私は目下ニートである。

夏みかん

日々是好日、だが曇り

その夜は、大阪の家でえみちゃんねるを見ていたと覚えている。


えみちゃんが「女は洗濯物を干すときによくほかに人生あったな~、これは違うかったな~と思う」というのを聞いて爆笑した後、母が「結婚する前に検定試験があればいいのにね~」と頭の良いことを言った。


私は洗濯物を干すとき、よく飛行機の音を聞いては、「このブオーッと勢いよく行くのは自衛隊の何だろう、飛行機の音で何々機であるとかわかるほどオタクになってみたい」とよく考えるのだが、あれは違うのだろうか。


そんなよくわからない私は、ふわふわしながら、昨日父が帰って来た際、父は集中することが多いのであまり話してはいけないというルールを守りながら鏡を見ていた。


そして静かに立ち上がり、「このくびれどう思う?」と父の正面に立って聞くと、「どこにくびれがあるの?」ぶはっと父が笑った。

「なんで、痩せたじゃん」と言うと、「自己満足してなさい」とさっさと手を振られた。再びユーチューブに戻る父。

彼には男は背中で語るものと言う美学がある。なので私はしつこくせず、鏡を置いてアイスを食べ始めた。

すると彼は「言うてる傍から、食べてはるやん」とやや受け、「やっぱあんたは発想が面白いわ」と言われた。私は狙っていない。


ある日、朝に散歩してたら、目の前を白いポメラニアンが行く。白ポメは振り返って振り返って、私の犬好きオーラを感じ取り、遂に立ち止まってお座りした。

私は得てして動物に救われやすい。この日も新たな人脈を作り、私は「おはようございます」と飼い主と頭を下げて通り過ぎた。



別の日、私は祖母の家のある田舎へと来ていた。

父が大阪で「どちらから?」と聞かれた際、「京都から」と言うとカップルの女の子がメンチを切ってきたという話を聞いて、「こんな片田舎を京都と語ったら京都の人に怒られる」と京都出身の祖母と話し、祖母と一緒にちりんちりんと自転車に乗って、大きな業務スーパーへと来た。

大量に買う祖母に、後ろに並んでいた人が「金使いやがって」と言うので、「ほっといてーや、あんたに関係ない、私の金や」と祖母が言うと「そらそうですよねぇ~」とレジのお姉さんが軽薄に笑いながら味方してくれた。私はこのやり取りこそ田舎あるあるだと思う。

やっかみも強けりゃ、コミュニケーションの数も豊富だ。種類は都会の方が品がいいけど。


私は祖母がミチミチとミンチを素手で取り出し、袋に詰めるのを「昔の人あるある」と諦めて見やりながら、同情的に高級層であろう若奥さんがそっと寄り添うように傍にカゴを置いてくれたのを、「すみません」と思いながら背中に感じていた。


帰る際、段ボールにいっぱいに詰めた荷物を、私はそのためにいるのだとばかりに私の自転車の荷台に乗せる祖母に「へー」と思いながら、私は突っ立っていた。傍を黒髪のソフトヤンキーがたむろし、「あららー」と笑いながらこちらを見ている。

私はもはや、慣れた。「さあ帰ろう」と漕ぎ出すと、祖母が滑ってこけて、切れるという選択肢が比較的少ない私はもー、と言いながら引き返し、祖母に「大丈夫かー?」と声をかける。「あららー!」と笑うソフトヤンキー。まだまだ優しい方だ。明日にはこの話が出回るに違いない。

祖母よ、一体どうやってこの田舎で生きてきたのだ、と私は祖母が雄々しく思え、こう言っては変だが妙に尊敬している。

笑われるという選択肢を選んだ人。その選択肢で、私はよく救われる。


私が情緒不安定な女の子がやらかしやすい、髪の毛を自分で切るという行為を行った際、祖母は帰ってきて、ドアを開けて「うわ」と言って変な奴いる、とでもいう風に顔を背けて笑っていた。嘲笑っていたのだ。彼女は世の中全てが面白い。例えそれが身内ごとだとしても。

私は短くなった髪でランニングウェアを着て町を散歩し、知らない男の人に「阿保やのう」と笑われ、いかにもその調子が弄りの言い方だったのを何故だか死ぬまで忘れないだろう。多分一生覚えていることの一つに分類されている、どうでも良かったが何故か嬉しかった瞬間の一つだ。

私はその後、「虎刈りやないかい!」と父に怒られた。げんこつを一発、24歳の誕生日に貰った。

このように、私の阿保さは時々救いがたい破滅を表現することもある。


あれから落ち着きを取り戻し、大阪に戻った私はすっかりショートカットが定着したある日、髪を切りに行きつけの美容院へ行った。

ここで前に「好きなようにしてください」と言ったら、兄ちゃんに散切りにされ、母に「自分で切ったやろ!」と誤解を招き、「ちゃうよ、兄ちゃん下手やってん」と冷静に返事したが信じていなかったらしい。後々まで言われた。

私はこれにニット帽を被り前髪を分けて眼鏡をかけ、アディダスの黒ジャージ上下を着て過ごしていたのだが、なんか妙に女の子が寄って来たり、その頃やってたドラマの亀梨和也に妙に似ていて「あれー?」という感じだった。もれなくナル入ってる。でも事実なのだ。

私は男装が似合う。


やばいやばい、切り替えなきゃ。


そう貞操の危機を色んな意味で感じた私は髪を伸ばし始め、やっと上手いお姉さんに当たり切ってもらっていたのだが、田舎者の証拠だろうか、サービス精神で何故その日いかしたワンピースを着てきたか、それはここしか着て行く場所がないからですなど聞かれもしないのに話し、笑っていたが来ていらんかっただろう。私はその後自分でその美容院に出禁を出した。


ある日、朝やはり走っていた。ただいい気分になりたいと思いついての、持続性のない運動。近所から寝て起きてから着替えてないだろうなというお婆さんが出てきて、「走ってきたん、ええなあ!」と言われ、指でコースを描きながら、私は笑って答えた。

その後は家にこもって暮らした。クーラーが涼しい。外は暑い。

誰かが「一つくらい、続けんかい!」と言っているのが聞こえ、私は「えー、勉強と家事してるけどなぁ」と思い、何とも思わなかった。

その後スラムダンクの人のリアルを読み、ガチ泣きしてから「やっぱ頑張らないと、始まんない」と思い、ずびっと鼻をかんだ。

掃除とか頑張ってみたが、頑張りとは誰にも伝わらないもんだ、と一人思った。主婦こそ尊いものよ、父母の報われぬ哀しさよ。私はランナーとして頑張ってもよかったのだが、それよりもすべき大事なことが沢山あって、世の人には遊んでいると思われただろう。言い訳だがこの頃結構頑張っていたのだ。勉強とか。


モチベーションを上げるためにブログを立ち上げ、毎日覗いてくる過激派の変な人に辟易しながら、私は「病気のことなんか言ったって始まんねーぞ」と思っていたのに、そっちしか道が残されていないのに、気づき、なんだか虚しかったが、ある日小説仲間に「書いちゃえ、書いてしまえ」と言われて、なんだか元気が出た。

それからえっちらおっちら書き出して、宣伝効果と言うのか、ハンデが武器にもなり得るということに味を占め、ブログも小説も続けていた。


ある日道を歩いていたら、土木の兄ちゃんが「やめれるなら、やめろよ」とやけに真剣に呟くのを聞いて、私は現状を思った。


やめれるなら、やめろよ。


なんて重い言葉だろう。私の感受性が強いのは止められないし、意外と体も頭も弱いし、人間関係は作れないし。私はおちおち働きだすことを検討し始めたが、「いや、無理だろ」と止められた。


いや、無理だろ。


なんて重い言葉だろう。人生の夏休み、いつまで続くかわからない。

病院で頭ぱこーんになってる弟が、せめて復帰してくれればいいのに、と私は歯噛みした。あの子は騙されやすいから駄目だ。サクラの親父とエロメール交わしてるくらいにはアホ。その宇宙人ぶりが面白いのだけども。私は会うたび爆笑する弟の珍行動について思いを馳せた。

男とは斯くも駄目なものか。何故そこまでエロにこだわる。


お前は尼か、と言われそうなことを思い、私は犬の散歩に出た。

割と「わんちゃん」と言って可愛がってくれていた人たちが、情けをかけてくれていたのだと感じ入る今日この頃である。

そんなこと言い出しちゃ生きてる意味ってなんだよって話だけども。だけども。


甘えてんだよ所詮私はー!!


そんな心の叫びが、夏空に消えて行った、2016年。8月。


ニートを取り扱った漫画、おそ松さんのネット情報を見ながら、着ぐるみや実写版の広告を見て、「もうここまで来ると、なんか、怖いな」と思った。

アニメや漫画の最終形態、実写版。

いつか映画化するなら見るだろうなと思う。きっと見るだろう。

父が「パソコン代わってー」と言うので代わったら、ぷーうとおならをするので、「ほら人のこと言えない!」と日頃油断すると叱られる私が怒ると、父は「父さん耳日曜」と言う。

「は?」と言うと「今日は日曜日、だから耳日曜」と。落語か。

母に言ったら、「今度からは私たちもそう言おう」と言う。


9月も過ぎ、田舎に帰る。犬に向かってにゃあにゃあ言っていたらグルルルル、と怒ったので「ごめん、噛まないで、噛まないで」と言って慎重に降ろす。


テレビを見ている父に「漢詩って結構綺麗だよね、お城が滅びて桜がチラチラ舞ってて、切ないけど美しいみたいな」と言うと、「栄枯盛衰とか?」と言った。


そうそう、栄枯盛衰。


栄枯盛衰、栄枯盛衰。肝に銘じなければなるまいよ。

悲しいけど地球はいつか滅びるんだと、私は一人考えている。案外それは、一人じゃなかったりする。

私は知らないけれど。


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