第6話「Don’t be shy」
サークルの2時間ほどのキックボクシング練習はほどなくおわった。ロープワークから始まって、ミットの打ち合いをした。日によってスパーリングがあったりもするが今日はなかった。
シャワーを浴びる前に僕は例の後輩に声をかけた。
「大地、今日の帰りちょっと飯食い行こうぜ。相談があるんだ」
後輩の名前は大地。機械系のことでよく相談をするので、食事をおごるという条件でよく一緒に飯を食いに行く。ちなみにめちゃくちゃよく食べる。しかもキックボクシングもかなり強い。
「いいですよ。今日はデニーズですか?」
「すまん、サイゼリアでがまんしてくれ」
「――またですか? 先輩はどうせミラノ風ドリアをライスにかけて食べるんですよね。貧乏ですよね」
その貧乏人におごらせるとはひどいやつだ。絶対こいつの方が金持ってるんだけどな。
「私はドリアとディアボラ風ステーキにしよっかな、あとデザートとフォッカチャオもよろしく。」
この後輩はなにげにすごい食べるのだ、女子っぽくデザートも絶対欠かさない。
この後輩は
ふふっ、見たかソラよっ!俺にだってギャルじゃねぇけど、女の知り合いはいるんだよ。
ゴリゴリの腐女子だけどな!
長身で目つきは悪くてとっつきづらいけどな。でもねマキナはすっげぇ美人なんだ。少なくともおれはそう思ってる。
まあ、はっきり言って惚れているといっていい。
サイゼリヤにつくと、僕たちは入り口から最も遠い席に僕たちは座った。
そして、今日の顛末、ソラとの出会いを少しずつマキナに話した。
「最初俺は、全部大地の嫌がらせだと思ったんだよ。昨日の飲み会で言ってただろ。私のケータイに新しいUIを組み込むことに成功しただとかなんとか」
「そんな複雑なことしてないよ。みーちゃんがアシスタントとしてすべてしゃべってくれるようにしただけ。音源さがすの大変だったよぉ」
「そりゃ今さら2代目タイガーマスクの音声集探すのきついだろうな」
「誰が三沢光晴の話をしたのよ。っていうか三沢さんのことミーちゃんて言わないし!バーレスクTOKYOのMiiちゃんだっていつも言ってんでしょ」
いやいや、むしろそのネタ分かる人たぶん誰もいないから、俺だってお前がやたら推してくるから知ってるだけだしさ。
というかなんで女のお前が、六本木のセクシーショーパブを知ってるんだよ。
ちなみにi-tuneストアとかで結構売れてるんだぞ,みんなすぐにググるんだ!
そして、あらかた注文されたものを食べつくした。僕は本当にミラノ風ドリアをおかずにライスを食べ、マキナは幸せそうにいま、アイスを食べおわったところだ。いいなあ、僕も食べたい、お金ない……。
「で、このソラくんはマジなんだよね。やっぱり……ここまでしっかり会話できるソフトなんて考えられないし」
「まぁ、信じられないなら、ここの伝票いじって会計無料とかにはできるぜ。」
自慢げにソラはそういう。
それはありがたい、僕としては是非きみの宇宙人を証明して欲しいぞ。
食事中からソラのおしゃべりが止まらなくて、僕以外の初めての地球人であるマキナを質問漬けにしていた。
「いやいや信じるから大丈夫。むしろ嘘でも信じたい、こんな面白い話なかなかないよー。先輩が初めて役に立った気がする。いままでの無能っぷりも汚名返上だね。私に蹴られて喜んでるただの変態じゃなかったんだ」
「堂々とうそをいうな。そんな変な趣味は持ってない」
「持ってるでしょ、私はミットに打とうとしてるのに、なんでわざわざミット外して手で受けてんのよ。私の足が痛いっつーの」
それはすいませんでした……女の蹴りごときにミットなんぞいらないって発想なんだけどな。――ほんとだぞ。
「そうか、人類には痛みを受けて喜ぶやつもいるのか。本当興味深いな。俺はもちろん痛みを知らない。概念としてはそれがどういうものなのかはわかるけどな」
痛みの概念についてはさっきまでの会話でもしてたな。
「真面目に受け取らないでくれよ。」
ソラの発言がボケなのか素なのかは微妙にわからないので、僕は一応突っ込みを入れた。宇宙人に僕のどMイメージをつけられても困る。
「とにかく、僕はソラをマジだと思ってる。一応本人の意向でそんな目立ちたくないらしいから、ここだけの秘密ってことにしてくれ」
口が堅いのは知ってるからマキナに話したんだけどね。
「もちろんOK。誰に話しても信じてくれるとおもえないしね。ってなんで私に話したの」
「知っての通り、俺はコンピューター関係強くないし、なんかあった時に頼れる奴いないとさ。あと、大地はこういうの好きだろ絶対。しかも飲み会のとき、どうせ絶対お前にはしゃべっちゃうから、はじめのうちに話しておいたんだ」
飲んだ俺はとんでもなく口が軽いからな。
マキナは大きくうなずいてスマホの方を見た。
すると、ソラが一言余計なことを言った。
「マキナ、太陽が言ってるのは後付けの理由で単純な話、太陽がマキナのこと好きなだけだと思うぞ」
ソラがとんでもないことを言うので、思わずコーヒーを飲もうと取っ手にかけた手がとまる。
「マキナと会う前と、あった後で体温と心拍数に結構な違いがあるからな。そうなんだろ太陽?」
おい、宇宙人ケンカ売る気か。というか、お前カメラの映像からそこまで読み取るのかよ? 怖すぎるだろ。
「おい、宇宙人。お前、性別なんてないのに男女の好き嫌いわかんのかよ。べつに、大地とはそういう風なもんじゃない。」
「いろいろ調べたが人類の根幹は男女関係にあるようだからな。一番興味のある分野だ。ネット上では男女が絡み合う映像が一番あふれてるんじゃないか。ひょっとして太陽は今からそれを見せてくれるのかもしれないなって期待してたんだが……」
よりによってとんでもないこと言いだしやがった。気まずいじゃねぇかよ馬鹿野郎が、僕とマキナの間では下ネタとかそういうのは無しなんだよ。
しかし、マキナは特に気にするようでもなかった。
「あぁ、ソラ君ごめんね。わたしちょっと先輩そんな風に見れないなぁ。先輩が私のこと好きなのは知ってるけど。まぁ先輩には何度も言ってるけど私ゲイだしね。仲良くはしてるけど、ソラ君が期待してるようなことにはならないかな」
はいそうです、ぼくマキナに酔うたびに告白してるんで、(まぁ酔って告白してる段階で相当ダメだけどさ)全部知ってました。
そのたびに、ゲイだからって理由でふられてる。それでも付き合いを変えないマキナは本当に優しい子なんだとおもう。
ああ、結婚してくんねぇかなぁマジで、レズでもなんでもいいんだよ。僕のこと好きじゃなくてもいいんだよ。ジャンヌダルクのそばにいた騎士のような気持ちで、僕はただそばにいたいんだ。
でも、あらためてシラフのときに振られてしまったので、すげーショック受ける僕だった。
「そうか、残念だ。」
ソラはさして残念でもなさそうに言った。
ひょっとして、こいつおれをおちょくって反応見たいだけか?
「それよりソラ君はさ、そのスマホから移動出来たりはしないの」
「できるよ。」
「じゃあさ、あたしのスマホにも遊びに来てよ」
目を輝かせながら、マキナはソラにお願いをする。いいなあ女の子は何事にも素直で。
「こうか」
ソラはそういうと、俺の画面から姿を消して、マキナのケータイに移ったようだ。
「初めまして、マキナ」
あれ、声が女に代わってる。キーの高い声がマキナのケータイから聞こえてきた。
「うわーすごーい。Miiちゃんになってるぅぅぅっ!きゃぁ、かわいいぃぃ!キレイ!セクシー!」
Miiちゃんとは先ほど言ってたバーレスクのダンサーだな、マキナは両手を上げて喜んでいる。
「すごっ、ソラ君すごい。もうさ、あんな変態どMくそ低能先輩捨てて私のところに来ちゃいなよー。絶対わたしのところのほうが居心地いいって」
テンションの高さのせいでひどい言われようだった。
「検討しておきます。」
またしてもミーちゃんボイスで返事をするソラ……検討すんなよ。
裏切る気か……。おまえまだ、僕のスマホ代払ってねぇんだぞ。
とそんな雑談を二人と一人で繰り返しながらサイゼリヤの夜は過ぎていったのだった。
まさか、このマキナがとんでもないめんどくさい話を持ち込んでくることになるとは、このときは思わなかったのだが。
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