【とある新兵器についてのレポート(完全版)】

―――連合上層部宛

今回の会戦の結果は聞き及ばれている事と存じます。ここ数年拮抗していた彼我の戦力差でありましたが、敵は新兵器によってその均衡を破る事に成功しました。この脅威に対して早急に手を打たなければ、星域一つではすまない結果となるでしょう。銀河系の全知的存在―――もちろん奴らは除きますが―――の守護者として結成された我ら銀河諸種族連合にとって、由々しき事態です。ひいては、皆様方の判断の一助となるよう、本レポートを提出いたします。



■銀河諸種族連合歴22年8の月会戦における敵新兵器についてのレポート

 報告者:商業種族軍参謀長”尖り目端が利くもの”


■仮称:禍の角

■形態:突撃型

■類別:指揮個体

■概要:

兵器としてのコンセプトを見るに、本機種は一種のミサイルの進化形であると言える。自己修復し、知能を備え、時に自らを改良すらし、敵に体当たりしながらも生還するという恐るべきミサイルである。以下、どのようにそう判断するに至ったかの根拠について述べたい。

本機種が初めて実戦投入されたのは、金属生命体群と我が銀河諸種族連合との交戦開始から22年が経過した年、葉齢種族の主星防衛戦の最中であった。

我が陣営は仮装戦艦を主力とした防衛網を構築。敵艦隊は慣性系同調航法による着航と同時に戦列を整えつつ前進を開始。我が方はそれに対して事前に構築した観測網による高い精度の砲撃で手痛い打撃を敵へ与えていた。

激しい砲撃戦は我が方に常に優勢のまま進行した。

このまま戦闘が順調に推移すれば、我が方の勝利は確実なものとなり、あとは敵が撤退するだけという状態であった。彼我の距離は非常に接近していた。

この時点で突如、敵戦列内に多数の敵中型個体が詭弁ドライヴによる短距離超光速航行で着航ワープアウト

即座にこれら中型個体は我が方への突撃を敢行。

驚異的な機動力と、戦艦の砲撃をもものともしない重装甲でたちどころに我が艦隊へ肉薄すると、驚くべき事にその長大な衝角を持って体当たり攻撃を行った。

衝角による攻撃は凄まじく、重装甲が施されている仮装戦艦を破壊する能力を備えていた。

また、この中型個体はさらに驚くべき事に、荷電粒子兵器を"避けた"

非常に高い反応速度を持って、接近した状態の中、光速の99.98%に及ぶ荷電粒子兵器を発射された後に回避したのである。

(※1:このメカニズムについての推測は後述する)

結局、この中型個体は非常な重装甲、高い回避性能、といった諸要素を非常に有効に活用し、我が方はほとんど損害を与える事はできなかった。

投入された敵200機中わずかに2機を破壊・捕獲するにとどまっている。

我が軍は敗走し、葉齢種族主星は徹底的な攻撃を受け、生命のない岩塊と化したのである。



■外観

ダイヤモンド型のフェイスカバーに覆われた顔を持つ。

後頭部から髪のように長大な尾を垂らし、細く長い四肢と、それに比して頑強な腰のサブアーム。

全体としては細身のヒト型にも見える。


■諸元

全長35m(※2:人類単位)程度であり、可動肢は7基あるいは5基である。

主砲は2基。機体右側可動肢に荷電粒子砲。左側可動肢にレーザー砲を備える。

本機の特徴である対艦攻撃衝角は、関節構造を内臓し、固定された衝角形態と可動肢形態との可変機構を備えた大変ユニークな武装である。

衝角形態時は後部可動肢2基が接合し、1基の可動肢となる。対艦攻撃衝角のカウンターウェイトではないかと推測されている。

機体は全体が転換装甲で覆われており、その装甲厚は驚くべき水準に達している。その代償として放熱器とセンサーは非常に貧弱である。(※3:このセンサーの貧弱さは、通信能力にも深刻な影響を与えている)

有力な推測では、亜光速持続時間は非戦闘状態でも8時間程度ではないかという可能性が指摘されている。これは民間の輸送船にも劣る水準と言える。

自己修復能力は非常に優秀で、量子機械及び極微機械による機体構造の復元性能は既存のいかなる大型機械をも凌駕している。恐らく工作能力も優秀なはずだが、現時点では未確認である。

2基の主砲は放熱器を内臓しており、これが可動肢を圧迫しているため、主砲を内蔵した可動肢は実質的に砲撃専用である。だが他の可動肢は、転換装甲と質量制御を利用し、接触時、瞬間的に大質量化する事で大きな衝撃力を得る事が確認されている。

この威力は有効な防御がなされた20km級小惑星戦列艦に大きな打撃を与えうるレベルで、最大限発揮されれば防御されていない200km級天体程度ならば破壊しうる。

対艦攻撃衝角も基本的には同等の威力であるが、衝角形態では威力は等比級数的に跳ね上がり、我が方の仮装戦艦の主砲に匹敵する威力、すなわち可住惑星の大陸を一撃で消滅させるだけの破壊力を発揮する。






確認されている装備は以下の通り。


・物質波構造

彼我共に大型機械の標準装備となっている対質量防御システムである。

機体全体を物質のまま1個の波とする事で、機体に対して十分に小さい物質を透過する事が可能である。

原理的には津波に対する堤防を思い浮かべればよい。(※4:津波が機体であり堤防が弾丸)

堤防が十分に小さければ津波はそれを乗り越える事が出来る。この際、波の形状は元のままである。

荷電粒子や光子に対しては無力であるため、従来は荷電粒子兵器やレーザー兵器が多用される主因となっていたが、本機はここに「十分に大きく透過できない」武器として機体そのものを用いた事が画期的であると言えよう。


・原子間透過

物質は原子の集合体であり、その間は隙間が広く開いている事は周知の事実である。

トンネル効果を制御できる程高度化した科学技術によって、2個の物体同士の原子が、その隙間を透過する事を防いでいた原子の障壁を無効化する事に成功したのは開戦直前であった。

当初、この技術は天体破壊用に用いられていた。我が方の人工機械生命体に搭載し、天体内部へ透過を用いて侵入。内部に恒星爆弾を設置して脱出後爆破するという工兵的活用法である。

残念ながらこのシステムは現在の技術では防御的活用は困難であり、不幸中の幸いなことに、それは敵も同様である。

主な理由として、このシステムで透過できるのは低速の物体だけという制約がある。

これは密度の低い物質ならば緩和され、気体程度になれば亜光速近くでも問題なく透過できる(※5:故に物質波構造で透過中の爆弾が爆発したとしてもダメージを受ける事はない)が、例えば気体であっても電荷を帯びていれば透過は困難である。

原理的にはレーザーは透過可能であるはずだが、様々な要因が重なり現在に至るも実戦での成功例は皆無である。

この機能は人工機械生命体の標準装備となっており、こちらの兵器を模倣・発展させた敵軍も今では多用している。


・転換装甲

人工的な微小次元の伸長部によって、受けたエネルギーを吸収・発散・転換させる装甲である。物質を構成する"紐"の振動数が高まる事―――すなわちその質量が増大することでエネルギーを一時的に保持する特異な構造体と言える。その強度は軽量にもかかわらず極めて高く、300km級天体を粉砕可能なエネルギーの衝突にも耐えうる。

また、質量制御により質量を増大した可動肢による攻撃時も大きな役割を果たしていると推察される。

十分な強度のフレーム・装甲がなければ、増大した自重を支えきれないが、転換装甲はそれを可能にするだけの強度を備えている。いわば外骨格である。


・レーザー・ディフレクター

この使い古された技術は、古いが故の信頼性の高さで有効なレーザー防御手段とみなされて来たし、これからもそうであろう。

電離したイオンの膜によりレーザーを反射し、防御するシステムである。

膜は強エネルギーを受けると極めて短時間で崩壊するが、一点にレーザーを照射し続けるのは困難であるし、崩壊した膜はごく短い時間で再構築する事が可能である。


・防御磁場

荷電粒子兵器を磁場で捻じ曲げるシステム。これも彼我で以前より用いられていたシステムである。

物質波構造を打ち破るためには粒子が電荷を帯びている必要があるため、このシステムはこれからも有効な防御手段となると推察される。


・対艦攻撃衝角

基本的には転換装甲の応用であろう。

言うまでもなく、物体を破壊するのに最も有効な手段は何かといえば質量である。

だが物質波構造により質量兵器の運用は難しくなり、一度質量兵器は廃れた。

本機は、機体そのものを1個の質量兵器とする事で物質波構造では防御できない大きさと、迎撃を困難にする重装甲、加速性能を並立させた画期的兵器である。

いわば、対艦攻撃衝角を運用するためのプラットフォームが本機であると言っても過言ではない。


・荷電粒子砲

基本的には我が軍の仮装戦艦が副砲として搭載するMk.4C型荷電粒子砲に匹敵する威力を持つ。防御されていない200km級天体に大きな損壊を与える程度。

ただし放熱性能の限界から連射性能に劣る。

照準性能は非常に低く、回避運動を取る目標に対しては0.1光秒まで接近しなければ有効な命中弾は望めない。


・レーザー砲

威力・出力は荷電粒子砲とほぼ等量である。

これら2門の砲は、武装の多様性の確保のため搭載されているものと思われる。


・量子機械

周知のとおり、彼我の文明の根幹をなす技術である。量子によって形成された極微機械は物質を原子転換させるだけではなく、それによって生じた余剰エネルギーを集めて原子を構築してしまう。これらはより大型の極微機械と連携し、トンネル効果や量子テレポートも駆使していかなる損傷も即座に復元することが可能である。

また、従来は補助として用いられてきた質量を直接エネルギーに転換する機能を進化させ、本機は動力炉を排除することに成功しているようである。(※6:従来は排熱の問題が無視できず、補助にとどまっていた)

恐らく稼働する部品が一つでもある限り、本機種はエネルギー供給を断たれることはない。

量子機械はバリア効果を無効化、物質を一点に"落下"させる事でのマイクロブラックホール形成が可能だが、本機は全身をブラックホール化させることすら可能かもしれない。注意されたし。


・超光速機関

これらは従来通りの詭弁ドライヴ駆動の可能性が高い。背面に二基装備されている。

(※7:詭弁ドライヴとは、極めて煩雑な手続きによって生じた極微の不均衡から正と負のエネルギーを数学的意味で無限大に生成、うち、生じた負のエネルギーを作用させて空間へ干渉する装置。量子利息は無限大の正のエネルギーで吸収し、また結果的に正と負のエネルギーはそれぞれ無限のため最終的にはエネルギー量が0となり帳尻があう)



※8:様々な状況証拠から推察される確度の高い回避プロセスは以下の通りである。

荷電粒子兵器は射撃時に電磁波の放射を伴う。電磁波は荷電粒子より早い光速であるため、それをセンサーで捉えてから最小の信号伝達で機体の動作を開始すれば、それよりは低い速度で到来する荷電粒子が到達する前に回避する事が可能である。

だが実際にこの方法で可能なのだろうか?

まず、敵味方共に実用している亜光速航行技術について理解する必要がある。

現代の亜光速技術は、高次元の伸長により形成したヒッグス粒子を弾く場を機体表面に展開する。これにより機体の内外は隔離され、機体全体は外部に対して質量を喪失するように振舞う一方で、内部的には質量が維持され正常に機能する。

基本的にはこの状態から何らかの反動推進機関(※光子ロケットが多用される)により推進。質量がほぼ0なため、小さなエネルギーでも容易に亜光速へ達する事が可能になるほか、加速による負担もほとんど0である。

しかしこれは、移動速度を亜光速にする事が可能なだけであって、このシステムだけでは荷電粒子ビームを回避する事は不可能である。

考えられるのは、攻撃の兆候を捉えると同時に、自動的にセンサー直近の(※そうでなければ間に合わない)反動推進機関が作動するのではないか、という事である。

言うなれば、無脊椎種族や貿易種族に見られるような反射的行動ではないかと推測される。

実際のプロセスはもっと複雑であろうが、戦略AI群は基本的にこの推測を支持している事も付け加えておく。



※1補足:本機は推進だけではなく関節部の可動や砲の発射においても亜光速で実現しているという報告があり、それが事実であれば上記のメカニズムだけでは不可能である。

機体全体を"波"としてみた場合、確率的に許される範囲で機体の形状を"変形"させて動かしているのかもしれない。



※3:亜光速状態での通信が困難なのは周知の事実である。

現在実用化されている超光速通信は亜光速で動き回り続ける機械に対して行うのはほとんど不可能であるし、電波による通信は光速でしか伝搬しないからだ。

故に、本機は敵機械生命体一般に見られるような集合知能を構築せず、スタンドアロンで稼働している可能性が高い。

本機が下位個体を指揮下に置いていないにも関わらず指揮個体に区分されているのはこれが理由である。



■結論

本機種は確認されている限り、天体破壊能力を持ち、仮装戦艦の砲撃に至近弾までなら耐え、亜光速近接戦闘が可能な恐るべき超兵器である。敵は今回の成功に自信を深め、本機の量産を推し進めるであろうことは想像に難くない。

速やかに対抗しうる兵器の開発が求められる。

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【禍の角】超絶隣人ツノガーZ(カッコガチ) クファンジャル_CF @stylet_CF

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