同性愛と音響性愛

第1話







両耳にイヤホンを入れて、何時もより音量を三つ程大きくする。

携帯をポケットに仕舞うと、俺は机にうつ伏せた。


俺は、放課後になっても教室に居座って、ある人を待つ。

その時に、必ず好きな曲をこの静まり返った教室で聴く。

誰にも邪魔されない。

俺だけの空間。


この時間が、堪らなく好きだった。





お気に入りのリストにある、一番最初の曲を再生する。



それはオーケストラで、演奏されている曲だ。

俺の一番好きな曲。

別にオーケストラを、良く聴いている訳では無い。


以前、吹奏楽部に入っていた時に、演奏することになった。

だから知っているだけで、専門的なことは、全くわからない。


オーケストラの曲で、よく寝てしまう俺だけど、これは比較的聴きやすくて、面白いと思う。

そして今では、すっかりはまってしまった。



一番好きなところは、timpaniでリズムが刻まれた後に来る、tubaなどのlow brassが、吹く音とリズム。


追い込まれる。

心地よい重みのある音と、広がる威圧感。



「…っはぁ、…はぁ…」



苦しい。

息が、上がる。


頭の中が、ぐちゃぐちゃになっていく。

熱い。熱い。



――あぁ…好きだ。



好きだ。好きだ。好きだ。



「……かはっ……」



こみ上げてくるもののせいで、喉が詰まる。

自分の髪を掴んで、ぐしゃっとしてしまう。

あ、駄目だ。

このままじゃ、飲み込まれてしまう。


愛しい。愛しい。

君を取り込んでしまいたい――










「馬鹿ハル!」




心地よい声が聞こえたかと思うと、右耳のイヤホンを、引っこ抜かれた。





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