第31話「終局の悪魔 アルティマライザー」


 からん、と弁当箱の落ちる音がその場に響く。


「……なん、だよ、これ」

 ひなたがその場に向かっていたのは、ただのレイフォンへの善意だった。

 仕事場で頑張っているレイフォンのために、覚えた料理を頑張って作って。


 上手いことカラッと揚げられた唐揚げ。

 ふっくら柔らかくできた、だし巻き卵。

 自作ではないけど、ちょっとした彩に選んだ、ほうれん草のミニアソート。


 ……食べてもらって、どんな感想が来るかな。

 思い描いていた『当たり前の幸せ』が、目の前で崩れている。


 ふらふらと、虚ろな目で彷徨っていたと思えば、急に姿を消した由希子。

 その後方で意識を失い、倒れ込んでいたレイフォン。

 

 そして、唯一無事に立っていた銀髪の者は。

「―――ハハ……ッ!」

 こらえきれないような哄笑を、遂に漏らした。

「……お前……ッ!!」

 

 ぱしん。

 

 ひなたがはっと気づいた時は、思いきり振りあげ、駆けていたその身を、腕を、誰かに受け止められていた瞬間だった。

「君は逃げろ。奴を殺すより、君はやるべきことがあるはずだ」

 顔を見上げれば、その人間は、目の前にいる悪魔と同じ顔をしていた。

 確かに、指摘の通り。ここで奴と戦うより、レイフォンを守る方が彼女にとって優先度は高かった。

「僕の手で終わらせる」

 ただ、その表情だけが、悲しくも晴れやかな笑顔なのが、ひなたの心を締め付けた。



 Flamberge逆転凱歌 第31話 「終局の悪魔 アルティマライザー」



 たのしい。

 うれしい。

 すごい。

 

「あはははは! あははははは!!」

 

 しびれる。

 ここちいい。

 きもちいい。

 

「くひっ、ひひひっ、あーははははは!! ……っ、ぁ……!!」

 

 ―――ひとしきり、狂ったように笑っていた由希子は、唐突に、びくん、と跳ねた。

 悦楽に浸るあまり、心身ともに悦びの絶頂に達し、震え。

 

 ぴしゃ、ぴしゃ……溶けかかった服のようなモノ、脚を伝って噴き出す雫は、彼女の自制心が既に崩壊していることを示していた。

 

 もっと。

 

 もっと。

 

 殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい。

 壊したい殺したい壊したい殺したい壊したい殺したい壊したい殺したい。

 ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ。

 

 心の内から湧いてくる、己のような声。

 脳をきりきりと締め付け、熱で炙り焼くような衝動。

 

 頭の中に直接叩き込まれるその声が、感情が、理性を奪い、焼きつくし。

 岩村由希子という人間は最早存在しない。

 それを示すかのように、身に纏っていた銀色の粘体は由希子にまとわりつき、その身を縛り、守り、包み。

 首から下が埋まり、表面が漆黒に染まれば……最早、元の面影は何処にもない。

 

「―――……」

 

 ふいに気配を感じ、振り返れば。

 息も絶え絶えに、銃を握りしめながら、上がらない右肩を庇い、壁に寄りかかって進んできた俊暁の姿。

 

「お早いお目覚めで。そのままずっと眠ってくれてもよかったんですケド」

「おかげさまでな。それより……何処だ、ここは」

 

 目が覚めた俊暁は、薄暗い見知らぬ空間に居た。

 己が何処にいたのかも、どんな道を進んできたかもわからない。

 ただ、由希子の声が聞こえたからここまで辿り着けただけだ。

 

「見当つかずですか。まあそれもそうでしょう……せっかくですし、教えてあげます」

 やれやれとオーバーアクションで肩をすくめながら、由希子はその金色の瞳を向けて。

 

「ザイテンゲヴェール」

「え、なに……財前、なんだって?」

「馬鹿ですかあなたは」

 はあー、と思いきり溜息をついて、続ける。

「コードネームですよ。SLGの一部が刀剣の名を冠するのに対し、より時代の進んだ上位の立場の物体として、『銃剣』Seitengewehrザイテンゲヴェールと冠された」

「……上位の、立場?」

「あなたなら分かるでしょう? SLGは、生体金属ODENは、そもそも何処から生まれ、分岐したか。その上位種は……」

 そこまで言われ、唖然とした。

 まさか。どうやって、いや、どうして。

 

「―――エルヴィンの中心か」

「ぴんぽ~ん、ご明察」

 

 まるで子供に簡単なクイズを出したかのように、愉快そうに振る舞う由希子。

 それに不快感を示す前に、俊暁には考えなければならないことが山ほどあった。

 

「ナルミは?」

 その筆頭が、彼女の所在だった。

「そんなに心配ですか、あの子が?」

「ただ心配なだけじゃあない。こんなしがない一般人一人、わざわざ必要にするような人間じゃないからな。お前は。

 ……いや、俺の知っている岩村由希子は」

 その言葉に、愉快そうな表情が一瞬で不機嫌になりつつも。

 

「いいでしょう。どうせ、本題を知ればどうでもよくなりますから」

 ぱちん、と指を鳴らせば、由希子の奥の何かが照明で照らされる。

 

 その縦置きのポッドの中には、液体の中に浸けられているナルミの姿があった。

 

「……何やってるんだよ……!」

「生まれたものが元の場所に還るだけですよ」

「子供相手だろうが!」

 

 激昂する俊暁。

 それを見て、心底不快そうに大仰に溜息をつく由希子。

 

「あなた、本当にただの子供だと思っているんですか」

「どんな背景があろうと、子供は子供だろ」

「わかっていませんね……あなた、ずっと見られているんですよ、ザイテンゲヴェールに」

「へえ」


 目の前に銃を持った人間が居るというのに、由希子には警戒の様子がない。

 不可解に思う俊暁の視線は、時折由希子の身をぴっちりと包む、黒く艶めかしい何かに泳ぐ。


「わかりやすく言います。この神崎ナルミは、ザイテンゲヴェールの子機のようなものです。

 データ収集の為に放たれた、AIつきドローンのようなものです」

「……理屈は分かる言い方だが、随分なお言葉だな。完全にモノじゃねえか」

「モノですよ。そして、コレを掌握すれば」


 今一度、ぱちん、と指を鳴らす由希子。

 その背後……ライズバスターだったものが、床からせり上がるように現れる。

 幾つものパイプに繋がれたそれは、操縦席としての在り方を容易に想像できる。


「こんな風に、ザイテンゲヴェールを好きに利用し、万象を操ることができます」

「!? な、何をする気だ……!?」

「あなたのせいじゃないですか。緊急警報を発令して、セントラルに救援を呼んだのはあなたでしょう」

「……ちぃ」


 完全に行動が読まれていた。

 涼のお目付け役となった俊暁は、その立場上、本来ならばもう少し上の立場にならないと使用できない電子警報装置を所持している。

 この警報装置が起動、或いは破損した場合、本部からの応答がなければ緊急事態が発令されることとなり、周囲に状況打開のための特例が敷かれることとなる。

 セントラルで起動したこの場合、セントラル区画内での戦闘、ならびに機動兵器の持ち込みが特例で許可されることとなる。


「あなたのせいで、面倒なことに広瀬涼を相手にしなければなりません」

「な!?」


 が、続く言葉には俊暁の方が驚愕した。

 真っ先に来ていたのは広瀬涼。どうして真っ先にセントラルに来られたのか。

 

 ……混乱しつつも、俊暁は真っ直ぐに拳銃を由希子に向けて構えた。

 

「撃つんですか?」

「さあな」

「警察官でしょう? 人の命を奪うことが怖くないんですか?」

「……」

「ほら。わたしは無防備ですよ? 撃つんですか? 撃たないんですか?」


 まるで嘲るように、優位に立つように、くひひ、と声を漏らして。

 由希子の様子を見て……俊暁は、ふいに銃を持つ手を下ろして。


「……あなたは撃てない。だからこそ、人類は滅びるのかもしれないわね」

「そうかな」

 銃を下ろせど、俊暁の目は変わらず、迷いは見えない。

「今の社長さんを撃てるようだったら、人類はもうおしまいだよ」

「本っ当におばかさんなんですね」

 口元に笑みを浮かべる由希子。


「……説得力ないぜ。泣きながら言われても」


 言われて、由希子は自身の頬を指で撫ぜる。

 そこには確かに、濡れた跡があって。


 そこで漸く、歪んだ口元に反して、涙を浮かべている自身に気づいた。


「……あんたを諦められなくなった。絶対に助けてやる」

「助ける?」


 呆然としていた由希子に対し、笑みを浮かべ、確信を持った俊暁。

「煩いです」

 瞬間、何処からか襲い来る強い衝撃に、簡単に俊暁は薙ぎ倒された。


「あなたは、自分が重傷だという自覚が足りていないようですね。

 そう……危機感が足りていない」


 バシッ、ガッ、ズゴッ……!


「がっ、ぅ……!」

 左右から殴りつけられる感覚。正体不明の攻撃。

 そもそも、血がどれくらい流れ出したかも、肩に受けた攻撃がどれほど深かったかもわからない俊暁にとって、それは想像以上の苦痛となって。


 数度殴りつけられたところで、うつ伏せに倒れ伏す。

 それでも、持っていた拳銃は手放さない。

「……悪い、かよ……。

 警察、官が……誰かを助けたいと、思っ……て」

 なおも足掻こうとする俊暁に、由希子はオーバーアクションで歩み寄る。

「そうですね。あなたは普段冴えない男ですが、その実、いざという時の行動力は目を見張る物がある。ですが」

 立ち上がろうとする俊暁、ふいに見上げた視線―――彼は捉えた。

 由希子の纏っていたモノ、首のあたりのパーツに、突如として「目」が生えたのが。


「それが私には腹立たしいッ!」

 目にした瞬間、思いきり顔面を足蹴にされる。

 意地で保っていた俊暁の意識は、そこで途絶えた。


「ああ、漸く静かになった」

 胸のつっかえがとれたように言ってのけて、由希子は生えてきた操縦席に乗り込む。操縦席は、彼女の意志に応じてか、上へ上へと押し上げられて―――。

 

 

 ―――――

 ―――

 ――

 

 

 その時、エルヴィンに住む者は視た。

 

 不変と思われていた飛来物。

 その飛来物が、何年、何十年ぶりに脈動した。

 

 飛来物が堕ちてきた当時、人々は恐怖した。

 いつ動き出すか、何が入っているか。

 調査が進むにつれ、その恐怖は鳴りを潜め、人々は我先にと利益に飛びついた。

 

 それは、後に独立都市エルヴィンの中央に位置し、その象徴となる飛来物に、全く動きが見られなかったが故のものである。

 

 人々が暮らしていた、その『前提』が、音を立てて崩れていく。

 

「なんだこれ……なんだこれ……」

「世界の終わりだ……!」

「危険だ! 逃げろ!」

 人々は悲鳴を上げながら、その場から必死に遠ざかろうとし。

「何だあれ。ネット上げよっと」

「スクープだスクープ! これで俺も人気者!」

 一方で、危険意識が麻痺し、興味本位でその場に残ろうとする人物もいた。

 

 そんな混乱の中、一人立ち尽くすものが居た。

 

「―――どうして、こんなことに」

 天城総一は悔いていた。

 正直、涼に一方的に電話を切られた時点で嫌な予感はしていた。

 何かがある。予感が拭えず、必死にセントラルに向かおうとしていた時、彼もまたそれを見ていた。

 

 飛来物の上部から、人間の上半身を模したものが生えてくる。

 銀色のそれは、起き上がると同時に己の装甲を纏い。

 

 まるで、世界に終末を齎す神、いや、悪魔のように思えた。

 

 そして、その悪魔に向けて飛び立っていた、ソードラインフォートレス。

 また、争いが起きる。

 

『世界は救われてなんていない。破滅の未来は、ここから始まる』

 

 聞いてしまった、カストロの声が、総一の中で蘇る。

 そして、その未来は。

 

『僕のすることはたった一つ、彼女を守ること。彼女が死ぬ未来を「壊す」ことだ』

 

 言葉が、未来が、真実ならば。

 広瀬涼は、この戦いで死ぬ。

 

 ―――その戦いに導いたのは、聞いた情報を流した天城総一である、とも言える。

 

「……余計なことをしたのか?」

 

 彼女が死ぬということを聞いて、何かしら彼女の役に立ちたかった。

 だから、聞けることは聞けるだけ聞いて、せめて情報は集めたいと思った。

 

 それが、彼女の死の遠因となってしまうのであれば。

 

、あの人を『殺す』のか……?」

 

 思えば、懺悔室で悔いていた時は。

 心の何処かで、他人のせいにできていたのかもしれない。

 何処かで、自分は違う、そんなことはしていない、と。

 

 ここまで来てみれば。

 彼女の死というトリガーを引くのは、己の行いただ一つではないか。

 

 何も言い訳ができない。

 赤の他人のせいでもない。知ってる誰かの行為でもない。

 ただ一人、自分自身の行動ひとつで、変わってしまったのだと。

 

「……!!」

 

 走り出した。

 何が出来るかも分からない。脚を引っ張ってしまうかもわからない。

 

 ただ、逃げることは許されない。

 

 

 ―――――

 ―――

 ――

 

 

 セントラルに飛び込んだ涼を、止める者は誰一人としていない。

 ソードラインフォートレスは、飛来物から生えた上半身と向き合える位置まで来れば、即座に紅の機神へと戻り。

 

 広瀬涼の目の前には、巨大な威容がある。

 全ての情報が正しければ、その威容の中に居るのは。

 

「由希子……なのか?」

 そうであってほしくない。

 間違いであってくれ。

 願うように、祈るように、その威容に問いかける。

 

 だが。

「……やっぱり来るのね、涼」

 間違いなく、その声は岩村由希子だった。

 

 その声だけでも、本来の彼女からかけ離れていたとしても。

 何かに酔わされ、いつもの理知的な彼女が感じられないような声だとしても。

 間違いなく、目の前のナニカから聞こえる声は、広瀬涼が長年過ごしてきた彼女の声なのだ。

「どう、して」

 思わず、ぽつりとつぶやく。

 

「そんなこと聞いても、どうせ意味ないんでしょう?」

 何の意味もない。

 涼が理由を聞いたのは、単純に個人的感情でしかない。

 

「……」

「あなたは私を倒さなければならない。それがあなたの立場として、やらなければならないことだから」

 今ここにこうして、岩村由希子が居るということは……世界を左右するほどのテクノロジーが個人に渡る、ということ。

 それは絶対に阻止しなければならない。それが社会。

 この時点で、広瀬涼は岩村由希子を……少なくとも止めなければならない。

 

「だから、これが私の答えなんですよ」

 ザイテンゲヴェールから生えた上半身は、す、と左手を掲げる。

 伸びた左手から、ゆっくりと、見せつけるように生成される、流体から生まれた『槍』。

 その先に現れた、銀色の無数のリング。

 

 来る。

 そう思った瞬間、涼は咄嗟にその身を両腕で庇っていた。

 直後に感じる多大なる衝撃―――クロスさせた両腕のあたりに、リングを通り射出された『槍』が、異次元の速度で迫ってきたのだ。

「レール、ガン……だがまだ……っ!」

 リングを通して加速した、『槍』の正体は弾丸。

 だが、来るのがわかっていれば、エールフランベルジュならば受け止められる。

 

 

 ―――――

 ―――

 ――

 

 

 その光景を見ていた民衆に、ざわつきが渦巻く。

 戦いだ。また戦いが始まる。

「こんなところで戦いなんて……」

 しかし、されど。

「大丈夫。最初からフランベルジュが居るんだ、きっと何とかしてくれる」

 民衆にとっての希望は、目の前にいた。

 今まで人々の窮地を助け、数日前は小惑星すら砕いてみせた。

 出来ないことは何もない。

「……そうね。今まで通り、悪い奴なんてみんな倒しちゃうのよ」

 襲い来る敵を、悉く撃滅してきた。

 そのフランベルジュが立ちはだかるならば、安全は保証されたと言っても過言ではない。

 きっと何とかしてくれる。目の前のフランベルジュが。だから何も恐れることはない、と。

 

 人々は湧いた。安堵した。

 正義のヒーローが悪を倒して、再び世界に平和が訪れると。

 

 

 ―――その正義のヒーロー『エールフランベルジュ』が、一撃を受けた直後、バラバラに吹き飛ばされるまでは。

 

 

 ―――――

 ―――

 ――

 

 

「……どう、して」

 涼が事態に気づいたのは、地面に叩き付けられた衝撃が収まってからだった。

 合体は一瞬で解除され、ツヴァイもドライも何処かに吹き飛び……おそらく上方に跳ね飛んだであろうフランベルジュだけが、近隣に残された。

 起き上がってモニターを確認……見れば、電磁パルスでも受けたかのように、内部機能が全損。

 フランベルジュ自体が生体金属でなければ、起き上がれないほどのものだった。

 

「『キルプロセス』。流石に本体までは無理でしたが、合体くらいは弾けますよ」

 由希子の冷たい声。

 ナニカの放った一撃は、受けただけでおそらく機械という機械の内部を破壊し、機能不全にした。

 如何に堅牢なフランベルジュといえど、内部機能が破壊されれば己を動かすだけで精一杯となる。

 ただのレールガンにこんなことができるはずはない。

「私が、そんなもの対策していないとでも?」

 フランベルジュの最大の切り札、世界最強の力は、いとも容易く砕かれた。

 

「それ、でも……!」

「黙って」

 立ち上がろうとするフランベルジュを縫いとめるとばかりに、『槍』が数多降り注ぎ、雁字搦めにする。

「でも、だって……その先は何もない。全部私が壊してあげます。私と、この子が」

 今一度、悪魔の手が振りかざされる。今度は上空、天高くに。

 

 ―――壊したい殺したい壊したい殺したい壊したい殺したい壊したい殺したい。

 

「……叶えてあげます。思う存分、殺してあげます。

 行きなさい、『アルティマライザー』」

 その手を、振り下ろした。

 

 

 アルティマライザーの手が降ろされた瞬間。

 その手の先には、またあの『槍』と『リング』が現れた。

 

 それを広瀬涼が視認することはない。

 天高く、否、それは空中と呼べる次元を越え―――大気圏外に、突如現れた。

 

 無数のリングの先にあるものは、エルヴィンではなかったが、決してそこから遠くもなかった。

 振り下ろされた瞬間、音もなくその『槍』は加速する。

 

 ゴ、ゴゥ―――リングを超えるたび、地球に近づくたびに、轟音を立てそれは流星となる。

 大気を切り裂くそれは赤熱して、異常なスピードで、その『先』に辿りつこうとする。

 

 

 ―――――

 ―――

 ――

 

 

 一方。

『―――であるからして、あのような小惑星テロが起きた以上、次に社会が狙うのが我が国なのは明白であります。

 その為に、何としても元凶であるエルヴィンの罪を暴き、全責任をエルヴィンに問わせるのが我々にとって重要です』

 或る国の議事堂では、今日もエルヴィンに対する非難活動が行われていた。

『そうだ! 今こそ全兵力を以てエルヴィンに進行、正義の鉄槌を浴びせるべきだ!』

『元々あの土地は不法占拠されたもの、我々が取り返さねばならない!』


 ハリボテに近いビルに設置された巨大なテレビ画面で、生中継されている議事堂の光景。

 それを見ている市民の表情は、決して明るいものではなかった。

「またやってるよ、自分の国の政治をほっぽって」

「それしかないんじゃない? どうせ国の政治が上手くできないからって」

「目の前の餌にありつけないから文句ばっか言ってる」

 

 エルヴィンと比べると、近隣の国は技術レベルも、豊かさも天地の差で。

 首都だからまだ取り繕えるようなものであり、エルヴィン郊外からどこまで不毛の地が広がり、それを開拓できないでいるか。

 その責任をエルヴィンに丸投げし、国民感情に任せ攻め入ろうとするが失敗する。その繰り返しである。

 だからこそ、誰も豊かになれない。

 

「あーあ、こんなことやってたら本当に国が亡ぶぞ」

 誰かがそんなことを言って、空を見上げた。

 

 曇天を裂き、何かが降り注ぐ。

 それは、数百年前に一度、地球人類が見た光景と、似たようなモノだった。

 

 天から降り注ぐものがすべてを滅ぼす。

 

 ズ―――ド、ゴォォン……!!

 

 誰もがその場から逃げようとした瞬間、それは着弾していた。

 何処に突き刺さろうが関係ない。

 凄まじい衝撃、大地を割り、空を轟かせ、周囲の建物を悉く破壊せしめる。

 衝撃と熱量だけで、その場にいた生身の人間が耐えられるものではない。

 

 ―――たった一撃の、着弾。

 

 それは、先程生放送が行われていた議事堂の直上に直撃した。

 それだけで、着弾地点から数十km、その全ての建物も、人も、一瞬で圧潰した。

 

 生まれた無数の瓦礫、遅れて可燃性の物質の起爆が始まり。

 辛うじて栄華を保っていたその都市は、わずか一発の攻撃が着弾したことで、全てが破壊された。

 

 

 ―――――

 ―――

 ――

 

 

「……なんて、ことを」

 目の前には緊急ニュースが流れている。

 一撃の威力を誇示するように、空中に由希子がニュースを流したのだ。

 

 凄まじい衝撃は、エルヴィンにまで余波が轟いた。

 そして、結果が実際に公表されたことで、事実として叩き付けられた。

 

 今そこにある『アルティマライザー』は、一瞬で都市をひとつ壊滅した。

 救いの英雄すらも手が届かない、神の領域に足を突っ込んだ、世界の脅威であると。エルヴィンの全市民に、宣戦布告のように叩き付けた。

 

『……さあ』

 声色は、歓喜、情欲、悦楽。

 満たされ、蕩け切った声が、世界に響く。

 

『終局のハジマリです』

 世界を壊す、最大の敵が、其処に在った。




 Flamberge逆転凱歌 第31話 「終局の悪魔 アルティマライザー」

                         つづく。

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