第3話 駄菓子屋と

彼女は店の奥のレジまでつかつか入って、レジの椅子にどさっと座った。


「ようこそ星野君!【駄菓子屋 あまみち】へ!!!」


は……?


やばい、展開に追いつけない。


「ようこそ……って、え?」


甘道はまたふふっ、と笑った。


「びっくりした?ここうちの店なんだよ」


「甘道の……?」


「うん!明治時代から続く、老舗駄菓子屋、あまみち!」


「……そうなんだ」


「どう?びっくりしたでしょ」


「……」


確かにちょっと驚いたが言葉には出さない。

彼女にいちいち対応すると時間がかかる。

早く買って帰らないと。


「ところで、何買いに来たの?」


「え…何をって……あ…」


しまった。弟に何を買ってくればいいのか聞くのを忘れた。

あいつは好みに合うものを買ってこないと暴れるからな……

まったく、心の優しいお兄ちゃんがわざわざ買ってきてあげるっていうのにうるさい奴だ。


「おすすめの商品教えてあげようか?」


何を買おうか考え込んでいる俺を見て、甘道はにやにやしながら聞いてきた。

俺はちょっと考える。

これ以上甘道と絡むと時間がかかりそうだが、合わないものを買ってきたときの弟の暴れようを考えると、こっちのほうが楽そうだ。


「じゃあ適当に二三個紹介してよ」


「うん! えっとね……」


許可をもらった彼女は、意気揚々と説明を始める。


「これはねえ、もちもちしてておいしいよ!買うべし!」


「はあ」


「これは駄菓子の王道だね!一本十円!」


「はあ」


なんともよくわからない説明だ。

将来宣伝系の仕事にはつけないだろうなと思う。

しかしまだまだ彼女の説明は続く。


「これはおいしいよ!甘いの!!」


「俺の弟甘いの嫌いなんだよね」


「えー…おいしいのに」


「家がケーキ屋だっていうのに何で甘いものが嫌いなのかね」


さらっと、俺的にはさらっと意識せず言ったつもりだった。


「え?星野君の家ケーキ屋なの!?」


過剰に反応する甘道。

言ってしまった後で、甘道は一度興味を持ったものは飽きるまでとことん追求する奴だと、クラスメイトが言っていたことを思い出した。


「じゃあさ、星野君…」


そう言って彼女はにこっと笑った。




「今から星野君のおうちに行くね!」






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