第3話 宿屋に泊まりたい二人 ~【宿屋の主人だが最近の勇者はマナーが悪い】~

 鬱蒼とした森を抜け、彼らはようやく小さな村にたどり着いた。

 いつから、何の目的で旅をしているのか、それは誰も知る事はない。


 当人達は無論の事、著者でさえ知らない旅の目的を論ずる事など、無駄以外の何物でもないだろう。


「隊長、そろそろ感想を書かないとヤバいです」

「貴様、そう言うならば今すぐにでも書け」

「隊長、では今から書きますので、宿に入りましょう!」

「貴様、宿に入る金などもっているのか!」


 無くはない。

 だが、それ程余裕があるわけでもない。


 そうは言っても腹は減るし、寒風吹きすさぶカクヨムの地で野宿は殊更厳しいのも事実である。

 せっかく人里に出れたのだから、暖かい食事と、暖かい布団にありつきたいと思うのも自然な事であろう。


「まあいい。今日は特別だぞ。宿を探そう」

「隊長~!(涙)」


 二人は村で宿屋を求めた。

 だが、小さな村に宿屋などあるはずもない。


「隊長……町までいけばあるそうですが、歩いて三日かかるそうです」

「仕方がない。泊めてくれる家を探そう。だが期待はするなよ、野宿する覚悟は決めておけ」


 だが既に、隊員の体力は限界に達していた。


「隊長、自分、幻覚が見えてきました」

「どんな幻覚だ、言ってみろ」


 うつろな瞳で答える隊員。


「宿屋が見えます。気のいい主人と、闊達で明るい感じの可愛い子がいて、ああ、エルフの娘が食事を運んでいます。可愛いなあ」

「貴様! 気をしっかり保て! そんなご都合主義な宿屋があるなら俺も今すぐ泊まりたい!」


 隊員の身体を揺すりながら、隊長自身も既に体力の限界を迎えている。


「隊長……泊まれますよ、すぐそこに見えますから」

「駄目だ、それは見えてはイカン宿屋だ!」


 隊員は震える手で幻覚に手を伸ばす。


「すぐそこですよ。厳つい、すげえデカいコックさん、まさに戦うコックですよ。それにエルフの男もいます。かっこいいなあ。客も綺麗なお姉ちゃんがいます。行きましょう隊長、俺たちも……あの……宿屋……に」

「しっかりしろ! そんな宿屋はこの村に――


 隊長の言葉を子守歌のように聞きながら、隊員は意識を手放して夢の世界へと足を踏み入れるのだった。





◆先日読んだ作品を紹介します


タイトル:宿屋の主人だが最近の勇者はマナーが悪い

ジャンル:ファンタジー

  作者:麓清様

  話数:20話

 文字数:48,228文字

  評価:★51 (2016.11.08現在)

最新評価:2016年10月21日 00:32

 URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054881418466

 検索時:『宿屋』で検索しましょう


キャッチコピー

 ダンジョンで宿屋を営む主人と迷惑な勇者ご一行様の戦いの物語!?


感想★★

 一話読み切り型の、異世界の宿屋の日常を描いた小説。

 苦あり楽あり、個性的な部下達と繰り広げられる宿屋ライフ。

 特に転生やチート的要素は無く、エピソードも其々しっかりと深い内容に練られており、飽きることなく、楽しく読み進める事が出来ました。


 ただ一点、数あるエピソードの中で一つだけ、かなりデリケートな題材に手をお出しになられており、どうするのかなと思って読み進めたのですが、結果として賛否別れるであろう着地点になってしまいました。

 異論を唱えたい人からみれば、痛烈に批判されてしまうかもしれません。

 ですが、そこらへん特にストレス無く読めてしまう人が大半でしょうから、作品としてはこれでいいのだと思います。


 ぜひご一読下さい。

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