九ノ罪 《灯台下暗し》


 少女の身体の汚れの除去と治癒を同時進行させた為、終わるのは案外早かった。

 鎖は外そうとしてみたが鍵もなく、明日に持ち越しとなった。

 明日は選抜戦当日の為、鎖の事は明日に回してブラーズは寝ることにした。


 ルシフと少女も同じ部屋で泊まる事になったのは、何か起こった時の為である。幸い部屋には二つのベッドがある上に、ルシフは少女の見張りをしてくれるようだから助かる。


 完全に寝につく前に、少しだけでも少女の拘束の解き方も考えようと思った。

 恐らく武器で破壊は出来るが、それでは腕を怪我させてしまう可能性がある。

 もっとこう、鎖そのものを何処かへ飛ばせるようなものがあれば...



「あぁ、あるじゃん、一つだけ。」


「どうした、寝言か?」



 入口の扉に寄り掛かって立っていたルシフがブラーズの発言に耳を傾けた。

 ブラーズは上半身を起こしてルシフの方に身体を向けた。



「んなわけねぇだろ。それより、こいつの拘束の解き方、見つかったんだよ。」


「ほぅ、どんなのだ?」



 ルシフが尋ねると、ブラーズは無言でルシフを指差し、言い放った。




 ※※※※※※




「...あぁ。なんだ、そんな事か。あまりにも身近過ぎて考えもしなかった。」


「だろ?いや、俺も今ふと思い付いただけなんだけどさ。」


「まあ、最近使ってないからな。最近使ってないからな。早速やってみるか?」


「あぁ。」



 ブラーズが頼むとルシフは少女の傍に行き、掛け布団を剥がすとその小さな額に片手を触れた。


 すると、少女の両手首に固く巻き付き縛り付けていた鎖が、少女のそこから綺麗に消え去っていた。

 そしてその鎖は、部屋に置かれていた椅子の脚にがっちりと巻き付かれていた。


 これがルシフの持つ異能である。

 彼女は一度触れた人から物を奪い取る力と、自分の持ち物を辺りの人や物に押し付ける力を持っている。



「ふぅ、これでよし、と。 助かったぞ、ブラーズ。」


「ん、俺何もしてないけど、まぁいいや、どういたしまして。」



 ルシフは少女の両足の鎖も同じように取り除き、椅子の脚に押し付けた。

 鎖の除去を終えるとルシフは少女の後ろに組まれている腕を元通りに戻し、布団を掛けた。



「さて、んじゃ俺は改めて寝るよ。」


「ん、おやすみだ。」



 明日...いや、今日は選抜戦当日。

 少しでも実力を十分に出したいブラーズはベッドに横になると、再び寝息を立て始めた。


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強者がただ強いだけとは限らない あるみな @pmmmdal

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