第5話 ザ・オークラ・プレステージの鳳梨酥

 数日前、このエッセイのタイトルを変えた。

 書き始めた時のタイトルは『茉莉花茶と鳳梨酥』だった。

 おやつエッセイを書くにあたって、やっぱり特別好きなものをタイトルにと考えたからだ。

 でも、書いてみて思ったのだ。


(このタイトルだと、中国茶や台湾茶、鳳梨酥だけを語る作品のようだ……)


 実際、台湾のお茶は大好きで、向こうで茶器を買い込んだ程だ。あの素焼きのコロンとした小さな茶器が愛おしく、たまに家に客人がある時に張り切って淹れたりする。なぜ客人のある時なのかと言うと、家族はあまり量を飲まないのだ。だが、良い茶葉は何煎も美味しくいただけるらしい。ちなみに、これは台湾で訪れたお茶屋さんのご主人の言葉だ。そう聞いてしまったら、ケチな私は人数がいる時にしか淹れる機会がないのだ。

 脱線してしまったが、好きではあるものの、私に語れることなどそれくらいのものだ。専門的な知識などないし、好きの延長線上で見聞きしたものなど、すぐにネタが尽きる。鳳梨酥もまた然り。

 それに、他のお菓子も食べるので、誤解は避けたい。その結果が、今のタイトルというわけだ。


 そんな今日のおやつは、鳳梨酥だ。


 しかも、ザ・オークラ・プレステージ台北の!


 その名の通り、ホテルオークラ系列の高級ホテルだ。その一階にあるベーカリーに、話題の鳳梨酥があるのだという。勿論、花蓮に行った友人からのお土産で、いただいた。

 この鳳梨酥がまた素晴らしいのだ。

 まず、見た目が良い。大体の鳳梨酥が、両端にギザギザのついた袋タイプのものに入っている中、ザ・オークラ・プレステージ台北の鳳梨酥は、ひとつひとつ違う柄の箱に入っているのだ。その箱がまた、少し光沢のある美しい柄で出来ており、その中にまるで宝石のように鳳梨酥が入っている。

 四つ角に一切の崩れもない、完璧な直方体だ。

 立体の封筒のような箱を開けると、柔らかなキツネ色の直方体が出現する。それと同時に、ふんわりと甘い香りが漂うのだ。

 少々行儀が悪いのだが、鳳梨酥を食べる時、私はどうしても開封してすぐ、鼻を寄せてクンクンしてしまう。柔らかな甘い香りに、幸せを感じるのだ。

 今回も美味しい。間違いない!

 パクリと一口食べると、クッキー生地の繊細さとコクが同居していることに驚いた。調べてみたら、生地に粉チーズが練り込まれているのだそうだ。そして、生地がとにかく舌触りが滑らか! クッキーなのに、ポロポロせず、舌でとろけてしまいそうにしっとりと口の中に広がる。そして、パイナップルの餡。ザ・オークラ・プレステージ台北の鳳梨酥は、パイナップルの酸味を残すタイプのようだ。思った以上に酸味がある。けれど、繊維は残っておらず、ねっとりとした餡は、これもまた柔らかく舌触りが良い。そこで、気づいた。

 パイナップルの酸味に負けないよう、生地にコクを出したのではないだろうか。

 それほどに、このコクのあるクッキーと酸味の強い、でもかすかに甘味の感じる餡の相性が抜群なのだ。

 この鳳梨酥は、本当にかなりの衝撃だった。

 いつか、このホテルを訪れてみたい。そう思えるほどに、私の中に強い印象を残した。

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