第一章〜内蔵が捩れる話 中編〜

「………………………………………おい」

「ン〜? どうしたコクレイ?」

「どうしたもこうしたもあるか! なんでお前が平然と飯喰ってんだよ!?」

「え? 普通に腹減ったから……」

「ならなんで俺の目の前なんだ! 食うなら離れて食え、くっそ目障りだ!」

「え、えぇ……?」

──なんでコイツが平然と俺の前で飯食ってんだ……気が散って仕方が無い。

コイツは俺があの▪▪仕事をやり始めてから、程無くして俺の傍を彷徨き始めた奴だ。もしかしたら俺が普通の食事は味を感じないという事も、薄々気が付いてるのかもしれない。何故なら今コイツが飯を食っているの目の前で、俺は何も口にせずに本を捲っているのだから。俺はコイツの前で(正確には他人の前で)食事をした事が無い。いじくり回されるのは御免被りたいからだ。

「だってよコクレイ、飯食わなきゃ生きてけないぜ? 妖怪みたいに別のもの▪▪▪▪を喰ったりしてるなら未だしも……」

「…………飯中に妖怪話か、どうでも良過ぎるな」

一瞬俺の事かと思って息が止まった。そんな訳が無いのに。

「え〜? 結構好きだぞ? 妖怪とか……怪談話の類」

「誰が貴様の嗜好を話せと言った。俺は嫌いだ」

「あ、そうなんだ? なんか意外〜」

呑気にざる蕎麦をずずっと啜りながらニヤッと俺を見る。


──そのウンザリな顔を止めろ、殺されたいか……


「……ッ!」


そんな言葉が頭の中をよぎり、目の前のバカに気づかれないように、そっと息を吐き落ち着かせる。

どうやら昨日口にした怪談集の味が口の中に残っていたらしい。……当たり前か、なにせ昨日口にしたのは単なる怪談集じゃなかったのだから──……


「……ィ、レイ…コクレイ!」

「………………………あ"?」

「ぅお、睨まんでもエエやろ!? わてが悪かったて!」

「………………………元々だ、目つきが悪いのは。後うるっさい黙れクソ猿……」

「猿やない! 猿芰凪雲さるひしなぐもやて! ええ加減覚えてや!」

「………………………断る」

「酷っ!?」


──よく蕎麦食いながら叫べるな……


蕎麦の味が分からなくならないのだろうか、なんて無駄な事を思いつつ、抹茶を啜り、本を読み進める。

凪雲は暫くギャースカ騒いで俺が反応しないと分かると渋々……という風に食事を再開した。


…………ジュッ


「…………」


──今、傍で何か焼ける音がしたな……


お茶を飲みながら音の元を探ろうとして──……


「…………なんや焦げくさいな……」

「…………………………そうか? ……お前、蕎麦冷めてんぞ」

「あっ!? それ、先に言うてや、コクレイ!」

「…………………………知るかよ……」


一瞬目の前のアホが反応したのを見て、ギョッとした。


──コイツにさえ、理解わかってんなら……わざと、聞かせたようなモノか…………


少々……というより心当たりがあり過ぎて心の中で澪埼は“うげぇ……”っと辟易した。


──……これ以上、面倒臭ェモンは来なくて良い……


心の底からそう思った。澪埼自身としては、面倒臭い事はなるべく排除した上で、仕事を完遂し、そして気に入った場所で生命自身を殺す。それが最高ベストな死に方なのだから──と思っている。

……他人の考え方は知らないし、解らないが。


だから……


俺は遂行する。ただただ俺の為に。


──さァ、狂宴を開始はじめようか。


小さく呟いて、澪埼は自分の中にある起源力スイッチがガチンッと切り替わる音を確かに聞き取った──……。

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僕は死ぬ為の場所を探しています。〜自殺物語〜 幽谷澪埼〔Yukoku Reiki〕 @Kokurei

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