拾った宝

ペンネーム梨圭

第1話 拾った宝

      拾った宝



 律子は路上で鍵を拾った。

 「鍵にはキーホルダーと小さな封筒がついていた。彼女は封筒を開けた。

 「宝の地図?」

 彼女は首をかしげる。

 ガセネタか誰かのイタズラか。でもこれは駅のロッカーの鍵だろう。ご丁寧に紙に横浜駅のロッカーの鍵の番号があった。

 律子はその足で駅のロッカーに向かった。

 ロッカーを開けると紙があった。

 「この海岸に手がかりが埋まっている」

 律子は怪しむ。

 本当かよ。でもヒマだから行ってみるか。

 律子は改札へ向かった。


 江ノ島海岸。

 律子は砂浜を歩いていた。砂浜には金属探知機を持った中年男がいた。

 律子はその男を無視して光る物を拾った。

 ガチャガチャにあるようなカプセルに翡翠のペンダントと地図である。地図は富士の樹海でそこに赤い印がついている。

 「ずいぶんアバウトね」

 つぶやく律子。

 樹海といっても樹海は磁石が効かず自殺の名所でもある。

 「君は見つけたのか!!!」

 いきなり割り込んでくるくだんの中年男。

 「なんですか?」

 「これは宝の地図だ」

 彼女が持っていた地図をもぎ取る男。

 「ちょっと何するんですか!!」

 律子は目を吊り上げて地図を取り上げる。

 「君はどうやって樹海までいくつもりかね。

バスは一日に一回しか走っていない。そして自殺者を警戒して警官や地元住民が頻繁にパトロールに来る。見つからないようにするにはパトロールが交代する時間に行くしかないんだよ」

 もったいぶるように言う男。

 「私。まだ行くとは言ってないけど」

 不満を言う律子。

 このオッサンは何者?

 「私はこういう者だ」

 名刺を出す男。

 ”東京大学名誉教授。早瀬豊”

 無言になる律子。

 どう見ても新橋にいるサラリーマンにしか見えない。

 「君は平静を装っていても宝の事は気になっている。だから道連れで連れて行くのだ」

 早瀬はビシッと指をさした。

 「はあ?」

 「行こう」

 早瀬はいきなり律子の腕をつかんで海岸を出た。


 富士の樹海

 夜もふけて誰もいない樹海の中を律子と早瀬は歩いていた。

 「わかっているんですか?」

 不満をぶつける律子。

 「わかっている。ここだ」

 スコップを地面に突き刺す早瀬。

 「本当ですか?」

 眉をよせる律子。

 「はい。君も掘って」

 早瀬はもう一本のスコップを渡す。

 律子と早瀬はもくもくと掘る。

 しばらく掘ると海外旅行に持って行くような大きいスーツケースが出てきた。

 早瀬はスーツケースをあけた。

 そこには4分の1の鉄の塊が入っていた。

 「何これ?」

 不機嫌な律子。

 変な人にくっついて掘ったのがこれ。

 「これは鉄尊様の一部だ。君が拾った紙が盗まれたご神体を示す地図だったんだ」

 鉄の塊を見て言う早瀬。彼は新聞の切れ端を律子に渡した。

 日付は一週間前である。”金谷神社から鉄尊様の一部が盗まれる”とあった。

 「私は神社から依頼を受けて探していたんだ」

 早瀬は自慢げに言う。

 「さっきは東大の教授で今度はトレジャーハンターですか?」

 「東大の教授は本当だ。UFO研究家やトレジャーハンターも肩書きに入っている」

 はっきり言う早瀬。

 ため息をつく律子。

 「君、これを運んで」

 早瀬はスーツケースを閉めると押した。

 「なんで」

 嫌そうな声を出す律子。

 「重いから」

 はっきり言う早瀬。

 「なんで私まで押さないといけないんですか?」

 不満をぶつける律子。

 「早くしないと地元の住民のパトロールや警官が見回りに来るから」

 早瀬が言う。

 「わかった」

 律子は納得してスーツケースを押した。

 駐車場にあるワゴン車にスーツケースを押し込んだ。

 「ねえすぐに死ねる名所へ連れて行ってくれない?」

 ふいに声をかけてくる女性。

 声はハスキーボイスでニューハーフ。しかしヒゲが生えて髪はボサボサ。濃いすね毛が生えている。

 「死ぬなら勝手に死んでください」

 本音を言う律子。

 「君もチャレンジャーだねえ。簡単には死ねないもんだよ」

 あっさり言う早瀬。

 「死のうと思って四日前に入ったの。薬や首吊りもやったけど失敗した」

 暗い顔で言う女性。

 「千葉の神社に行く前に車から放り出せば」

 律子が言う。

 「君も簡単に言うね。警察をなめちゃいけないし、目撃者も案外いるんだ」

 肩をすくめる早瀬。

 「じゃあ無理ね」

 納得する律子。

 「君、乗って。近くの旅館に泊まるから」

 早瀬は促した。


 山道を走る3人を乗せたワゴン車。

 しばらく行くと黒服の男が立っていた。黒の背広の上下に黒サングラス。映画「MIB」に出てきた人たちと同じような服装だ。

 早瀬はスピードを落とすどころかアクセルを踏んだ。

 ワゴン車は男をはねた。はねられた男は崖へ落ちて言った。

 「本当にはねた」

 「人殺し」

 律子と女は声をそろえた。

 「さっそくかぎつけたか」

 冷静な早瀬。

 「あれはブラックメン。UFOや宇宙に関係する宝物につき物の連中だ」

 しゃらっと言う早瀬。

 「え?」

 「死にたくなければついてくるしかないんだよ」

 早瀬は言った。


 旅館。

 その一室でニューハーフは口を開いた。

 「その中味は何?」

「君、名前は?」

早瀬が聞いた。

「小林 渚。名前を変える前は尾崎鉄夫」

ニューハーフが名乗った。

「名前はバリバリの男ね」

口をはさむ律子。

「そうなの。だから変えたの。そのケースの中身は何?」

話を切り替える小林。

「旅は道ずれ。宝は道ずれ。中味は千葉の金谷神社から盗まれたご神体だ」

早瀬はケースを開けた。

中には4分の1の鉄の塊が入っている。

「これが?」

眉を寄せる小林。

「文明元年・・・一四六九年六月に村の神社の西方約五六〇メートル沖の海上で異様に輝くものがあった。勇気ある村人が船を出して現場に行ってみるとその懐中に光を放つ大きい円形の物体が沈んでいた。だが引き上げることはできずに七日七夜にわたって大嵐に。翌朝行くと円盤は四分六分に割れて引き上げることができたという。昭和四〇年に本格的に調査してみると砂鉄を原料に鼠鉄を鋳造したものであるが当時の製鉄技術として驚くべきものだというものがわかった。それが最近盗まれて私に依頼が来たんだ」

新聞の切れ端を見せる早瀬。

切れ端はさっき律子にも見せた同じ内容の記事だ。

「本当にトレジャーハンターもやっているんだ」

半信半疑の小林。

まだ信じたわけじゃない。さっきはひき逃げをやったから逃亡犯だ。

「さっきあなたがひき逃げした人は?」

ふと思い出す律子。

「あれはUFOや宇宙関係の宝に限って現われる連中。ブラックメン。MIBだ。UFOやそういう関係の宝に近すぎた者を殺すんだ。そしてその宝や遺物を密かに回収する。映画と違って人殺しも平気でやる」

はっきり言う早瀬。

「私達まで巻き込んだね」

律子は不機嫌そうに言う。

「君らは保険。いざっというときのね」

しゃらっと言う早瀬。

「なんかこの人を警察にひき逃げ犯人として突き出してこのケースはどこかに放り出したほうがいいじゃない」

本音を言う律子

「そのほうがいいかも」

小林がうなづく。

「例え捨てても彼らは口を封じに殺すんだ。だから逃げても見つけて殺す」

ニヤリと笑った。


翌日。

三人の乗ったワゴン車は千葉県の県道に入った。

カーナビをチラッと見ながら運転する早瀬。

ずっと黙ったままの小林と律子。

サイドミラーに黒塗りのベンツがうつる。

小林と律子はふと気づいた。

「やっぱり来たね」

早瀬はリモコンを出すと赤いボタンを押す。

すると車体から小さなミサイルが飛び出して後ろにいた黒塗りのベンツを吹き飛ばした。

小林と律子は驚きの声を上げた。

「この車には007並の装甲と装備がしてあるんだ」

早瀬はニヤニヤ笑う。

すると別のベンツがやってきて黒服の女がライフル銃を乱射。銃弾は貫通することなく弾かれた。

口をあんぐり開け放心状態の二人。

早瀬はくだんのボタンを押した。さっきのミサイルが放たれ吹っ飛ばした。


一時間後。駐車場。

旅行用スーツケースを三人で持ち上げて運ぶ。しかし三人で持ってもやたらに重い。

「やけに重いわね」

 小林が言う。

 「重さ百キロ。本体のご神体は1・5トンあるんだ」

 しゃらっと言う早瀬。

 「どんだけ重いご神体よ」

 つぶやく律子。

 なんで自分たちが運ばなければいけないのよ・・・

 「階段の上に神社はあるんだ」

 思い出す早瀬。

 「え?」

 「400段あるんだ」

 しゃあしゃあと言う早瀬。

 「冗談じゃないよ!!」

 文句を言う小林と律子。

 「早くもって行かないと奴らが来るよ」

 他人事のように言う早瀬。

 「しょうがないわ」

 納得する二人。

 三人は黙々と階段を登り始めた。

 しばらく行くと後ろに気配を感じた。

 「私が追い払うから君達は神社へ走れ。鳥居をくぐればバリアが働いて連中は入れないから大丈夫」

 早瀬はケースから放して拳銃を抜いて階段を下りていく。

 階段を駆け上がってくる黒服の男。

 「行くわよ」

 律子は真剣な顔になる。

 たぶん失敗したら死ぬ。

 うなづく小林。

 二人は弾かれたように駆け上がる。

 だいぶ後方から銃声が聞こえたが振り向かずに二人は走った。

 チラッと背後を見る律子。

 黒服の女が駆け上がってくるのが見えた。

 二人は全速力で駆け上がった。

 すでに息は上がって足も上がりづらいが捕まって殺されるよりマシだ。

 二人は鳥居をくぐった。

 とたんにくだんの女が消えた。

 「ご神体を取り戻してくれたんだね」

 初老の宮司が近づく。

 へたりこんで座り込む二人は振り向く。

 社殿の扉が開いて4分の1のご神体が現われた。

 スーツケースが勝手に開いて4分の1の鉄の塊が飛び出し本体へ戻っていく。切断されたされた部分は溶接したかのようにくっついた。くっつくと扉が閉まった。

 宮司は頭を下げると立ち去る。

 「帰ろう」

 律子は息を整えて言う律子。

 なにがともあれお宝は戻ったんだ。

 二人は階段を降りていく。

 しばらく行くと早瀬がのぼってくる。

 「あの変な男は?」

 「消えた。宝が元の場所に戻ったからね」

 早瀬はホッとした顔で言う。

 「これからどうする?」

 小林が口を開く。

 「私は宮司に報告に行くんだ。それとこれが君達へのお礼」

 二人に封筒を渡す早瀬。

 彼はさっさと社殿へ歩いていく。

 律子と小林は封筒をのぞいて驚く。封筒には十万円が入っていた。

 これなら新幹線や電車で帰れる。

 「どこか飲みに行かない?」

 小林が誘う。

 「そうしましょ」

 律子はうなづいた。

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拾った宝 ペンネーム梨圭 @natukaze12

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