トリコの心臓
ここは人形たちの住むパペット王国。ここに、ブリコという名の機械技師がいました。彼は寄せ集めの材料で機械人形を作ったり、壊れた人形を直したりして生活していました。
今日も彼は何かを作っていました。その様子を覗き込んでいる少女が一人。少女は生まれつき青い右目に赤い左目、そして透き通るような白い肌を持っていました。そのため、三色旗(トリコロール)にならって「トリコ」と名付けられました。
王国の外れには《人形の墓場》と呼ばれる場所がありました。ここには壊れたり飽きられたりして捨てられてしまった人形たちが集まっていました。
「今日は《人形の墓場》まで材料を調達しに行くが、トリコ、お前も来るかい?」
「うん」
トリコは元気よく返事しました。
墓場に着くと、ブリコはさっそくスクラップの山をごそごそとかき回し始めました。
「僕のそばを離れるんじゃないよ」
ブリコがそう言ったのもつかの間、トリコはひとりふらふらと歩いて行ってしまいました。
その様子を物影から見つめている者たちがいました。墓場の人形たちです。人形たちは互いに目配せすると、とびっきり怖い表情やしぐさをしながら、一斉にトリコの前に飛び出しました。
「わぁ」
トリコは腰を抜かしました。人形たちは得意げな顔をしました。
「あら?あなた、ずいぶんとぼろぼろな服を着ているのね。それにそっちのあなた、首が逆さまよ」
そう言いながらトリコは人形の首を直してやりました。
「ちょっと待ってね」
そういうと、トリコは引きずっていたトランクを開けて、中からヒラヒラのたくさんついた可愛らしい洋服を取り出しました。トリコはどこへ行くにもたくさんの着替えを持ち歩いているのです。
「さ、これに着替えて。その服は明日までに縫っておいてあげる」
人形は言われるがままに服を着替えました。
そこへ、一体の人形がやってきました。
「スクラップの山でこんなものを見つけたんだけど……これは一体なんだろう」
墓場には、人形に混じって冷蔵庫やらフライパンやら、色々なものが捨てられていました。その人形が手にしていたのはお医者さんの使う聴診器でした。
「これはこうして使うのよ」
トリコは聴診器を人形の胸に当てました。
(なにも音がしない……人形だもの、当然ね)
「な、なにか聴こえる?」
人形が心配そうに訊きました。
「心臓の音を聴いているのよ。だいじょうぶ、ちゃあんと動いてますよ」
トリコはお医者さんになりきって言いました。それからトリコは、代わる代わる人形たちの診察をしてやりました。
すっかり日も暮れて人形たちはてんでばらばらな方向に去って行きました。
「ああ疲れた」
トリコは、ボロボロのソファに倒れこみました。目をつぶると、トクリトクリと何かの音が聴こえました。それはすぐそばに捨てられていた柱時計の音でした。
ふと思い立って、トリコはさっきの聴診器を取り出しました。そして、何の気なしに自分の心臓に当ててみました。
「あれ…」
しかし、何の音も聴こえませんでした。
「なあんだ、壊れていたのね」
トリコは聴診器を外しました。
「それにしても疲れたわ」
トリコはその細い首をゆっくりと回しました。
――そのとき
ぽきん、という音がしてトリコの首が外れました。
(!!!)
トリコは声にならない叫び声をあげました。
(そっか……)
そのときトリコは悟りました。
(私も人形だったんだ。だけど、悪い子にしてたから捨てられちゃったんだ……)
トリコの目からオレンジ色の液体が流れ出ました。それは、機械油でした。
「こんなところにいたのか」
遠くの方でブリコの声がしました。
「あれほどそばを離れるなと言ったのに」
彼はトリコを抱え上げました。
「ちゃんと治してやるから、もう泣くんじゃないよ」
彼は骨ばった指で機械油をぬぐってやると、優しくトリコを抱きしめました。
(おしまい)
マタンゴ王国物語 ファニー・ファンガス @funnyfungus
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