第12話 『赤ずきん』をリメイクしてみた

「ねえ、残酷表現って話の中に元から入っていたらいい?」

「……まあ、その場合は仕方ない」


 程度さえ弁えてもらえれば良い。


「じゃあ次は『赤ずきん』にします」

「ほう」


 まあ、おばあさんや赤ずきんが食べられたり、オオカミの腹を割いて二人を救出するシーンはあるが、これは表現さえ気を付ければなんとかなるだろう。


「『ある所に、とてもかわいい女の子がいました』」


 まずは赤ずきん登場のシーンだ。


「『特定の思想に染まっており、その模範的な行動から赤ずきんと呼ばれていました』」

「ちょっと待て」


「アカ」ってそっちの方かよ!


「『ある日、母親が赤ずきんを呼んで言いました』『同志赤ずきん。本日の労働だ』『はい、労働こそ我が喜び。労働こそ幸福!』」

「怖えなこの親子!?」


 完全に染まってやがる。


「『我らの祖母が病床に臥せっているそうだ。この真偽を確かめてもらいたい』『Даダー』」

「疑うなよ!?」

「『では、このケーキとウォッカを持って行くがいい』『配給ですね』」

「どんどん物騒になって来たな」

「『いいか。途中で道草をしてはならん。それと狼に注意しろ。奴は資本主義者だ。必ず殺せ』『Даダー』」


 こいつやばい、狼逃げろ。


「『赤ずきんが歩いていると狼が現れました』『やあ可愛い赤ずきんちゃん。どこへ行くの?』『我が母からの命によって祖母の元へ行くところだ。そして貴様に遭ったら殺せと言われている。資本主義の犬め』」

「落ち着け」

「『まあまあ、赤ずきんちゃん。私は転向者だ』『ほう』『そして、党本部からの命を受けている』『何と!』」

「信じるのかよ」

「『同志祖母の元へ行く君に、党からの密命を与えよう』『ありがとうございます!』『では、この森の木の本数を数えながら祖母の元へ向かうがいい』」

「意味はあるのか!?」

「『党の方針ならば!』」

「疑問を持て!」

「『さて、赤ずきんと別れた狼はおばあさんの家に行きました。女の子の様な声を出しておばあさんを騙すと中に入り、おばあさんに襲い掛かりました』」

「ここは変えようがないな」

「『ちなみに性的な意味ではありません』」

「言わんでもわかるわ!」

「『しかし、おばあさんは襲い掛かられるや否や、見事なタックルを決め、狼を倒してしまいました。腰まで積もった雪の中、薪を抱えてランニングするのを日課にしていた彼女にとっては容易い事でした』」

「おばあさん強えな!?」


 ヤバいこの祖母。

 と言うか、狼倒したらダメだろ。


「『しかし、狼もフォールされる寸前に切り返し、逆に後ろをとってポイントをとると、持久力に欠ける祖母から時間いっぱいまで逃げ切り、勝利しました』」

「アマレスになってんじゃねえか!」


 と言うか狼も強えな!?


「『その頃、木の本数を数え終わった赤ずきんはおばあさんの家に向かっていました』」

「律儀に数えてたのか」

「『ベッドには、祖母を倒した狼が寝ていました』」

「戦いが終わって疲れを癒している様にしか見えん……」

「『同志祖母よ。何故労働に出ない』」

「尋問かよ」

「『む、同志祖母よ。何故そんなに耳が大きい?』『それは、党の命令がよく聞こえる様にだ』」


「『では、何故そんなに目が大きい』『党に不満を持つ不穏分子をすぐに見つけられるようにだ』」


「『こんなに同志の手は大きかったか?』『大きくなければ祖国に貢献できぬ』」


 怖い、こいつらの会話怖い!


「『では、何故そんなに口が大きい』『それは……お前を食べるためだよ!』」

「で、食われると」

「『その瞬間、赤ずきんは持っていたカラシニコフ銃を……』」

「待て待て待て!」


 何て物騒なもん持ってやがる!


「『抵抗空しく、赤ずきんは丸呑みされてしまいました』」

「狼強すぎるだろ!?」


 格闘家とカラシニコフ銃持った少女相手に連戦でよく勝てるなこいつ。


「『そこへ、巡回している赤軍兵が通りかかりました』」

「猟師じゃねえのかよ!?」

「『む、これは狼!?』『赤軍兵はカラシニコフ銃で狼を撃とうとしましたが、お腹の中で何かが動いているのに気づきました』」


 赤ずきんたちの救出シーンだ。

 しかし、よく考えるとこの時に鋏でお腹を割いているんだよな。

 結構怖いシーンだ。


「『赤軍兵が鋏でお腹に切れ込みを入れると、その中から手が伸び、お腹を割いて祖母が現れました』『ふう……感謝するぞ兵よ』『こ、これはロシアの英雄、ナターシャ様!』」

「何者だこのおばあさん!?」

「『同志赤ずきんよ。この狼に厳正なる処分を与える……シベリア送りだ』『хорошоハラショー!』」

「狼ーっ!」

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