その昔、私は阿保だった

その昔、貧乏だった私はマメに貯金箱を持って二日か三日ごとくらいの周期で貯金しに行っていたのだが、郵便局の人に「いつもの子」と言われ、半ば親しみを込めて「阿保や」と笑われていた。

通帳の金額を見れば阿保さがよくわかる。

その後私は満を持して綺麗な格好をし、5万ほどじゃーんと現金で定期預金に回してやったのだが、それを応援するかのように、「金利が低いから10年しないと意味ないよ」と助言を頂き、以来定期預金は降ろさず、手つかずのままだ。

遊ぶ金もない。これも根気の話。


私は漫画リアルの影響を濃く受け、あらゆる面で自分流に頑張っていた。

メダカと犬と植物の世話を忘れない。口の卑しさを消そうと、豆腐だけで済ませていたら食欲が失せ、今じゃかなりストイックな食生活になった。出かけても何も食べたくない。ファミレスに入っても人のサラダバーに着いていくくらいで正直満足だ。

だが貧血がひどくなったので、野菜ジュースをたくさん飲むようになり、納豆も食べ始めた。レバーを買って来てもらってもりもりと食べる。

人間食べなきゃやってられない。

後日叔母が母と電話で「下品な話やけど、食べな体持たないから、食べなきゃいけないんだ」という話が聞こえ、全くその通りだと思った。

間違ったダイエットは10代まで。私はもう大人だ。太る必要がある場合もあるし、そんなタフな人の方が好感が持てるというものだ。

まあ、ストイックになれたのはいいことだけど。


隣んちのクソガキが、よく癇癪を起してはあれが嫌だああだこうだと言うのが聞いてらんない、と思っていたのだけど、子供心ながらに、現状に不満もたくさんあったろう。誰だって子供の頃は何か満たされてないものだ。

私はよくからかわれるためクソガキと書いたが、こういう子こそ案外目が出て好青年に育つもの。憎まれっ子世に憚る。彼が悟るべき課題はたくさんあって、図らずもそれを乗り越えることになるだろう。

そんな映画みたいな想像をしている。何故かと言うと、彼はスポーツに打ち込む強い面を持っている。いつか精神薄弱な面を克服するだろうと、そういう見解だ。

私は彼がまた家の前で「ばーか」と言い、無視していたら「ひどい~」と言って泣きまねをして帰っていくのを聞きながら、「救いがたい馬鹿っているよね」と父と話した。

上記の長い内容は父と私が話していたことである。


怒られても怒られてもうちの前の路地に入ってきて遊ぶ子供ギャングがいる。

その親御さんは、母親はガチのヤンキー、父親もヤンキーで本物らしく腕に凄い刺青が入っている。

しかしカブトムシの世話を子供のためにマメにしたりと、親っぷりは100点花丸だ。

ちょろっと怒られることもするが、家族として幸せな方である。いけないことはいけないと、精神薄弱に育ったただただ厳しかったうちの人間は思っていたが、私はこういう人たちにこそ憧れる。

ヤンキーかっこいいじゃないけど、人間味としては合格だろう。なんだかおもしろそうな人たちだし。


その子供たちにいつもからかわれながら、私は案外平気の平左で悠々と犬の散歩に行く。歌を歌う。

面白がりじゃ、私も負けていない。

これをこちらではイキリと言うのだそう。


近所に美人だがいつも怖いイメージの奥さんがいた。

窓の開け閉めが如何にもいらだっているので、「変わった人なのかな」と正直怖がっていたのだが、あるときふと癖で、「おはようございまーす」と挨拶をした。

すると可愛らしい声で、「おはようございまーす」と女性らしく返してくれた。

この人にも、言えない苦労がある。

そんなことを思ったある日。


大阪は案外懐が深くて、私はもう可愛いと言われる頃も過ぎたので、「あいつ阿保や」と言われながら暑い中犬を肩車して散歩し、信号待ちの前で地面が熱いか確かめてまた歩き出したが、それを「ぶりっこ!」と囃すでもなく自然に受け止めてくれ、私は自分がその他大勢の中の一人に交じって変な奴だけど周りと同化していることを面白く感じながら、高架下の金網にロックTシャツなど干されているのを見て「若い兄ちゃんでも住んでんのかね」とその長屋を眺めていたのだが、ふと「こんなとこに一回で良いから一人で住んでみたい」と思い、案外それは叶いやすくて、今の自分なら出来るだろうなという感慨があった。

しかし私は運命にからめとられて、案外それは自分で決めたものかもしれないけど、責任重大な立場にいる私にはどうしようもないことだと、自由への憧れを放棄して立ち去った。


日陰になり、犬を降ろす。

犬は勢いよく歩き出し、道中車いすのお婆さんと挨拶したりして、ほっこりとした気分で帰った。

犬が可愛いって、やっぱり得なものだ。

小さきものを見守る目。そんな目をした物静かな品の良いお婆さんだった。


さて、現実に、打ち込まねばなるまいよ。

私はSNSの仮想空間で長らく付き合いがあった方々にお暇を告げて、小説に打ち込むべく頑張りだした。

そこで得たもの。

年齢や生活圏が違っても、同じ趣味の友達はできやすいということ。どんな状況でも尊敬される生き方は可能だということ。

腐ったことを書けば腐り、ポジティブに書けば相手もポジティブになれる。

これからの作品へのテーマはできた。後は打ち込むのみ。


さあ、邁進するぞと、私は精神面で若干ストイックになった。

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