第16話「スマホゲームのやりすぎに注意しましょう。」

「は、廃人ですか…。」

 そりゃあ、なんというかとんでもない。

「具体的にはどんな状態なんです?」


 ネトゲ廃人かもしれないしなあ。

「ネトゲ廃人なんです。」

 ……まんまだった。


 そんな問題しらねえよ。

 えっ、なに息子がネトゲ廃人なのを俺に解決しろっていうわけ。スマホか、パソコンか分からないけど、取り上げて解決だ!


「あのですね、それは僕が解決する問題ですかね。」

「いえ、言い方が悪かったですね。ネトゲが原因で、本当に廃人になってしまったんです。」

 どういうことだろう、それをネトゲ廃人というと思う。


「廃人としかいえないんです。しゃべりかけても、応えてくれないし。ひたすら、うわごとのようにソースソースって唱え続けてるんです。全然コミュニケーションがとれなくて、わたしはどうしたらいいのっ!」

 そういって、急に感情をはげしくあらわしながら、手で顔をおおった。

「カルラがっ、カルラがっ!!」

 ルイさんは涙声で子供の名前をよんだ。


 ちょっと、まったく自体が呑み込めないっって……。


「あの、落ち着いてください。とりあえず詳しいことをおしえてください。」


 畑が、ルイさんにハンカチを差しだす。

 ルイさんは受け取って涙をぬぐい、落ち着いて続きをかたりだした。


「ごめんなさい、とりみだして。」


「いえ、大丈夫です。」


「1週間くらい前なんです、先週の日曜日の昼間だとおもう。息子は友達とケータイの新しくでたアプリをあそんでました。『魔法使いのソース』って名前のゲームです。よくはわからないんですけど、スマホで写真をとると、撮った写真によって、エネルギーに変換できて、魔法がつかえるとかなんとか。だから、子どもたちはなんか家じゅうの物の写真を撮ってました。楽しそうにしてたんで、はじめは特に気にしてなかったんですが。」


 ふと、視線をソラの方に向けると画面に「検索中」ってでてた。

 さすが仕事が早いぜ。


「でも、結局日曜日は友達が帰った後も、一日中写真取ってるし、次の日に学校にまで持って行こうとしたから、怒って取り上げたんです。」


「取り上げたら解決なのでは?それで、すねて引きこもったって感じなんですか。」


「いえ、ちがうんです。息子はまだゲームをやってるようなんです。」


「えっ、ケータイはとりあげたんですよね。」


「そうです、取り上げたんです。それでも、まだ、ソースがほしい。ってうわごとのようにつぶやきながら、日常を過ごしてるんです。視線も定まってないし、なにを話しても答えてくれない。私のことっていうか、私だけじゃなく何も見えてないみたいなんです。」

 いまいち話が見えない、日常を過ごしてる時点で、問題ないと思うのだけど。


「日常を過ごしてるって?何も見えてないとか、そんな状態なら早く病院にいかないとと思いますが。」

 いま必要なのは僕じゃなくて、病院だ、それは間違いない。


「取り上げた日は学校に行ったんです、いつもと同じように。それにご飯も食べるし、お風呂にも入る。ただ、人の話をきかないんです。ぜーんぶ上の空って感じで、返事はしても空返事。たまにしゃべったと思えば、ソースがないとか、ソースはどことか。病院にも連れて行きましたが、分からないって言われました。」


「せ、精神科とかは?」


「精神科にもいったんですが、同じでした。何らかのノイローゼじゃないかって。措置入院も出来ると言われたんですが、なんか、手元から離したくないので断りました。」


「でも、学校には行けるんですよね?ならばお母さんに対しての反抗なのでは…?ケータイを返せって言う抗議をしてるのかも。」


「私もそうかなって思ったんです。それで学校の様子を担任の先生に聞いたら、実は息子だけじゃないんです。授業中、息子と友人たちはうわのそらで、ノートも取らないって。それで、怒っても何を言っても無反応なんですって。」


「友人たちもですか。その友人ていうのはまさか?」


「そうです、ソースのゲームを前日に一緒にやった友達です。」


 なんてことだ、予想以上に大きな事態な気がする。ゲームをやった全員が廃人になるって、そんなことありえるのか。ゲームのせいなのか…。

「あのひょっとして知らないですか。今日ニュースにもなったんですが。新聞の一面とか、テレビみてないんですか。児童のあいだに謎の無気力状態が広がるって。今日は一日中そのニュースやってて、私もうちだけじゃないってびっくりして、それで、もう原因はゲームしかないなって思ったんですが。」


 そういや、最近ニュースとか全然見てなかった。そうだったのか、そんなやばいニュースが来てたのか。そういえばこの間マリンちゃんが言ってたな、小学生の間で失神事件がはやってるとかなんとか。


「すいません、今日はずっと寝てたもので、そのニュース今知りました。ただ、そこまででかい話ならば、私というより警察が動くという気がしますが。」

 素人が手を出すような話じゃないと思う。


「太陽さん、本当に情報のスペシャリストなんですか?わたしは、信じてお話ししたのに、話だけ聞いてあとは国に任せましょうってことなんですか?警察も今のところ事態は全く分からないってニュースで言ってるじゃないの。何とかできるかもしれない男がいるって畑さんが言ってたのに!なんなの??全然駄目じゃない!」

 ルイさんはヒステリックなのか、割とすぐ感情むき出しになるようだ。

 怒らせてしまった。凄い語気が荒い。とにかく落ち着いてほしい…。余計なお世話だとは思うが、こんなんでよくキャバ嬢務まるな、ケンカにならないだろうか。

 

「すいません、いえ、国任せにしようってわけじゃ、スケールの大きさに少しびびってしまって。」

 ルイさんのあまりの剣幕におもわず謝ってしまった。


「すこし、情報を整理したいのでスマホをいじらせていただきます。」

 そういってスマホを手に取って、いじるふりしてソラからの情報を手に入れることにした。

 『これは面白いぜ。』

 スマホにはそう映し出されていた。



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