第5話 学園祭一日目(二)

向葵里ひまりちゃんも……」

「ボクはいいから。ほら、和美かずみちゃん」

「あ、あの~っ。恋を占ってもらえるんですかーっ?」

「やったーっ! じゃなくて、そうですよ。どうぞどうぞ。第一号のお客様いらっしゃーい」


 板で作ったパーティションの外から、女子生徒の声に麻衣の喜んだ声が聞こえてくる。


「じゃあ、次にボクもお願いします」

「第二号のお客様いらっしゃーい」


 はりきり過ぎの麻衣が、第一号の背の高い女の子を連れてきた。

 俺と近い背丈だが、シューズに赤いラインが入っているから一年生だ。

 ポシェットをかけてたので、わきの机に置いてもらってから、椅子に座らせる。

 正面を向いた彼女は、少し難しい顔をしだす。

 服だ。

 俺の着ている服に違和感を覚えてるんだ。

 ここは何も触れさせないように進めよう。


「それで聞きたいことは?」

「ああっ、えっと……カノジョがいるって言う人を好きになって……その彼が気になって……どうしたらいいのか知りたいんです」

「わかった。まずは水晶に片手を触れてくれるかな。その上に手を乗せるけど、ちょっとした儀式みたいなものだから。それと俺が語りかけるまで、そのまま目をつぶっていてくれ」

「はい」


 和美と言われた子が、恥ずかしがりながら遠慮がちに腕を水晶に置いて目を閉じる。

 その手を両手で軽く押さえると、軽い頭痛と耳鳴りがすると映像がいくつも現れフラメモが始まった。

 気づくと背後から、ヒーリング系のBGMが流れ出ている。

 椎名がこちらに合わせて仕事をしているようだ。

 男性が出ていそうな映像をチェックしてると、二つ目に教室で一人の男子を追っている映像を見つける。

 彼女の気になる感情的な記憶は、すぐ現れ出てきた。

 ロンゲの細っそりしたタイプで、目が細く少しふてぶてしいものを感じた。

 これがカノジョありって言う、彼か? 

 他の映像も、彼に視線を送ったり外したりして気になっているのが、よくわかる映像が出てくる出てくる。

 片思いの好きってやつか。

 だが、この子の目を通してだけではわからん。

 しいて挙げれば、仲間と会話しているところだけで女の影はない。

 しかし、よく観察して見ているな。

 そういえば、直接会話がないぞ……ってことは。

 彼女の手から水晶に手を当てて、俺は紫色の玉をのぞき込んで質問する。


「彼とは、話とかしてないね? 無口な方かな」

「えっ、ええ。そうなんです。恥ずかしいし……でもなんで知っているんですか?」

「ええっ、それは占いだよ。はははっ」

「あっ、そっか。そうですよね」


 不思議そうに顔を傾ける一年女子。


「そうそう、だからもう少し積極的に出ること」

「あっ、はい」

「それで彼の、その、つきあってる子って、どんな子かな?」

「私はいるような話を聞いただけで、誰とまでは……」噂か。そんな感じはしてたんだが、ここは強行突破でいこう。

「じゃあ、今の段階では、具体的なことは言えないけど、決まった子は、まだいないんじゃないかな?」

「えーっ、本当ですか?」

「事実を知りたければ、本人に聞くこと」

「そっ、そんなできません。恥ずかしいです」


 首を横に何度も振る後輩。

 ちょっと可愛いと思ってしまう。


「それに……こんな背の高い女から聞かれたら……ウザがられそうで」


 背がコンプレックスになっていたのか。


「それ考えすぎ。男なんて、異性から好意を持ってもらうだけで舞い上がるモンだよ」

「そう言うものなんですか」

「まずは別の人に介してもいいから、本人に聞くこと。それで恋愛運が開けることになる可能性は大だよ。えっと、俺からは、それくらいのアドバイスかな」

「あっ、ありがとうございました」


 少し頬を染めた彼女は、立ち上がりお礼を言って出て行くと、外で待っていたもう一人から声をかけられる。


「どうだった?」

「うん、私の性格当てられちゃった。ここの恋愛運、当たる気がしてきた」

「ホント? じゃあ、次ボク。お願いします」

「はい、どうぞ。あっ、ちょっと待ってね」


 麻衣が入ってきて、手前に乱雑に置いてあった着替えや道具一式を後ろの椎名に預けて戻っていく。

 入れ代わりに二人目の女子が入ってきた。

 今度は背が低くポニーテールの子だ。


「今度はボクです。見てください」


 ボクっ子、来たーっ。

 じゃなくて、先ほどと同じ要領で彼女の手も触る。

 柔らかい。

 続けて可愛い女子に触れるって、もしかしてこれ、美味しくね? 






 ボクっ子も十分ほどで終り、笑顔で出て行った。

 その後、すぐ麻衣が入ってきて調子を聞いてきた。


「どうって? いいんじゃないか」

「そう。なら新たに3人来るわよ。また一年生のグループね」


 追加が来たのか。

 暇だと思ったら忙しくなってきた。


「じゃあ、お願い。さっきの二人は好評だったから」


 俺をいちべつすると、楽しそうに出て行った。

 新たに女子が入ってきたが、メガネっ子で背が低かった。

 俺の前で立ち止まると、顔をほころばせて、


「写メ、写メ」


 そう言ってポケットから携帯電話を取り出し、俺に予告なく写真を撮り始めた。


「おい!」

「もう少しお願いします。その服が余りに似合ってますから」

「おーっ。似合ってる? よしよし、もっと撮っていいぞ」


 あっ、余計なことを言ってしまった。

 それを他の女子二人も聞きつけたのか、中へ入ってきた。


「わっ。出来がいい」

「良質な作り込みだわ。いい。似合ってます」


 どうやら、コスプレ関係の三人グループだったらしい。


「おほっ。そうか?」


 俺が立ち上がってポーズを取ると、他の女子も携帯電話を取り出して写真大会に変わった。


「あっ、じゃあ、こんなポーズ取ってくれますか?」


 メガネっ子が指示を出し始める。


「ううん。こうか」


 俺はうっかりと指示通りにポーズを取ってしまう。

 騒ぎに麻衣が入ってきて呆気にとられるが、彼女もポケットから携帯電話を取り出すのを俺は見た。


「駄目よ。コスプレ大会じゃないから、ちゃんと占いに従事しなさい!!」


 椎名のかつが、パーティーション板のうしろから入った。

 三人組も声に怖気づいたのか、麻衣の指示で二人が大人しく外に出ていく。


『後でまた撮らせてください』


 メガネっ子が、小声で言いながら席についた。

 占いを始めると彼女はコスプレ男子を見つける方法を聞いてきたので、フラメモでのぞいてみようとする。


「それじゃ、手を触りますよ」

「ええっ? いやです」

「いやじゃなくて、儀式なので」

「えーっ。これってセクハラじゃないですか?」


 こいつ意外と感がいいのか? 

 あるいは潔癖症か?


「いやいや、そうじゃなくてね。じゃあ、何か持ち物を……さっきの携帯でいいから。代行品が必要なんだ」

「それなら、わかりました」


 ポケットに手を入れて携帯電話を出してきたので、それに手を当ててフラメモを試みる。

 ついさっきの写真を撮る勢いで行動しているのを、動画での当たりにさせられた。

 周りを気にせず我が道を行くタイプだ。


「積極性がありすぎて、男子グループに引かれているようだ」

「そうなの? あっ、マリコにも言われたことあった。……そうなのかな」


 メガネっ子は、一人で納得して手を口に当てる。


「もう少し温和にお淑やかにするのもいいと思うぞ」

「うん。……わかりました」


 神妙になって、次の女子と入れ代わる。

 三人組の二人もメガネっ子と同じような内容で、それぞれに合ったことを忠告して終わらせる。

 三人目がパーティションの外に出ていって、終わった二人と合流すると、かしましさがこっちへ聞こえてきた。


「後でまた撮らせてもらえるよ」

「良花よくやった」

「でも、顔がもう少し良かったらね」

「そうなのよ」


 なにーっ!? 

 三人組との撮影は中止だ。


「ふたり組み、来たよ」


 そこへ麻衣が入ってきて、合図を送る。

 続いてる? 

 レストタイムくれよ。






 十二時のチャイムがなり、前哨戦の土曜日が終了した。


「もう、クタクタ」


 占いが一段落すると、疲れた体を机の上に横たわる。

 二十人以上はフラメモで視た気がする。

 それも昼近くには、ひっきりなしにだ。

 すぺて女子だったが、陰口やいじめの現場とか見てしまい、途中から美味しいとか思う余裕がなくなってしまった。


「何気に評判良かったよ。終わり頃は、当たっているって口コミで来た子ばかりだったような感じ」


 麻衣が中へ入ってきながら言った。


「あのさ。明日もこんな感じで一日やるのか? 交代制にしない?」

「駄目よ。忍の勘のよさが評判になってきたから応えないと」

「広瀬は誰にでも当てはまる恋愛ネタを、自分のために診断されたと思い込ませる話術に長けているのよ」


 そう言って椎名が、パーティション裏から出てきた。


「そっ、そうかな、はははっ」


 良い意味で勘違いしてくれてる。


「誰にでも当てはまる話術ってのは、バーナム効果を狙ったな」


 雅治がここぞとばかりに出てきた。

 変に当てられると困るから、奴は無視。


「お前、結局遊びまわって様子見にも来なかったな」

「講堂でライブ見ていたら時間になった。はははっ」

「うらやましい。明日働けよ」


 雅治に釘を刺してから、立ち上がり着替えるために服を探す。

 だが、見当たらないのでパーティションの裏に入ってみるが、こちらにもない。

 水晶の置いてある場所に戻ると、椎名と雅治が出て行って麻衣一人になっている。


「ないぞ。俺の制服。あれーっ? どこ言った?」

「ああっ。荷物移動のときにどこかに潜り込んだかしら?」


 麻衣が当たり前のように言った。


「なぁにーっ?」

「もうしばらくその格好で」


 麻衣が恐ろしいことを言ったと思うと、おもむろに携帯電話を取り出した。


「ちょっと待ってね。写メ撮るから」


 携帯電話を俺に向けてシャッター音を響かせる。


「止めろ。俺は着替えて昼飯食いたいんだ」

「だーめっ、もう一枚。右向いて」

「おっ、こうか?」


 彼女の指示に、うっかりポーズを取る。

 いや、違うだろ。


「お、俺の服。わざと隠しただろう」

「えーっ、はははっ、んなことないよ」


 調べればわかる。

 どうせ、ギリギリまで着させておく魂胆だな。

 非常手段として、フラメモをまた使わせてもらうぞ。

「何、へへっ、どうしたのかしら忍クゥン。顔が怖いよ。はははっ」


 麻衣に近づき、肩に手を置いてフラメモの発動を待つ。


「あっ、あによ。セクハラ」


 二十回以上やってたから、感が戻ってきている。

 すぐ映像が現れて浮かんだので、彼女の肩から手を放して映像に集中する。

 少し前の携帯電話で撮られた俺の映像が現れる。


 ――これじゃない。もう少し前だろう。


 隣の映像がそれっぽかったので、意識して記憶映像を開いてみた。

 それは裏のパーティションから、作業道具と俺の服を持って出て行くシーンだった。

 客引きで出ているときに持っていったようだ。

 進んだ先は視聴覚室? 

 クラスの倉庫用になっている部屋に移動させたのか。

 証拠は握った。

 ふふっ、そうか。

 そうか。


「よっしゃ」

「なっ、何がよっしゃよ。このセクハラ忍。サイテー」


 そう言って、俺から一歩離れる麻衣。

 あっ、これは……。

 また勢いで力を使ってしまった……俺って。

 この学校でも居場所なくすぞ。

 反省。

 そこにまたシャッター音。


「だ、か、ら。もう数回ポーズ撮らせて。そこ、うんうん、もっと体そらしてみて。いい、いいよ。あのキャラに似てきた」


 俺が落ち込んで言いなりになっていると、何かのポーズに執着する麻衣は、腐の暗黒面に落ち始めていった。






「すいませーん。あのですね」


 初めに占った、一年女子二人組みが入ってきた。

 和美と向葵里って名の、ボクっ子だ。


「おい、二人ともじゃれてないで」


 その後ろから雅治と椎名が続き、占いコーナーの空間が超満員状態になってしまった。


「彼女たちの話聞いてたのよ」


 椎名が言った。


「話って?」

「ええっと……」


 背の高い和美が言いよどむ。


「なくしもの探してるんだって」

「えっ、何をなくしたの?」


 麻衣が聞くが四人も入ってきたので、俺の横に異動して肩を触れ合わせている。

 セクハラだ、というよりフラメモに気をつけねば。


「はい……その」

「サイフの入ったポシェットをどこかに忘れたんです」


 隣のボクっ子が代わりに言ってくれた。


「二人とも知らないか?」


 続けて雅治が聞いてきた。


「ポシェット? うーん」


 俺と麻衣は首を振る。


「ここには、忘れてないようですか?」

「なかったようだけど……」

「どうしよう……ケータイや家の鍵も入っているんです」

「困ったね」


 これだよ。

 この展開ならフラメモは許せる。

 いやっ、ここで使わなきゃ。

 使い分けをするんだ。


「そうだ」


 俺は、和美という女の子に肩に手を置く。


「ねえっ、思い当たる場所はないの」


 フラメモで情報収集。

 すぐいくつもの映像が目の前に現れた。


「うーん。ほかに心当たりは行ったんですけど。……ここが最後なんです」

「そう」


 彼女の言ったとおり、動き回っている動画ばかりだ。

 これは少々時間がかかるか……いや、彼女がポシェットを置く現場シーンを発掘。

 それに俺の服が近くに見える……。

 あれっ? 

 ついさっき麻衣の映像でこのポシェット見たぞ。


「あーっ、またセクハラしてる!」


 麻衣が騒ぎ出して、集中力が途切れた。

 和美がはにかむように俺に向く。

 いかん、手を乗せっぱなしだったので放す。


「占いしてから、手当たりしだいね」

「麻衣うるさい」

「あんですって」


 彼女は、占いを始めたときに外したんだな。

 それを気づかず麻衣が、俺の服と一緒にひとかたまりとして。


「ちょっと来なさいよ」

「いてて、そんな肩を掴まなくても」

「みんなちょっと待っててね」


 そう言って、麻衣は苦笑いする椎名たちを横目に、俺をペニヤ板のパーティション外に引っ張り出した。

 今日の麻衣は怒りっぽい、あの日か?


「ちょっと、調子に乗りすぎてるわよ」

「それより、俺の服は?」

「あ、あによ。話そらさないの」

「倉庫用になってる視聴覚室にあるな」

「えっ、えーっ?」


 一歩下がって仰天する麻衣。


「取りに行く」

「そ、そうね、でも彼女のポシェット探すのが先でしょ?」

「だから、俺の服と一緒だ」

「ポシェットが何で忍の服と?」

「思い出したんだ。彼女の占いのとき、テーブルの上に置いたのを服の上に移動させていた」

「えっ。嘘ーっ?」

「俺の服をどうしたか、よく思い出してみろ」

「うーん。あのときは、占いが始まってたから机の上の服を急いで持ち出して……あーっ! ポシェット、混じってたかも。ううん、あった……かも」


 顔を宙に向けてもじもじしだす彼女。

 俺は麻衣の鼻先に人差し指を向けて、言い放つ。


「お前が犯人だ!」

「うぐっ。……でも、しっ、忍の服も一緒なんだから、私たちグルなんだよ」


 麻衣が焦った思考で、俺を共犯に引き込んできた。


「とにかく視聴覚室行ってみよう」

「倉庫用になっていて、一般の人が入らないように鍵かかってるよ」

「ああっ、そんな話だったな。じゃあ、鍵もっているのは麻衣か?」

「私はしまうときに借りたの。鍵の管理は中田君だよ」


 お隣の星占いテントか。


「おーい中田。いるか?」

「うん?」


 俺の声に、テントから中田が首を出してきた。


「視聴覚室の鍵貸してくれ」

「えっ、まだ終わってないぜ。クラスの終礼あるだろ」

「俺の服があるんだよ。コスプレのまま並びたくはない」

「別に構わないと思うが?」

「いいから、くれ」


 俺の催促で、テントから出てきてポケットに手を入れている。


「ん……あれ? ない」

「何が?」

「鍵だよ」

「あのな」

「わーっ、鍵なくしたぞ」


 突然田中は気を揉みだして、テントに入り騒ぎ出す。


「参ったな。どこかで落としたようだ。見つからねえ」


 テントの中にいたメンバーと、パーティションの中の椎名たちが出てきた。


「落ち着け。よーく思い出してみるんだ」

「んーっ」


 腕組みして思考する田中。


「どうだ?」

「わ、わからん。全く覚えがないんだ」


 着替えて終礼に備えたいので、俺は中田の肩を軽く叩いてそのまま手を置く。

 もちろん情報収集。

 意識を集中して。

 フラメモを発動。


「肩叩かれても思い出せねえって」

「そうか、思い出せないか」


 映像を探しながら、俺は答える。

 三つ目の映像に、廊下を歩くシーンが現れる。

 鍵が床に落ちた音が耳に入る。

 これだ。

 すぐ校内放送がうるさく流れて、落ちた場所から離れていく。

 だが誰かに呼ばれて振り返るが、グループのメンバーで星占いテントの話をしだす。

 その視界の彼方に、鍵を拾っている奴がいた。

 あーっ。

 そいつは拾って視界から消える。

 田中が前に動き出してわからなくなった。

 だが、鍵を拾ったロンゲの細っそりしたタイプで少しふてぶてしい男。

 覚えてるぞ。

 たしか、探してるポシェットちゃんの想い人じゃなかったか? 

 中田はまったく気づいてなかったんだな。

 しかし、今日はフラメモの大安売りだ。


「しかたない、合鍵が教員室にあると思うから聞いて来るよ」


 中田は頭をかきながら言ったが、俺は制止させる。


「えっ? なんで」

「後にするから」

「そうか。ワリイな。俺も後で取りに行っとくよ」


 そう言って星占いのメンバーと一緒にテントに入っていった。

 反省会らしい。






「どうしたの? 鍵ないと入れないよ」


 うしろで麻衣が聞いてきた。


「いいから。ねえ、君」


 俺はポシェットの持ち主の和美に質問をした。


「はい? 先輩、何でしょう」

「彼の居場所知ってる?」

「えっ、えっ?」

「彼が知ってるっていうか、鍵を握っているから」

「えーっ、甲斐君が?」

「甲斐君って言うのか」

「もしかして、占いですか?」


 隣にいたボクっ子の向葵里が聞いてきた。


「まあ、そうだね」

「えーっ!」


 後輩女子二人がハモる。


「甲斐君は、さっきクラスにいましたよ」

「じゃあ、会いに行こう」

「はい」


 明るくなった和美。

 まったく怪しまないのは、占いを信じているのだろうか。

 俺って信用されてる? 

 三人で歩き出したが、麻衣が腕組みして見送るので声をかける。


「麻衣も行こう」

「何で?」


 面倒そうに言ってくれたので、耳元にささやいた。


「それは犯人だから」

「うっ」


 声を失う麻衣を引っ張って、雅治と椎名に留守番を頼んだ。

 和美を先頭に俺たちは、彼女たち一年の教室に向かう。






 教室内をのぞくと、机がいくつか連なって白い生地が被せられていた。

 教壇側には、台の上にコーヒーメーカーやカップがいくつか並んでいて、喫茶店の催しになっている。


「あっ、あそこ」


 鍵男はすぐ見つかった。

 他の男たちとテーブルを囲んで話していた。


「甲斐君」


 向葵里が先に声をかけると、振り向いて立ち上がる。


「甲斐君ちょっと来て」


 今度は和美が声を出す。


「なんだ?」

「先輩が話があるの」


 甲斐はやる気なさそうにこちらに歩んでくると、目を細めだした。


「あっ、そっちは二年生の……ぷっ、こんちは」


 俺のコスプレは吹き出すものか? 

 くそーっ、勝手に笑いやがれ。


「先輩が何の用ですか?」

「鍵を預かってくれていると思うんだが、うちのクラスで使ってた鍵でな」

「か、鍵ですか? 何のことだろう」


 露骨に 面倒くさそうな顔をする。


「甲斐君知らない?」

「和美ちゃんのなくなったポシェットも、それに関係してるようなの」

「そう、ないから困っているのよ」


 麻衣も加勢する。

 俺もこのコスチュームのままで困っているし。


「和美のポシェットが?」


 甲斐は表情を変えて、彼女を優しく見る。

 俺とえらい違いだな、おい。


「ええっ」

「あっ、そうだ。昼間、鍵拾ったんだった」


 唐突に甲斐が笑顔で言った。


「それだ。見せてくれ」

「えっと……これですよ」


 ポケットから差し出された鍵を、俺は受け取りながら、彼の肩に手を置く。

 そしてフラメモが発動。

 だが、甲斐が嫌そうに俺をにらむ。

 麻衣も三白眼で俺をにらんできたので、早めに手を退ける。


「ありがとう、これだよ」


 フラメモで彼女と関係する映像が、俺の前にすぐ現れた。

 いくつかのシーンをのぞくが成果なし。

 そして、甲斐本人の部屋に行き当たる。


 ――ふむふむ。良いところの坊ちゃんらしい。


 机にノートパソコン。

 すぐるものに目が言った。

 その隣に立てかけてあるフォトフレーム。

 和美の写真が入っている。

 こいつも彼女を……なんだ、相思相愛ってことかよ。

 和美に迷惑かけたから少し情報を引き出してプレゼントと思ったが、ちょっと肩を押してやればいいだけだ。


「……先コウに落し物として渡そうと思ってたら、忘れててさ」

「甲斐君、拾っていてくれてありがとう」


 二人の女子が頭を下げて感謝した。


「むへへへっ」


 甲斐がにやけ顔をした。

 おまえキモイぞ。




 俺たちは視聴覚室に行き、問題の鍵で出入り口の扉を開け室内に入る。

 中は乱雑にいろんなものが、見上げるほど押し込められていた。

 麻衣は室内をすり抜けるように進んでいき、荷物の場所を示す。


「あったーっ。これです。これです。よかった」


 あとに続いた美和が声を上げた。

 俺の制服や大工道具の上にあったポシェットを、取り上げて喜んでいる。


「ごめんね。わからなくて一緒にしちゃって」


 麻衣が謝りながら、俺の制服を手に持つ。


「いいえ、見つかったし、私の不注意もありますから」

「和美偉い」


 ボクっ子が友人をほめる。


「ありがとう、そう言ってもらえて助かるよ。それで、迷惑かけたから一つアドバイスをしよう」

「えっ、なんでしょう?」

「彼……甲斐君か、積極的に行けば、彼ゲットできるよ」

「えーっ! ホ、ホントですか?」


 目を輝かせる和美。


「間違いない、頑張れ」

「は、はい。ありがとうございました」


 二人の後輩女子は、廊下に出て駆けていった。


「いいの? 彼女にあんなプッシュして」


 そう言いながら、俺に制服を渡す麻衣。


「大丈夫」

「そう。ならいいや」

「うん、信じろ」

「本当に忍って……何でもない」

「何? 気になるな」

「ううん。相変わらず勘が鋭いんだって思ってね」

「まっ、まあなっ。はははっ」


 ちょっと後ろめたい気持ちになる。

 だが、彼女たちの笑顔でフラメモの使い方がはっきりした。

 自分にじゃなく……人のために。

 何でこんな簡単なことに気づかなかったんだ? 

 俺って単純な知恵でも、痛い目に会わないと出ないらしい。

 トホホ。

 痛い目に会っても、学習もできずにいるし……。

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