大仏清掃員とおばあさん

竹熊悪魔

大仏清掃員とおばあさん

今日僕はあの頃から貯めたお金を全て使い仏像を買った。


「お父さん、なんでこんなに大きいピカピカの買ったの?」


息子の謙太に羨ましそうな不思議そうな声音で問われた。


「少し長くなるけど聞いてくれるかな?」


「うん!」


息子は僕の膝の上に座り耳を傾けた。


「お父さんが高校生の時の話なんだけどね…」




2020年夏、当時高校2年生だった僕、神坂伸謙には2人の親友がいた。田ヶ原慎二と牛丸武志、卓球好きという共通点から仲良くなった。


「みんな楽しい夏にしてね。気をつけ、礼」


『さよならー』




「伸謙、ファミレスでパーっとやらないか?」


「武志がいいならいいよ」


「俺もいいぞ」


「んじゃ、鎌ケ谷大仏前に12時半な」





「おっす武志、慎二は?」


「トイレしに一旦家に戻ったぞ」


「んじゃちょっとかかるか」


「うん。てか、鎌ケ谷大仏汚れてきてるな。アルバイトする人いないのかな」


「武志が掃除すれば?」


「家の手伝いが忙しいからな」


「そっか」


「伸謙がやれば?ラバー買いたいなぁ〜とか言ってたじゃん」


「考えとこ」



「おーーーい」


「あいつチャック開いてね?」


「武志よく気がついたな」


「黙ってよう…」






「2人とも早く決めろよ、俺は決めたから」


慎二は、教えなかったことに腹を立てているようで催促してきた。


「僕も決めた」


「俺はピザにポテトにソフトドリンクも…」


「武志さんは羽振りがいいですねぇ」


「嫌味か」


「んじゃ頼んじゃうね」


慎二と武志が言い合いしてる中、伸謙は注文した。



「俺アルバイトしようと思う」


「んだよ急に」


「あれやるの?」


「そうそう、8月の最初にやろうかなと」


「あれってなんだよ」


「鎌ケ谷大仏の掃除」


「あーあれか」


「伸謙は部活あるだろ?どうすんの?」


「なんとかするよ」


その後は他の話題で盛り上がり、夜になるまで喋り倒した。




家に帰ると父さんが帰ってきていた。


「おかえり」


「そっちこそ、おかえり」


「あぁ、遅かったな」


「ファミレス行ってた」


「羽目を外しすぎるなよ」


「うん。ねぇ父さん、急なんだけど鎌ケ谷大仏の掃除のアルバイトやっていい?」


「なんでだ?」


「いや、新しいラバー買いたいなぁと思っててさ、勉強にもなるし…」


「部活は大丈夫なのか?」


「なんとかするから」


「ならいいぞ」


僕は、気難しい父さんが許可してくれることに内心とても驚いていた。




8月3日、今日から掃除を開始する。いざ始めようとしても、太陽の熱と蝉の鳴き声が邪魔をしてなかなか集中できない。そんな中、ひと段落ついたところで飲み物を買おうと自販機に行くと陽炎に包まれた重い荷物を運ぶおばあさんがいた。僕はおばあさんに駆け寄った。


「手伝いますよ」


「ありがとうねぇ、それじゃ手伝ってもらおうかなぁ」


気の抜けたような返事に若干脱力しながらも代わりに荷物を持った。


「最近の若い子でもいい子はいるんだねぇ」


「そんなことないですよ。この間なんか…」


おばあさんと話をしながら、おばあさんの家まで荷物を運んだ。


「家まで運んでもらうことになっちゃってごめんねぇ」


「大丈夫ですよ、それでは仕事が残ってますので」


「大仏様をちゃんと綺麗にしてあげてなぁ」


「頑張ります!それではまた」


「じゃあねぇ」



その後大仏を掃除し、家に帰宅した。


明くる日も猛暑の中掃除をした。すると、また陽炎を見に纏うようにおばあさんがいた。重い荷物を引きずるように歩く姿はどうしても手伝いたくなってしまう。


「おばあさん手伝いますよ」


「おやおや、伸謙君かい。ありがとうねぇ。それじゃよろしく頼むよ」



次の日また次の日もおばあさんにあった。そんな中、雨の日が来た。雨でもおばあさんに会えるかもしれないと、僕は張り切って掃除をしていた。だが、おばあさんに会えなかった。


次の日は曇りだった。雨が晴れたから会えるだろうと思った僕は、意気揚々と掃除をする。しかしまたもや会えなかった。


次の日、今日がアルバイトの最終日。太陽は燦燦と輝き陽炎が踊り出す。今日が最後だからと隅々まで掃除をする。すると、おばあさんが声をかけてきた。


「頑張っとるなぁ、お疲れさま」


「ありがとうございます。今日で掃除が最後になるので挨拶しようと思っていました」


「そうなのかい、残念だねぇ」


「なんかすいません」


「気にすることはないよ、綺麗にしてくれてありがとうねぇ」


「いえ、仕事ですから」


「ちゃんと掃除する子には神様の御加護を授かれるかもねぇ」


「神様って本当にいるんですかね」


「あたしが神様だって言ったらどう思う?」


「…結構悩みますけど、信じると思います。おばあさんからはなんとも言えないオーラ?みたいなのが感じられるので」


「つくづく面白い子だね。今度縁があれば摩利支天って神様の神社に行ってみな」


「?わかりました」


「あたしは遠くに行くからもう会えないねぇ。寂しがらないでよぉ」


「寂しがりませんよ」


「ほんとかい?」


「ほんとですよ」


「それじゃあね」


「はい、さよなら」



その後、おばあさんに会うことはなかった。


数日後卓球の大会が行われた。その前日に神社に行き参拝すると、不思議と体の内から力が湧き出てきた。結果は優勝。おばあさんが言ってた御加護とやらを授かることができたと確信できた。


それ以来定期的に神社に参拝するようになった。しかし大学生の頃、もういっそのこと仏像を買ってしまえと思いお金を貯め始めた。





「ということがあってね、嘘みたいだけど本当のことだよ。…あれ?寝ちゃったか」





鎌ケ谷大仏を大切にしたい。

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