第8話 膝上10cm、こっそりアイライナーのぶりっ子論②


 中学一年の入学式で、彼女と初めて出会った。二百人以上が集まる大きな講堂で、これからここで生活していくんだなーとか、友達できるかなーとか、素敵な先輩いらっしゃるかな、なんてあまりにステレオタイプな新入生の期待と不安を抱えながら校長の長い話を聴いていたんだっけ。


(……眠い)


 校長、尺取りすぎ。思わず欠伸がでる。そんなとき、目の前の席に座る子の頭が、がくりと大きく揺れたのだ。


(……前の子、寝てら)


 自分自身があまり真面目なタイプじゃないことはわかっていた。――そんな私ですら、我慢してるのに、前の子と来たら……


 まったく、潔いこと。そう思ってしまった。なんだか好感が持てた。


 その子こそが透子だった。


 小学生のころから中学受験用の塾で素晴らしい成績を修めていたこと、親が相当教育熱心なこと、そして、勉強以外のことはなにもしないことが、噂として耳に入ってきたのは、それから1年以上してからのこと。――中学1年、入学したばかりの頃の私たちは、まだ、スクールカーストなんていう概念がなくて、あの子もこの子も同じで、スカート丈は皆膝下5cm、校則通りだった。


 だからこそ、私は透子と仲良くなれたのかもしれない。


 今でこそ、周りから一目置かれている私だけど、その当時はあまり友だちができなかった。元々きつい性格で、その癖、人見知りなところがあったから。


 お洒落でもなく、スクールカーストを上手く扱うこともなかった私に、彼女は「普通の友だち」として接してくれた。


 厳しすぎる親の愚痴をぼんやり聞いたり。


 テストの成績をくらべっこしたり。


 中学時代は、ときどき遊びに出掛けた。――透子には、塾をサボらせて。学校から少し離れたゲーセンでプリクラをとったのを思い出す。透子、普通の写真写りはイマイチだけど、プリはなかなか可愛い。あれ以来、私は彼女のメイクアップした姿を見てみたくて仕方がない。


 パンケーキの店に並んだな。私もそうなんだけど、透子も甘いものが大好きなんだ。ふわふわのパンケーキに生クリーム、キラキラのフルーツ。冷静を装っていても、彼女の目が輝くのを、私は見逃さなかった。


 そして、気づいたんだ。――可愛いものを心から愛する女子は、すごく可愛い。


 

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