?」


あかねさんの声だった。


「どうぞ。」


あかねさんが部屋に入って来た。



 あかねさんが部屋に入るとき、さり気なく結界を張ったのを俺は見逃さなかった。どうやら内密にしたいらしい。



 あかねさんは俺のベッドに腰掛けた。


はじめ、私が何言いたいか分かるわよね?」


「分かったら苦労しませんよ。」


「あら、私、苦労かけてた?」


「自覚ないんですか?」


「さあ?」


「で、何なんですか? まさか、こんな茶番のために来たんじゃないですよね? わざわざ結界まで張って。」


「あら、バレてたの。そうそう……、ちょっとまだ確信はできてないのだけど……、、発生しそうだそうよ。」


「ああ、またそういう時期ですか。いや、早すぎるじゃ……。それに何だかこの辺りばかり出てる気がしますけど?」


前にやったのは5年前だった気がする。確かの発生周期は10年程度のはずだ。


「そういうこともあるのよ。今回はお隣の寺金市が発生源みたいだけど、ほぼ確実にこっちに来るでしょうね。」


「何故、他の禍禊まがらいが倒し損ねた物の尻拭いを俺達がするんですか?」


「まあ、そう言わずに……ね? それにまだ不確実な情報よ。じゃあ、私は月公寺に行ってるから、夏織かおりにも伝えといてね。」


俺が何か言う隙を一切与えず、あかねさんはさっさと部屋から出て行った。



 夏織かおりにも伝えておけって……、そりゃ相当確信があるって言うんじゃないか?


****後書き****


よし、やっと2話目に入れるぞ!

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