第7話「女の子と事件は急にやってくる」

 さて、あの宇宙人はかなり本気で、マキナのケータイに移り住もうと思ったらしいのだが、LINEの友人数の多さに気づき、これは住みづらいということで結局俺のところに帰ってきた。


「友人数が多いと煩わしいよね、その点太陽は昨日一日一緒にいたけど電話どころか、個チャ来たの二件だけだもんな。しかも一つはマキナだし。いや、こんなに住み心地がいいケータイは珍しいんじゃないかなぁ。俺はいい人にめぐりあったよ」


「おまえ、完全に馬鹿にしてるだろ。」


「何を言ってんだ、ほめてるんだよ。一人で生きていけるやつは強いってことだよ。」


 完全にこいつは褒めてると言いながらも笑ってやがる。

 ていうか、顔を思い切りm9(^Д^)プギャーってやってるじゃねぇか!


「まぁ、よかったじゃないか。なんだかんだ、俺がマキナのところ行こうとしてたら太陽は寂しそうにしてただろ。帰ってきてやったんだぞ」

 それは寂しいというかなんというか、もっと大いなる力の話なんだよ。

あそこのIfでお前が選択肢を間違えたらそこで物語が終わりみたいな……。


 誰にもわかってもらえない前提でいうけど、昔ゾイドのファミコン版ゲームで、なんか町の女に旅やめて私と暮らそうみたいな選択肢を迫られて「はい」って選ぶと、何とそこでゲーム終了っていうのがあって、危うくそれになるところだったんだぞ多分な。


「で、マキナからライン来てるじゃないかよかったな。なんだって?」


「おまえ、別に内容把握できてるだろ、俺のケータイに住んでるんだから」


「一応、その辺は節度を持っておまえのプライベートにかかわるようなものは見ないようにしてる。さっきマキナの友人が多いっていうのも数を把握しただけで中身についてはさっぱりわかってない。それなりにマナーっていうかそういうルール守らないと人間関係構築しづらいだろう」


「おぉ、意外ときっちりしてるな。今のところ見られて困る情報もないけどな」


「友達がすくないという情報が、情報の少なさによって露呈されたけどな、逆説的だね」


「……。」

 なんだ、俺はしんでいいのかな? 俺にだって死ぬ権利あるよね。


「で、マキナはなんだって?」

 死にたい僕の気持ちを差し置いて、ソラは切り返した。


「ソラに協力してほしいことがあるってさ、今からうちに来るそうだ」

 けだるそうに僕は答える。


「おっ、やったじゃないか。女の子部屋に来るじゃん。ヒューヒュー」

 こいつは本当に僕のことなめてやがるな。


「いや、別にそんな珍しくないよ。あいつは結構遊びに来るんだ。ゲームの趣味とか結構一緒だしな。去年はずっとモンハンやってたぜ」


「部屋に来るほど仲良いのかよ。頻繁に部屋に来る女性に手を出せないやつは、俺の調べだとチキンとか草食系っていうらしいぞ」


「性別のないやつに言われたくないし、そういう前時代的なのは終わったんだよ。大体あいつゲイなんだから手の出しようがないだろ。」

 男に興味ないんだからな、僕はただ理解者ってだけさ。


「よかったな、言い訳があるっていうのは素晴らしいことだよ。」

 いちいちむかつくなぁ…いいじゃないか楽しくやってるんだから。


「マキナと僕のことは、ほっといてくれよ。」

マキナと僕の関係は僕だってよくわからないんだ。ああだ、こうだ言われたくない。


「そもそも、なんでその場にいないときはマキナって呼んで、本人目の前にすると大地って呼んでんの?」


 ぐっ……痛いところを突きやがって。

 マキナってなかなか呼べないんだよ。いや酔ってたり、ついマキナって呼んでしまうことはあるんだけど。

 ちょうど、そんな会話をしてると、

 ──キーーッ

 ドアを開ける音がしてすっと、マキナが入ってきた。


「先輩は照れ屋さんだもんね。酔うとね、ずーっと『まきなぁ、まきなぁ』って本当にうるさいくせに、普段は絶対マキナってよばないんだよ。かわいいでしょ?そう思わないソラ君」

 人の部屋に無断で入るな、挨拶位しろよ……心臓に悪すぎるわ。


 それにしてもなんのネタバレだよ。

 もう恥ずかしさで僕を殺す気かよぉ、いっそ殺してくれー。

 殺せー、恥ずかしさで心臓が締め付けられるう。

 それでも必死に冷静さを装う僕。

「マ……大地、来るの早すぎねーか」


「あぁ、近くのコンビニからラインしたからね。どうせ部屋にいると思ったし」

 そういって、おみやげのコンビニケーキをちゃぶ台において床に座った。


「どうせ部屋って今昼の2時だぞ?大学にいるって前提はないのかよ」


「ないでしょ、先輩は試験のときだけ大学に顔を出す男だって、畑先輩がよく言ってるし」

 マキナが言った畑ってやつは僕と同じ学部の同級生で、同じキックボクシング部。なんで、必然的に同性で一番仲の良い友人だ。ただ、奴にオタク趣味はなく、かなり社交的なので、社交的ではない僕とはあまり一緒に遊んでくれない。

 なにせ、夜とかキャバクラのボーイとかやってるんだぜ畑、怖えよ。まぁそれでも昨日来たライン2件のうちのもう一件は畑なので、それなりにかまってくれるのだ。

 だからあいつがいなくなると僕の同性の友達はほんといない。って、僕やばくね?


「とりま女子が来たんだからコーヒー入れてよ。私ここに来る理由の半分以上は、先輩がインスタントじゃないコーヒー入れてくれるからなんだからさ」


 「はいはい……」

 そう言われたので、コーヒー入れるために僕は立ち上がる。


 そう僕は自称コーヒーマニアなのだ。わざわざミルを買って手引きで豆をひいてからちゃんとフィルター使ってコーヒー入れる洒落乙な男なのさ。ブルーボトルコーヒーなんて目じゃないぜ。


 それはそうと、マキナの性格がどんどんきつく表現されているような気がするのは気のせいだろうか。

 数分後入れたてのコーヒーをマキナに差しだし、僕もマキナの正面にすわった。さっそく、話を聞くことにする。


「で、ソラに協力してほしいっていうのはなんだ?」

 話のメインであるソラはもちろんテーブルの上に出来立てのコーヒーとともにおかれている。こういう場合、ソラはしっかりスタンドに立てておくことにしている、そうしないとカメラ機能が使えないからだ。


「私さ、よくメイド喫茶行くじゃない? 秋葉原にお目当ての子がいてさ、海鈴まりんっていう子なんだけど、小っちゃくてすっごいかわいいのよ。ほっそいし、でも巨乳だし。もうこんな子いるの信じられないくらいで、週3くらいで通ってるのね」


 そういうと、マキナは一緒に取ったポラ写真を見せてきた。専用フォルダーに収まってるけどすげぇ厚さだ、軽く300枚くらいあるんじゃないだろうか。一枚500円だったっけ、えっ15万とか使ってのこいつ……馬鹿じゃねぇか?


 写真にはたしかに小さくて巨乳のおめめぱっちり女の子がマキナと並んで映ってた。身長差がやばいし、胸の大きさの比もやばい。正直、マキナはスレンダー系といえば聞こえがいいけど妖怪ムネナシだからな。

 完全に対照的な二人だ。眼もどちらかといえばマキナはつり目で、この子はパンダ系半月目だ。なるほど自分にないものにマキナはあこがれたのか。

 でもね僕は200パーセント、マキナの方が好きだね。

 全然このちんちくりんタイプじゃないや。


「で、このちび女がどうし……」


 パシーーーーンッツ!


 間髪いれずに張り手が飛んできた。

「次に言ったら、マジで殺すっ」


「あっ、はいありがとうございはふ……」


 きれいな一発をいただきました。

 予測可能、回避不可の一発だった。


「それでそのマリンちゃんがどうしたんだ?」

 かわりにソラが聞いた。


「そうね、この馬鹿先輩のせいで話それちゃった。先週からなんだけど、メイド喫茶に全然来てないの、マリンが。今まで休んだことなんてないのに、金土日出勤日で先週全部通ったんだけど一日も来なかった」


「そりゃあ、体調悪いってこともあるんじゃないのか?」

 ぶたれた頬をさすりながら僕はそう尋ねる。


「でもね、ラインしてもぜんぜん帰ってこないし、店の人も連絡つかないんだって、無断欠勤みたいなのよ。そんなタイプじゃないの。私の天職はメイドって言ってたし」


 天職がメイドって相当やばいやつだな、あんまかかわりたくな……。

と思ってたら思いっきりマキナににらまれた。なんだよ心を読むなよ。


「だからさ、もしかしてなんかあったんじゃないかと思ったの。ああいう仕事でしょ、先輩みたいなきもい男にストーカーされて、なんか誘拐とか監禁とかされてるんじゃないかと思ってすっごい心配してるの」


 なんか、いま俺のことって言ったような気がするけど気のせいだよな。うん、気のせいだ俺の天使がそんなことを言うはずがないさ。


「病気とか、事故とかかもしれないだろ。」


「そうなんだけど、もし誘拐されたとかだったらやばいなと思って、なんか嫌な予感するのよ。まえ、ストーカーの相談されたことあったし」


「相談されてるなら、もう警察の案件じゃないのか?」


「その時の相談はストーカーっていっても視線を感じる程度だったらしいの。まぁ、でもその視線の犯人はたぶん私だし、その時は言えなかったけど、可愛すぎて家まで追っかけちゃったことあるんだよね」


 ……テヘペロみたいな表情をするな、やばいのはお前じゃねーか。ストーカーはマキナだよ、お前がなんかやらかしたんだろ。


「いや、マキナとは無関係に大変かもしれない。……事件性が高いぞ」

 すると、今まで黙っていたソラが急に言葉を発した。どうやら、このわずかな時間ですでに何かを調べたらしかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る