第16話 仲間がいるという事 ~【魔王さまとメイドさま】~

 それこそ無数、無限に増幅し続ける異世界。

 作者の数、という表現は似合わない。一人の作者が幾つもの異世界を作り出していくのだから、その数はカクヨム界だけでも途方もない。


「ここがかつて、魔王が生活していたという場所ですか」

「ああ。もうすっかり魔物の気配は無いがな」


 珍しく長期休暇を得た隊長と隊員は、とある異世界の遺跡巡りを楽しんでいた。


「自分、思うんですよね。魔王だって仲間がいるわけじゃないですか。それって、単に恐怖政治だったかと言えば、必ずしもそうじゃない場合のほうが多いんじゃないかと」


 例えば、学校や職場で嫌われているような人にも、その人を愛する家族や仲間がいる。見えてないだけで、そこには笑顔の溢れる生活があって然るべきなのだ。


「そうだな。例えば俺にしても、貴様という仲間がいる」


 キザな台詞を言いたくなる症候群を発症した隊長を他所に、隊員は遺跡に残る生活の痕跡を一つ一つ丁寧に写真に収めていく。


「きっとここで、魔王様を囲んで食事をしていたのでしょう。食事があるってことは、食材を用意する者がいて、それを料理する者がいて、使い終わった調理器具や食器を洗う者がいる。人間の王宮と変わらないですよね」


 隊員の言葉に、隊長は両目を閉じて息を深く吸い込んだ。

 太古の昔、この遺跡で生活していた魔王と同じ空気を吸っている。そんな気分を味わいたいのだ。


「食事を用意する者は、日々そこにプライドを賭けていただろう。味はもとより、食べる者の健康も気遣っていたに違いない。それが料理人という存在だろう。種族が何であれ、料理人のプライドに差は無いはずだ」


 魔王の城を維持するためにそこで働く者も多かったであろうし、それらを養うために魔王は魔王で相応の苦労をしてきたはずなのだ。


「そうっすね。きっとサキュバスの可愛いメイドさんとかいたんだろうなぁ……あ、よだれ出た」

「馬鹿者。心温まるアットホームな空想に、貴様の邪な発想を差し込むな」

「隊長も涎でてますよ?」

「なっ!? こ、これは……か、花粉症だ」


 魔王という存在は、必ずしも人間を滅ぼそうとする存在ではない。

 己の世界征服の野望を叶えんとした魔王も多いが、それは人間とて大きな差はないであろう。男が求めるものは、いつの時代も金と権力と女である。


「そう考えると、魔王って人間くさいですよね。本当に凄い実力を持っていたら、わざわざ世界征服とかしなくても十分じゃないですか。なのに大きな事をやろうとしちゃうとか、馬鹿ですよ」

「そうだな。それでわざわざ勇者に討たれるのだから、大人しく生活していたほうが余程良い。にも拘らず、敢えて世界征服や人間滅亡に取り組むあたり、どうにもし難い魔王の性に逆らえない、心の弱さが垣間見れるな」


 好き放題言いながら、遺跡である魔王城を見て回る。


「大きな風呂だな」

「そうっすね。ここでサキュバスちゃんとお風呂……」

「馬鹿者、邪な発想を差しこむな!」

「隊長、よだれよだれ」

「くっ」


 人間の城と違い、多種多様な魔物が共同生活を送っていたであろう魔王城。

 そこにあったであろう様々なドラマ。

 人間同士の生活しか知らない二人には、想像力をどれ程膨らませても追いつけない物語があったはずである。


「自分、魔王が題材の作品をスコップしたくなりました」

「そうか奇遇だな。実は俺もだ」


 二人の長期休暇はまだ半ば。

 この世界の遺跡を巡った後は、南国リゾートを楽しむ予定が入っている。


「隊長、自分、南国リゾートも捨てがたいとは思いますけど……」

「ああ。もう何日もスコップを握っていない。そろそろ掘らねば腕が鈍る」


 こうして二人は、素敵な魔王を探してスコップすべく、長期休暇を返上したのであった。




◆以前に読んだ作品を紹介します


タイトル:魔王さまとメイドさま

ジャンル:異世界ファンタジー

  作者:おおさわ様

  話数:26話

 文字数:104,144文字

  評価:★94 (2017.04.14現在)

最新評価:2017年1月26日 17:51

 URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054880560386

 検索時:『魔王様とメイド』で検索しましょう。


キャッチコピー

 ありがとう、吾輩の元に来てくれて。――魔王さま談――【完結】



感想★★★

 一話完結で展開していく、魔王様の日常を描いたホームコメディ。

 笑いの効果音が随所に入ってきそうな、米国のホームコメディを彷彿とさせるようなテンポの良い描写が愉快。


 大事なのは、間違いなくハーレム状態なのに、いまいちハーレムになり切らない事。いやらしさの欠片も無い、清々しいハーレムというのはなかなかお目にかかれない。それがこの作品です。


 笑いあり、感動あり。

 素敵な異世界ホームコメディを、皆さまもぜひご一読ください。

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