第23話 森の女王の手紙

 灰色に黒毛が幾本か混じったような尻尾がふりふりと揺れている。

 右を見ても、左をみても、尻尾がふりふりと揺れている。

 シンノでは無い。

 大人の、男の、狼人の尻尾である。

 前を10名、左右に5名ずつ、後ろに5名。

 明け方、まだ薄暗い内に、森の女王の出迎えだという灰狼人が20名もやって来たのだ。

 シンノ一人を連れて行くと言い出したら、全員を土に還すつもりだったが、特に何も言わずにトリアンの同行を黙認していた。

 これまで見かけた狼人の中では一番強そうな雰囲気だ。

 個々の強さはシンノに劣りそうだが、集団戦になると手強そうである。

 着衣の質も良さそうだ。揃いの鎖帷子の上に革鎧を着て、小型の楯と長剣を腰に、槍を持った者と弓を持つ者に別れる。

 一人、隊長格の男だけは、筒の長い魔導銃らしき武器を背負っていた。

 樹上を短弓を持った小柄な狼人が10名ほど枝から枝へ跳びながら付かず離れずついてくる。

 そんな一行を巨樹の頂近くで見下ろしている影があった。

 後ろに大きく突き出た禿頭が特徴的な、青黒い肌の怪人である。


「よく見えるか?」


 不意の声に、


 ゲィッ・・


 喉が詰まったような声を発して振り向いた、その眉間をトリアンの細身の短刀が貫き徹した。

 トリアンは歪な頭を鷲づかみにして握り潰すと、もう一つの潜んでいる気配に向かって跳んだ。

 ほどなく、トリアンは地上に戻った。

 何事も無かったかのように歩き出したところで、シンノが手を繋いできた。


「ししょう?」


 見上げるシンノに、


「騎士というのは忙しい」


 トリアンは小さく笑って見せた。


「なにか居た?」


「青黒い奴が2匹」


「むぅ・・1つしか分からなかった」


 シンノがむくれる。

 トリアンは無言でスイレンの収納から状態異常の回復薬を取り出しシンノに手渡した。自分の薬も取り出して、すぐに口に含む。シンノも大急ぎで蓋をとって薬を呑んだ。

 やや遅れて、灰狼人達が口元を抑えて警戒の声をあげ始めた。

 隊長格の男が声を発して、シンノを中央に二重の円陣を組む。樹上から3人、狼人が落下してきた。3人とも、顔と喉に長い針を受けている。

 シンノとトリアンは背を合わせて立った。

 飛来した長針を打ち落としたのはシンノだった。纏った風が無数の鋼線でも舞わすかのように細く圧縮された帯となって宙空を跳ね舞い、指ほどもある太い長針を弾き落としていた。

 その数、9本。

 慌てて振り返った灰狼人達だが、見るからに反応が遅い。

 風に乗って何かの香が漂っていた。周辺からじわじわと包むように焚かれていたらしい。ごく微量ながら、狼人の動きを鈍らせるだけの効果がある。


「行け」


 トリアンの声に、待ってましたとシンノが飛んだ。

 風を纏ってまっしぐらに樹上めがけて飛翔する。それを追って動こうとした気配がトリアンの視線を浴びて留まった。

 姿は先ほどの怪人に近しい雰囲気だが、頭部は小さく代わりに腕が細くて長い。腕は左右に2本ずつ四本ついていた。

 四本腕の怪人は、巨樹の幹に貼り付いている。

 しかし、灰狼人の眼には見えていない。

 保護色というには、あまりにも色が似過ぎている。怪人の肌色、模様は貼り付いている巨樹の幹そのものだった。


 ゴアァァァァァ・・・


 獣じみた咆哮があがった。

 シンノが始めたらしい。ちらと見ると、相手は巨大な熊のような生き物だった。もっとも、トリアンの知っている熊は頭や背中に尖った角は生えていないが・・。


「おまえは、おれが相手をしておこう」


 怪人が苦鳴をあげて宙へ逃れた。腕が1本切れて地面に落ちていた。

 背後に浮かび上がるようにして出現したトリアンが短刀を振り下ろす。ぎりぎりで手甲をかざして受け止めた怪人が大きく口を開けた。

 牙が並び、涎が糸を引いて垂れる、その口から火炎が噴き出された。

 放射状に大気を焦がして噴射された火炎を、トリアンは平然と浴びながら前に出る。

 肉迫したトリアンの短刀が下から上へと怪人の足を狙って斬り払う。

 しかし、氷の板のようなものが出現して短刀が食い止められた。

 怪人が樹上へ跳んだ。

 追ってトリアンが地を蹴る。

 今度は小さな氷柱が連続して放たれ、宙へ跳んだトリアンを襲った。空を飛べない生き物なら回避が出来ない状況だったが、トリアンは飛来する氷柱を足場にして向きを変え、怪人のさらに上方へと身を躍らせた。

 3本腕の怪人が驚愕に眼を見開き何かを叫んだ。

 咄嗟の魔法で、3本腕の怪人が自分の周囲に分厚い氷の壁を出現させた。

 構わず、トリアンが拳を叩きつけた。

 固いはずの氷が一撃で粉砕されて崩れ去っていた。

 恐怖に眼を見開いた怪人が口から真っ黒い霧のようなものを噴き出してトリアンを包み込んだ。その霧すらも、トリアンが手を振るだけで打ち払われて消えた。

 

 カヒェッ・・


 短く絶息の音を漏らして怪人が仰け反った。

 その背を、トリアンの手刀で貫き徹している。指が怪人の内臓を握り潰した。

 苦悶の中で、怪人が首を捻って口から炎を噴こうとした。

 その顎を上へ打ち上げ、トリアンは短刀で怪人の頭頂を刺し貫いた。

 ぼろぼろと崩れる怪人から魔素玉を取り出して収納させつつ、トリアンはシンノの方を見た。

 熊のようだった化け物が、二回りも大きくなり、喉首や肩辺りから蛇のような触手を何十本と生え伸ばしていた。長い獣毛の間に固そうな鱗皮が見えている。

 シンノの風刃を受けても、わずかな傷しか負っていない様子だった。

 灰狼人達が包囲しつつ隙を見て矢を射かけ、槍で突いている。シンノとしては、ちょろちょろ立ち回っている灰狼人達が邪魔で、大威力の魔法を撃ちたくても撃てないのだろう。銀毛の尻尾が苛々と逆立って小刻みに震えていた。


(まあ、頑張れ)


 トリアンは、樹上高くに移動して周囲を見回した。

 四本腕の怪人が足止め役で、急襲するための本隊が別に来ているだろうと思ったのだ。

 しかし、


(・・いない?)


 トリアンは内心で首を傾げた。


(まさかな・・)


 四本腕の怪人と熊の化け物だけでシンノを害そうとしたのだろうか。

 そうだとすれば、随分となめられたものだ。

 トリアンの双眸が眼下の戦闘へ向けられた。

 どうやら忍耐の限界が来たらしく、シンノが風雷を纏って宙へ舞い上がっていた。

 化け物の触手のようなものが灰狼人を数人獲らえて持ち上げていたが、構わずに吹き飛ばすつもりらしい。

 周囲の空気が歪むほどの魔法がシンノの手元で圧縮されていく。

 灰狼人達が懸命になって剣を振り、槍を突いて仲間の救出に走った。

 委細構わず、シンノの魔法が放たれた。

 着弾は瞬時である。

 間など無い。

 化け物が内から爆ぜるように粉々になった。直後に雷鳴が轟き、竜巻が上空高くへと渦巻いた。

 トリアンは巨樹の枝を蹴って、地上へと飛び降りた。

 シンノの頭に軽く手を置きながら、前に出て灰狼人達の視線を遮った。

 ぎりぎりで仲間を救い出せたようだが、危うく巻き添えに殺されかけて怒りを含んだ眼差しを向けている。

 しかし、すぐに灰狼人達が視線を伏せた。


「ししょう?」


 シンノが見上げる先で、トリアンは冷え冷えとした怒りを宿した双眸で灰狼人を見ていた。


「道案内に一人残せ」


 トリアンは灰狼人の隊長格の男に向かって言った。

 言外に他の者は帰れと言っている。


「おまえ達は単なる障害物だ。行動の邪魔にしかならない」


「き、貴様ぁ・・」


 若い灰狼人が拳を固めて前に出ようとした瞬間、トリアンの眼光が射貫いた。

 周囲にいた他の狼人共々、身を震わせて腰砕けに座り込んでしまった。


「邪魔だから失せろと言っている。人の言葉は分かるか?」


 トリアンの口調が段々と危険さを帯びてきていた。

 シンノが冷や冷やとしながらトリアンを見上げ、灰狼人達を見る。危険な兆候なのだ。シンノの師匠はびっくりするくらい怒りの導火線が短い上に、破裂したら冗談抜きで地形が変わる。

 じわりと半歩ずつ離れながら、シンノは風の防壁を纏っていた。自分の身を護るために。

 すでに、トリアンから怒気が揺らぎ立って息苦しいほどの熱が辺りを包んでいた。

 灰狼人達は完全に死地にいた。

 呼吸すら満足に出来ずに苦しそうに口を開けて身を震わせている。


「おれは去れと言っている」


 トリアンの手が細身の短刀を抜いた。

 おろおろと心配顔で尻込みしながらも、今動けるのはシンノしかいない。

 このままでは、灰狼人達は全員が土に還る。

 かと言って、半端に止めに入ると怒りの鉄拳が降ってくる。

 頭を割られるかもしれない。

 ぎりぎりまで悩んで、シンノは両手で自分の頬を軽く叩くと全力で風の防壁を強化しながら走った。


「そ、そそ、そ・・そこまでぇぇぇ」


 シンノが制止の声をあげながら、トリアンめがけて突っ込んだ。

 来るぞ、来るぞと怒りの鉄拳を覚悟しながらの突進だったが、


「あ・・あれ?」


 いきなり、ふわりと持ち上げられていた。

 頭から投げ落とされる?地面に叩きつけられる?

 そう来たか、と受け身を意識して身を捻ろうとしたシンノだったが、


「ふわぁ?」


 気づけばトリアンに横抱きに抱えられていた。


「冗談だ。心配するな」


 先ほどまでの殺気が嘘のように晴れ、トリアンが愉しげに目尻を下げている。

 からかわれたと知ってシンノは真っ赤になって頬を膨らませた。

 冗談じゃ無く決死の覚悟で特攻したというのに・・・。


「そう怒るな」


 いつになく優しく地面に下ろしてもらい、シンノは腰が抜けそうなほどの驚きに眼を見張っていた。


「さて・・」


 トリアンが灰狼人達を見回した。


「どっちへ行けば良い?」


 ぽかんとした空虚な空気が漂う。一拍、二拍・・と沈黙が続いた。

 シンノの尻尾の毛が逆立った。


「さっさと答えて!おそいっ!」


 7歳の少女に叱咤されて、


「あ・・ああ、向こうだ。すぐ案内する」


 隊長格の灰狼人が立ち上がって、木々の奥を指さした。

 その様子を、耳と尻尾の毛を逆立てたシノンが小さな拳を握りしめて睨んでいる。その拳で小さな電流がパリパリ音を立て明滅している。

 大急ぎで灰狼人達が歩き出した。

 樹上にいた連中も皆下に降りて地面を歩いている。


「走れないか?」


 トリアンのリクエストに、灰狼人達が一斉に走り始めた。

 続いて走りながら、


「遅い」


 トリアンが不平を鳴らす。

 灰狼人達が懸命の形相で速度をあげた。

 それでも、トリアンとシンノにとっては眠くなるような速度だったが、灰狼人達は負傷者を抱えている。これ以上は無理なのだろう。

 シンノが風の魔法で負傷者6人を持ち上げて浮かび上がらせた。

 そのまま無言で速度を上げる。

 慌てて灰狼人達が全力の疾走を開始した。

 無駄に急いでいる訳では無い。

 のんびり行くと、次の敵が寄ってくるのだ。灰狼人が退治してくれれば良いが、どうやら期待できそうにないから仕方が無い。

 一人二人と、脱落者を出しながら、もの凄い勢いで樹海を駆け抜けて深部へと辿り着いた時、自力で走っている灰狼人はたったの3人だった。残りは、シンノの風で運ばれている。


(・・なんだ?)


 空気に微妙な違和感を覚えて、トリアンは背後を振り返った。


「結界を抜けました」


 灰狼人の隊長が教えてくれた。


「結界?魔法か?」


「はい。法具による結界が張られています。魔素から生まれた妖鬼どもは侵入できなくなります」


「便利だな」


 トリアンは振り返って見えない壁がある辺りを見回した。


「まずは、森の女王様にお会い頂きます」


 灰狼人の隊長がシンノに言った。


「おれも同席できるか?」


 横から、トリアンは訊ねてみた。


「無論です。シンノ殿の保護者としてお立ち会い頂きます」


「まずは、と言った?」


「女王様の御用事が終わりましたら、我らが族長にお会い頂けませんか?」


 灰狼人の隊長がやや熱の籠もった視線を向けてくる。


「女王と族長は別か?」


「女王様は人では・・いや、ご自身でお確かめ下さい。族長は別におります」


「分かった」


 トリアンは顎に手をやりつつ頷いた。


「良いよな?」


「うん、良いよ」


 シンノが真似をして顎に手をやりつつ頷いた。

 しばらくは巨樹の連なる小道が続いたが、ややって広々と開けた場所に出た。

 トリアンが思い描いていたような大きな樹が家になっている・・・という事は無く、丸太を乱暴に積み上げて組んだ壁をした家が建っていた。ただ、使ってある丸太が、樹海の巨樹である。枝を打って、木皮をこそぐくらいはしてあるようだったが、切り割りもせずに丸ごと一本を組み木に使ってある。

 とてつもなく巨大な丸木小屋であった。

 しかも、造りからすると5階建てくらいになっていそうだ。

 小綺麗な身なりをした若い女達が数人連れだって姿を見せた。いずれも、耳付き尻尾付きである。灰狼人の男達と並ぶと、いかにも似合いの、すらりと背丈があり豊麗な体つきをした女達だった。

 まずは湯の用意があるからと湯殿に案内された。女王に会う前に身なりを整えろという事だろう。

 ちゃんと着替えも用意があるという。至れり尽くせりであった。

 男女別に引き離されると聴いて不安顔になるシンノと別れ、トリアンは案内されるまま無骨な造りの浴場へ案内された。地面から湧き出る湯は湿原でも見かけたが、ここの湯は臭いが薄かった。

 手早く衣服を脱ぐと、洗っておくからと女が服を籠に入れて去って行った。


「お許し頂ければ、お付き合いしますが・・」


 代わりに、灰狼人の隊長が戸口で頭を下げた。


「勝手も分からないし、お願いしようかな」


 トリアンは素裸で湯気のあがる岩風呂を見回しながら答えた。


「・・まずはこちらで小桶で湯を汲んで浴びてください」


 同じく裸になった灰狼人の隊長が入り口脇にある泉水池のようなところを示した。

 指で触れてみると低い温度の湯だった。

 先にやって見せる隊長の真似をして、トリアンも湯で体を流した。

 いわゆる掛け湯というやつだ。


(どうも、この感じは記憶のどこかにあるな・・)


 一つ一つを説明されながらトリアンは内心で首を傾げていた。

 荒袋に何かが入った物を渡されて体を擦れと言われた。見よう見まねで試してみたら、中には石鹸が入っていたらしく、びっくりするくらい泡がたった。自分で作っていた石鹸より匂いも良いし、ひりひりしない。


(これは、作り方を習おう)


 トリアンは言われるまま、湯で体を流してから岩の湯船に浸かった。

 心地良い温度だった。


(シンノは熱いと言って騒いでるかもな)


 あの子は、ぬるま湯が好きである。トリアンは小さく笑いつつ、ふと視線に気づいて顔をあげた。

 灰狼人の隊長がやけに真剣な眼差しを向けている。


「なにか?」


「不躾で申し訳ないが・・トリアン殿は、おいくつでしょうか?」


「12歳のはずだ」


「そ・・それはずいぶんとお若い」


「そっちは?いや、歳はどうでも良いんだが・・名前くらい教えて貰えないか?」


「あ・・ああ、まったく、本当に失礼をしておりますな」


 灰狼人の隊長が自分の迂闊さに呆れたように笑いつつ、


「タンゼ・ロウと申します。里では戦士長を任されております」


「タンゼ・・戦士長か」


「わたしの立場で、あまり立ち入った事を訊くことは許されておりませんが・・お話し頂けるなら、シンノ殿・・・あの銀狐族の娘とお知り合いになった経緯をお教え願いたい」


 タンゼが躊躇いがちに、シンノと出会った時の事を訊いてきた。


「森の先に、湿原がある」


「はい」


「おれは、あそこで狩りをやっていた」


「あの湿原は・・魔物の巣窟ですぞ?」


「獲物が多いということだろう?良い狩り場じゃないか」


「はあ・・まあ、その通りですな」


「そこに、地蜂が巣を作っているんだが、子供を掠って飛んでいるのが見えて・・」


 シンノを助けてからの事をざっと話して聞かせた。

 多頭蛇に襲われたことも、罠に落として仕留めたことも淡々と話した。


「あれを・・やはり、あの魔物はトリアン殿が退治なさったのですな?」


「証拠に何か出せれば良かったんだけど・・ああ、玉をいくつか拾ったか」


「いえ、女王様がヒュドラが退治されたようだと仰っておられましたので・・」


「時々見かける、青黒い色した奴は何者だ?」


「・・妖魔族ですな。最近になって、この森にも姿を頻繁に見せるようになってきました」


「ようまぞく・・あれも人か?」


「さて・・どういうものを人と称するかの線引きが難しいですな。ただ、言葉を操り、ものを考え、衣服を着て、武器などの道具を用い、魔法を使う・・そういう生き物です」


「・・ややこしい」


「少なくとも、わたしが出会った妖魔族は好戦的で、弱者を殺戮することを好みます」


「ふうん?」


「妖鬼どもを操って集落を襲わせていたのも妖魔族です」


「・・あれは、そうなのか」


「妖魔族は、シンノ殿に何らかの特別な価値を見い出しているようで、森中の狼人や犬人を襲っている中で、何処かへ向かっている途中のシンノ殿を・・銀毛の狐族を見つけ出しました」


「あいつら、シンノを狙っているのか」


「女王様がそう仰っておられました」


「シンノは妖魔族にとって、どんな価値がある?」


「母にするのだと・・妖魔の神を生み出すための母体になると、これは女王様から教えられたことですが・・」


「まだ子供だぞ?」


「いずれ大人になります。それに、我ら獣人は体格の成長は早いのです。銀毛の者は例外的に時間がかかるようですが、それでも平地の人の子よりは早い」


「そうか・・あの子が妖魔の母親になるのか」


「いや、なってもらっては困るのです」


「ん・・ああ、確かにあんな気味の悪い奴らの母はちょっとな」


「母という表現をしていますが、何かの儀式によって化け物を生み出すための犠牲にするつもりだと・・女王様は仰っておられました」


(・・あれか)


 トリアンの脳裏に、下水路でのシーリスや化け物になった女達が思い出された。


「なにか、ご存じで?」


「エフィールという町で人の女を集めて薬漬けにしていた連中がいた。そいつらが、女達を犠牲にして化け物を喚び出したのを見た」


「なんと・・」


「やってたのは、妖魔とかいう奴じゃなくて、普通の人間・・魔導師に見えたけどな」


 会話の感じからして首謀者は金髪の青年だった気がする。あれも妖魔が変じていた姿なのだろうか。


「・・ああ、いや」


 確か、黒外套を着込んだ老人が居たはずだ。何かの魔法具を持っていたようだったが・・。

 あれが妖魔だったのかもしれない。

 となると、妖魔と人間が協力して化け物を喚び出そうとしていた事になる。


「森の女王に、訊きたいことが増えた」


 ぽつりとトリアンは呟いた。

 灰狼人---タンゼ・ロウが無言で頷いた。

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