第12話 栞の苛立ち

麻耶子はこの数日 何度も携帯を確認する

やはり栞からの連絡はない


今日も軽く朝食をとって麻耶子は出勤した


更衣室で白衣に着替えると

麻耶子はダラダラと長い廊下を歩く


「おはようございます」麻耶子


行き交う人達に挨拶をしながら医局を目指す


今日は遅出

既に院内は慌しく活動している


しかし

麻耶子はまだまだぼんやりしていた


「おはようございます

麻耶子先生!今日からですね」濱田


濱田が後ろから元気一杯に声をかけてきた

麻耶子はキョトンとする


「えっ?お忘れですか?

今日から一週間 大学から学生が研修に来るんじゃないですか!!

弟さんのゼミ生がうちに来るらしいですよ」濱田


「えっ?本当に?私 聞いてない」麻耶子


「医局長 言ってましたよ

もう!麻耶子先生 最近 心ここに在らずって感じですもんね

何かあったのかな~」濱田


そう言って濱田は先に医局へ入っていった


麻耶子はドアの前に立って小さく深呼吸


悠介と栞は同じゼミ

この向こうには栞がいる・・・・・・


”ガチャ”


「おはようございます」麻耶子


麻耶子が入るや否や

医局長が満面の笑みで手招きをする


「麻耶子先生 こっちに来て」医局長


医局長の横には斎藤先生 前には学生が4人並んでいる


悠介・優・由香そして栞


麻耶子は医局長のもとへ


「この子達が金の卵君たち

大切な子達だから斎藤先生に指導をお願いしようと思っているんです

っで 麻耶子先生にも斎藤先生の補助をお願いしてもいいですか?」医局長


「医局長 彼もいますし・・・・・・私ではないほうが・・・・・・」麻耶子


麻耶子は悠介をさして言う


「大丈夫 悠介君は賢い子ですから立場をわきまえています

ここではお姉さん弟ではなく

先生と学生ということで宜しく」医局長


悠介はよそ行きの笑顔で医局長に微笑む

医局長は麻耶子と悠介の肩をポンポンと叩いてその場を立ち去った


斎藤先生はエスコートするように麻耶子の背中に手を回して4人に紹介する


「渋澤 麻耶子先生です

ここでは麻耶子先生と呼んでいます

若いドクターですが仕事が丁寧で美しい・・・・・・」斎藤先生


斎藤先生はそう言うと麻耶子のほうをチラッと見てはにかむ

学生達にも伝わるくらいののろけのような紹介

麻耶子だけはは”?”その意味が分からずにキョトンとする

斎藤先生は小さく咳払いをしてまた続ける


「学ぶべきことが多くあると思います

しっかり得ていってください」斎藤先生


麻耶子は小さく頭を下げて


「では 今日から一週間

ここで見て学んで有意義な研修をしていってください」麻耶子


そう言って自分の席に着いた


斎藤先生は濱田に指示を出して学生達を院内の施設見学に行かせた


”やりずらい”


麻耶子の今の心情

一度も栞の顔を見ることはできなかった


今 最悪な状況なのに

どんな顔で・・・・・・こんな所で会っていなくっちゃならないの?



お昼休憩

学生達は1時間の休みをもらったので

院内の食堂で昼食


「おれ 悠介の姉ちゃん始めてみたかも」優


「私も」由香


「そうだったけ?

栞は子供の頃から知ってるもんね」悠介


「ああ」栞


「綺麗な人だね 

しかも優秀だってさ」優


「そお?

優秀は優秀かも・・・・・・昔から真面目だし

父親の期待に100%こたえてきた人だから

超信頼厚いよ」悠介


「期待?」優


「勉強も私生活も・・・・・・親が喜びそうな優等生

俺とは違って」悠介


「そうなんだ・・・・・悠介や家族の人達が知らないだけで

実は優等生じゃないかもよ

私生活は・・・・・・」美香


「えっ?」悠介


悠介は美香の発言に少し驚く


「だって言わないでしょ?

親や弟に・・・・・・私的なこと

私なら言わないもん

あんなに綺麗な人だから

それなりに色々あると思うわよ」美香


美香はいやらしい笑みを浮かべる


「・・・・・・まじで?それ良いかも

家族の知らないもう一つの顔

清純の皮をかぶった・・・・・・みたいな?

なんだかドキドキする

俺と遊んでくれないかな?」優


栞は優のほうをチラッと睨む

悠介は優の発言を鼻で笑って


「馬鹿じゃねぇの?姉ちゃんは無いな!

超真面目ちゃんなんだから・・・・・・奥手すぎて親が縁談持って来るんだから」悠介


「そうなの?」優


「あの斎藤先生

親と医局長が取り持ってるらしいよ」悠介


「え~本当に?

残念!!ものすごいイケメンだからテンション上がってたのに

麻耶子先生のものなの?」由香


由香は体全体でがっかりする


「ものって まだそう言う関係ではないだろうけど

飯くったりはあるんじゃないかな?

斎藤先生 気に入ってるみたいだし」悠介


栞は悠介の発言に固まる


「さっき自己紹介の時 変な空気になったのはそう言うことか

あれっていちゃいちゃしてたのかな?」優


明らかに不機嫌になる栞


「そんなんじゃないんじゃないの?

麻耶ちゃんああいう人がタイプじゃないと思うよ」栞


栞は少しふて腐れた様な表情で言った


「そうなの?あんなタイプって誰が見てもイケメンだと思うけど

ワイルドな感じがセクシーだし」由香


「栞 なんだか麻耶子先生のこと知ってる感じ?

どんな人がタイプなの?」優


「知らないけど

あの人は違う気がする

って言うか麻耶ちゃんに合いそうにない

麻耶ちゃんおっとりしてるから・・・・・・ああいう強引な男の人は・・・・・・」栞


「ぼ~っとしてるからあのくらいグイグイの方が合うんじゃないの?」悠介


「・・・・・・」栞


「なんだか 栞 麻耶子先生が斎藤先生と何かあっちゃいけないみたいね」美香


美香が笑うと

栞はあからさまにムッとした


「図星?」優


栞は優のほうを見て


「どうして俺が図星なの?

いみわからねぇし!!」栞


そう言って栞は席を立った


「あいつ変わってるよな~

むきになるポイントが読めない」優


「何だか最近キリキリしてるよね」由香


「・・・・・・」悠介


仲間達は栞の苛立ちの意味をその時はよく分かって居なかった



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