温泉旅館

 ヘラブナ釣りを二時間ほど楽しんだ私達は、レイクサイドパークにあるレストランで昼食を摂って、その後は、ゴーカートに乗ったり、ゲームセンターで遊んだりしてすごした。


 夕方になって、空が黄昏色に染まってきた頃、私達はレイクサイドパークを後にして、青々とした木々が茂る森の中の小道を歩いて、今日泊まる予定の、温泉旅館に向かった。



「めちゃ雰囲気出てるじゃん。しにせ~って感じ」


 その門をくぐりながら、その先に立っている旅館の、歴史を感じさせる古めかしい風合いの外観を前にして、麻衣が満足そうに。


「だろ? ここって、露天風呂があって料理も美味いのに、格安で泊まれる穴場的な旅館なんだぜ? 探すのには苦労したよ。ネット漁って、やっとで見つけたんだからな」


 正樹が誇らしげに鼻を高くする。



 私達が、玄関口から旅館の中に入ると、仲居さんが出迎えてくれて、今晩泊まる部屋まで案内してくれた。



 部屋に入ると、麻衣が、


「わー、ベランダにお風呂まで付いてる!」


 その部屋は、十畳くらいの広さで、ガラス張りの壁で隔てられたベランダには、小さな板張りのお風呂があった。


「景色も最高だろ?」


 得意になりっぱなしな正樹。


 ベランダ越しには、綺麗なオレンジ色の夕焼けに染まる山々が見える。


「ヘラブナ釣りも思ったより楽しめたし、正樹も、たまにはいい仕事するね」


 麻衣が、珍しく正樹のことを褒めた。


「だろ? 俺のこと、見直したか?」


「ちょっとだけね。でも、この部屋のお風呂にも入ってみたいけど、せっかくだから、大きな露天風呂の方から先に入りたいよね」


「三十分も山道歩かされて、汗でキャミがべとべと……気持ち悪いったらないよ……」


 汗ばんだキャミソールの胸元を指で摘まみながら、莉子が呟く。


「お風呂入れるならどこでもいいから、早く行こ」


「俺も結構汗かいたな。それじゃあ、さっそく大浴場の露天風呂に行くか」



 そういうことになり、私達は、部屋に用意されていた浴衣を持って、大浴場に向かった。

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