月灯りの中で。

満月 愛ミ

 答えはシンプルなのに、不思議だねって思うの。


 月灯かりは人の感情を温かく抱きしめてくれる。

 部屋の明かりは消えているが、外からの月灯りで神秘な雰囲気を醸し出していた。


「ねぇアレン。どうして、人間って愛し合うようにできてるの?」


 ベッドに座るアレンに手を添えるニコ。

 

「うーん……」


 添えられたニコの指先に、アレンは指を自然に絡めていく。


「ねぇ、なんで?」


 ニコが嬉しくなってアレンの唇に近づき、触れるかと思えばそのまま止まる。息が唇にかかり、戸惑うアレンに微笑むニコ。ちゅ、と音を立てて見上げる。アレンは頬を染めた。


「俺にも分からない……分からないけど、そうなってしまっているから……」


 仕方がないのかなと言葉を付け足し、ニコのおでこにそっとアレンのおでこを当て、柔らかくニコの唇をついばんだ。ニコはアレンの頬に手を優しく添える。

 アレンの唇が啄むだけで終わるわけはなく、そのまま舌もニコの唇へ、中へと侵入する。

 ニコは唇で感じていたものから、侵入された感覚の違いに鼓動が跳ね、吐息が漏れ、響く。それを見て、口元で直接感じたアレンの鼓動も途端に跳ね上がる。


「……身体があるから、そうなるのかな」


 ニコがアレンの胸に手をあてる。アレンの胸の少し早い鼓動と、温かさが洋服をも軽く通してやってくる。


「もし、身体のない世界だったら、好きなだけくっつけるしね」

「アレンと好きな場所へも行けるね」

「まあ……ね。でも、やっぱり身体があるからいろんなものが生まれるんだよ」

「そう、ね。それに、この感覚も身体があるから味わえるのよね」

「そうだね」

「生まれるってすごいんだね」

「うん……そうだね」


 月明りは静かに二人の身体を優しく包んでいる。

 照らされた身体の部分から、魔法がかかったように愛しさを増す。


 ニコがアレンの胸から指を離すと、代わりに頭を近づけ耳を当てた。トクントクンと鼓動が聴こえた。


「命があるってわかるのも、身体があるからなのよね」


 当たり前なのに不思議、と、ニコはアレンから身体を離し、瞳を見つめる。アレンはニコの瞳に吸い込まれるように近づき、唇を柔らかく重ねる。

 そのままニコの身体をベッドに押し倒して行く。

 ニコの瞳がどんどん輝きを増す。月明かりが彼女の瞳を更に綺麗なものにしていく。

 アレンが、ニコをたまらなく愛しくなる瞬間だ。


「ねぇ、アレン。愛してる」

「うん」

「ぜんぶだよ?」

「うん、わかるよ。俺もニコと一緒だから、わかる」

「よかった」

「うん。ニコ、愛してる」



 アレンがニコへ微笑むと、ニコを上から包み込むように抱きしめ、ニコは瞳を嬉しそうに、静かに閉じる。


 ただ身体が一つになるには決して簡単でなくて。愛しいものがあるから。

 

 心が一つになることはとても愛しく幸せであることをずっと感じていたい。

 




 ずっと、心で嬉しいこと、愛しいことを一緒に感じていたいね――。

 うん、そうだね――。





 愛おしい命の輝きとぬくもりを感じて二人は微笑んだ。

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月灯りの中で。 満月 愛ミ @nico700

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