七
「確かにこうすればきっとバルトロさんも気づいてくれるな」
自動迎撃システムをすべて破壊した庭で、三人は燃え盛るロムス宮を眺めていた。燃えそうなものにとにかく火を点けて回り、そしてどこか爆発するものがあったか、ときたまに爆発して延焼範囲が広がっていた。
始まりとなった研究所の炎上、そして終わりとなるロムス宮の炎上。同じ炎でもエオンには違って見えていた。新しい技術が入っていたとしても、こうも広がってしまえば消えることなく朽ちていくのみ。
オーロの首都機能を担う、ロムスのロムス宮。数々の博士公が公務を行ってきた、長い歴史を持つ建物が超越者たちによってその歴史を終える。でもきっと更地になった後、次の博士公によってまた新たに建てられることになるのだろう。
三人はしっかりと燃えたことを確認し、元来た道を戻っていく。ロムス宮が燃えてしまったことは周囲の人間にもわかってしまっていて、あまりにも想像を超えた現実に混乱しきっている。
それでも逃げる三人に向かって攻撃を仕掛けてくる者もまだおり、かなり消耗してしまったエオンとキュアに変わってアルコが対応していった。長い距離を戦い抜いてきたのに、彼女はかなりタフに長ドスを使う。
そうしてバルトロが開けた穴へとたどり着き、その向こう側へと。
「やったな?」
地面へと座って煙草で一服しながら、相変わらずぼろぼろのままのバルトロが三人に尋ねた。
肯定すれば彼は特に表情を変えることなく数回首を動かして、ゆっくりと立ちあがった。
「よし、もう一仕事だな」
煙草を処理し、彼は中にわずかに血が残っている袋を吸う。このタイミングで飲むことから、いわゆる『好みの血』であるということはすぐエオンでもわかった。
ほんの一口だったが、なくなった左腕はともかく、全身の銃創が完全とは言わないまでも癒えていった。
「さあ、逃げるぞオマエラ!」
それだけで仲間たち全員はその意味を理解し、限界をとっくに迎えていた身体を奮い立たせた。各々獣の雄叫びをこだまさせれば、オーロ兵たちはその凄まじい音圧に圧倒される。
すると人間たちにもどこからか博士公が討たれてしまったという情報が入ったようだ。すれば一気に彼らがひどく混乱していくのがわかった。小国ではない、オーロの元首である博士公が人外に殺されたという事実は、到底信じられるものではなかった。
でもロムスから上る黒々とした煙を見つけ、現実を突きつけられていく。
「閣下が……死んだ……?」
「そうだ!」
バルトロが仲間たちをかき分け、一人オーロ兵と超越者たちの間に立つ。そして混乱している相手に堂々と大声で肯定した。そして後ろで上がっている煙を指差す。
「気づいている通りだ。あれはロムス宮が燃えている」
「バカな、そんな、バカなことが……」
ひゅんと一発の銃声とともに銃弾が彼の頬をかすめる。しかしその程度などハエが通り過ぎたくらいのもの。
「確認したければするがいい。ここは開けてやろう」
バルトロが合図を出せば、超越者たちは全員横へ移動しロムスへの門を開けた。
たじろぐ兵たちを無視し、超越者たちは揃って別の区の方向へと走り出した。ぼろぼろのエオンはとうとう脚が動かなくなり、獣となった仲間に乗せてもらう。右腕が折れたくらいで、まだ動けるキュアはそのそばを並走する。
「ワシたちのことを忘れたならば、また思い出させてやろう!」
オーロ兵たちは超越者たちを追うことなく、一斉にロムスの中へと消えていった。ある程度の追撃を覚悟していたらいしいが、そうはならずにバルトロはぼりぼりと頭をかいた。せっかくの血をもっと味わって飲みたかったようだ。
「アルコ、父さんがおんぶしようか?」
「父様、妾は十三歳。もうそんな歳じゃありません」
さらに娘にまでこういう反応をされてしまって、こめかみを指で押さえていた。
だからか、
「へばってんじゃねーぞ」
動けなくなったエオンをバルトロがからかった。その通りだとエオンは苦笑し、鼻をかく。キュアもエオンの頬を突き、けれど抵抗できない彼で遊んでいる。彼女が獣の姿のときに毛並を乱すお返しのようだ。
「ま、よくやった。寝とけ」
言葉に甘えて瞼を閉じていく。みんなの息遣いだけが聞こえて、戦いの鳴りは置いてきたようだった。
超越者たち、人外たちは今ここで人間たちに繋がれていた鎖がなかったものであると証明した。それはすぐにでもオーロだけではなく、隣国にも届き、そして揺らすことになるだろう。
どちらが上という話ではない。
それぞれ営みを送る権利があるのだ。
エオンは目覚めたあとまだまだやることがあると、色々といつものように考えすぎなくらいに頭に浮かべていく。しかしそれに睡魔を抑える力はなく、ゆっくりと確かに意識が落ちていく。
「おやすみ、エオン」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます