第27話 自分探しの最中なんです!③
たくさんの観客が見守る中、御殿場商業スタメンと三島学園1年生との3on3対決が始まった。
ゴテショは大竹先輩と田辺先輩と加藤先輩の3名。173センチのパワーフォワード大竹先輩を筆頭に、高身長を活かしたプレイでインサイド中心に攻めるチーム構成となっている。
対するサンガクは、おそらくポイントガードであろうドリブルしている子と、フォワードらしき動きを見せる2名の子達の身長を見ても、160センチ台と高さでは劣っている。
サンガクのガードがチラリとリングを確認してから2人のチームメイトに視線を送る。
カットインしてハイポストに走るフォワードにパスが入った。
さらにもう一人のフォワードがローポストで面取りをしてパスを呼ぶ。
大竹先輩と田辺先輩の2人が、インサイドのディフェンスを固める。
この2人のどちらかが勝負にくると思われた瞬間、カットインしてコーナーへ移動したガードに鋭いパスが送られた。
ボールをキャッチしたガードが素早くジャンプシュートを放った。
角度0度、リングの真横から中距離シュートを決めたガードは、笑うこともガッツポーズを見せることもなく、ただ冷静に素早くディフェンスに切り替えた。
「やっぱりアウトサイドから打ってきたね」
「インサイドの強いゴテショに対し、まずはアウトサイドから攻めてディフェンスを外に広げるつもりね」
試合をジッと見つめたまま、静かに持出さんが答えた。
「シュート打つのがすごく速かったね。パッと受け取ってビュって。うちは持出さんもマユちゃんも、あーゆう打ち方しないよね?」
ちょっと驚いた様子のハルちゃんが、いつもより少し早口で持出さんに尋ねた。
「ええ。あれは、クイックシュートね。ボールをキャッチしてからシュート体勢に入るのではなく、パスを受けたときにはシュート体勢がすでに出来上がっていることで素早くシュートが打てるのよ。渡辺先生からは正しいフォームを身に付けること、そしてジャンプシュートの基本を指導されてきたから、私も真由子さんもクイックは打てないわ。それに初心者が速くシュートを打とうとすれば、体が流れてしまってフォームが崩れてしまうの。安定したクイックリリースを身に付けるのは難しいと思うわ」
「そっかあ。あのシューターさん、すごい武器を持ってるんだね」
ハルちゃんの武器という言葉に私は反応した。
身長の低い私はシュートを抑えられる場面も多い。
ブロックされることだって。
もし、クイックシュートが打てたなら……。
「ちなみに、フリーでミドルシュートさえ決められないようなら習得は論外よ、飯田さん」
「分かってらい!」
私の心を見透かしたように持出さんがボソリと呟いた。
「あっ、大竹先輩にボール入ったよ!」
ハルちゃんの声で試合に視線を戻す。
ローポストでパスを受けた大竹先輩がターンするが……。
「ぐっ!」
ゴール下の大竹先輩に対し、フォワード2人がダブルチームで厳しくマークする。
強引に放ったシュートはリングに当たって跳ね返り、サンガクがリバウンドボールをキャッチした。
「ドンマイ。無理に攻めることないよ、安奈。厳しいときは一回戻そ」
「ワリィ。気ィつける」
この試合、ポイントガードを務める加藤先輩が明るく声をかける。
短く答えた大竹先輩が両手でパシッと頬を叩いて気合を入れ、ディフェンスについた。
その後もゴテショは、攻守ともに思うようなプレイをさせてもらえなかった。
サンガクのオフェンスのリズムは非常に快調だった。ポイントガードとフォワード1人が外から続けてシュートを決め、その後広がったディフェンスの隙をついてインサイドで得点した。
ディフェンスではインサイドのボールマンに対してダブルチームでプレッシャーを与え、ゴテショのポストプレイを見事に封じた。
ポイントガード森先輩が不在のゴテショはパスワークも不調で、アウトサイドから攻めることも出来ず、あっという間に点差をつけられてしまった。
「大竹先輩、今8対0っすけどー。これって何点マッチっすかあ?」
「受付のルールに10点マッチって書いてあったよー」
サンガクのフォワード2人が観客に聞こえるくらい大きな声を出す。
「全く話になりませんね。森先輩と杉浦先輩を呼んできてもらえませんか? メンバーチェンジして試合やり直しましょう。他校の1年相手に1点も取れないで負けるというのは、さすがに情け無いでしょうから。ふふふ」
「クッ……」
大竹先輩が悔しそうに下唇を噛み締める。
田辺先輩と加藤先輩は苦しそうに息をしながら、1年生に渡されたタオルで汗を拭い、森先輩と杉浦先輩を呼んでくるよう指示を出した。
そんな3人の姿をサンガクの1年生たちは嘲笑しながら見つめている。
「なんか、スゲー感じワルッ。ねえ、出ちゃう? 私たちがぶっ飛ばしちゃう?」
「感じが悪いという点には共感するけれど、ぶっ飛ばしたらファウルになるわよ、飯田さん」
「田辺先輩にジッとしてるように言われたから、ダメだよ陽子ちゃん。私だって、ぶっ殺したい気持ちは一緒だよ!」
ハルちゃん、私そこまでは言ってないから……。
森先輩と杉浦先輩を呼びに行った1年生が走って戻ってきたが、先輩2人の姿は見えない。
「どした?」
「えっと、杉浦先輩から伝言です」
田辺先輩に尋ねられ、1年生が困った様子で口を開いた。
「ナオちゃんから?」
「は、はい。えっと、『安奈がサンガクの1年相手にインサイドで負けるはずが無い。ぶちかませ』とのことです」
「プッ……フハハハハッ」
1年生の言葉を聞いた大竹先輩が吹き出した。
田辺先輩と加藤先輩もお腹を抱えて笑い出す。
「まあ、安奈はよしとして、私たちはどうするよ?」
「カヨちゃんの穴埋めは私たちには無理だしね」
真剣な表情に戻った田辺先輩と加藤先輩に1年生が話しを続ける。
「えっと、森先輩からも伝言がありまして……」
「えっ、カヨちゃんからも?」
「カヨちゃん、何だって?」
「ええっと、それが先輩方へではなく、コウジョの飯田さんと持出さんに伝言です」
えっ、私たちに?
持出さんとハルちゃんも意外な言葉を耳にしてキョトンとした顔をする。
「コホン、森先輩からの伝言です。『お前んとこの黒ギャルがうるせーから、わざわざ特別に醤油ネギマヨたこ焼き作ってやったからな。無駄な労力使わせた分、飯田と持田がしっかり働け。100点取らなかったらぶっ殺す!』だそうです」
森先輩、10点マッチなんですけど……。
「私と飯田さんが試合に出てもいいということかしら?」
尋ねる持田さんに1年生が頷いた。
「あ、それから追伸です。『醤油ネギマヨ、お前らの分も焼いといたからな』だそうです」
森先輩優しいな、おい。
1年生の伝言を聞き終えた大竹先輩たちは、涙を流しながら大笑いしていた。
「最後の追伸、なに? ハハハッ」
「カヨちゃんらしい。うけるー」
「さて、カヨちゃんはそう言ってるけど、コウジョのガードお2人さんはどうするよ?」
大竹先輩が尋ねながら、白い歯を見せてニッと笑う。
「イエス・ウィー・キャン! もちろん出るよ」
「私の意思に関係なく出るつもりなのね。ちなみにその答え方は間違っているわよ、飯田さん」
言いながら持出さんは、手首を回してストレッチを始めた。
なーんだ。持田さんだって、やる気十分じゃん。
バッシュの靴紐をしっかり締めなおし、私と持出さんは大竹先輩と共にコートへ入った。
「森先輩と杉浦先輩はどうしたんですか?」
拍子抜けした様子でサンガクの1年生ポイントガードが尋ねる。
「たこ焼き作るのが忙しいから、代わりにこいつら出せってさ。お前らと同じ1年だから、仲良くしてやってくれよ」
そう言って大竹先輩は私と持出さんの肩を抱き寄せた。
サンガクの1年生たちの視線が私と持出さんに集まる。
「まさか、この場面で1年生に頼らざるをえないなんて、ゴテショはホントに選手層が薄いんですね。同情します」
「私もアンタたちを同情するよ。三島学園のジャージを着れば、どこよりも強いと勘違いしちゃって。同い年で脅威になるプレイヤーが、すぐ近くに出てきてるってのにな」
大竹先輩が独り言のように呟いた。
「あああっ!」
「ど、どうしたの飯田さん?」
「いきなり大声出すなよ、飯田。超ビビった」
「今私、ガードじゃなくてフォワードなんだよ。忘れてた!」
「意味わかんねー。何だそれ?」
大竹先輩が首をかしげる。
「つまり、あれだよ。自分探しの最中なんです!」
「ますます意味不明だし」
「今だけ、ガードに戻ってもいいんじゃないかしら。私、久しぶりに飯田さんのアシスト受けたいわ」
えへへへ。
持出さんがそこまで言うなら仕方ありませんな。
「そろそろ、いいですかあ? じゃ、最初っから――」
「続きでいいよ」
「はあ?」
言葉を遮る大竹先輩に、サンガクの1年生ガードは口をポカンと開いた。
「8対0の続きからってことだよ。じゃ、ウチらのオフェンスからな」
「私たち構いませんけど、後輩やギャラリーの前で恥をかくのは大竹先輩のほう――」
「試してみな。すぐに分かるよ」
大竹先輩が受け取ったボールを私に投げた。
よし、始めますか。
まずは――。
持出さんに視線を送ると彼女は小さく頷いた。
ドリブルでマークマンを左右に振り、隙ができたところでハイポストの大竹先輩にパスを出す。
すかさずフォワード2人が大竹先輩をマークする。
ボールをキャッチした大竹先輩は間髪入れずにパスを出す。
ウィングポジション(45度)でボールをもらい、持出さんが跳躍する。
ボールを乗せた左手を額の前で構え、右手は横からボールを支える。
左手手首のスナップをきかせ、高い打点でシュートが放たれた。
ボールはボードの的確な位置に当たった跳ね返り、そのままリングを通り抜けた。
「っしゃあ! ナイッシュ、持田」
「きゃっ」
嬉しそうに大きな声を出しながら、大竹先輩が持出さんのお尻をパシッと叩く。
「持出さん、今のって……」
「ええ、ワンハンドシュートよ。確かにコントロールに優れたフォームね。でも、この距離が精一杯だわ」
涼しげな表情で言いながら、持田さんはシュート距離を確認している。
ぶっつけ本番で決めるとは、ホントこの人は才能の塊ですな。
うらやましい……。
「よーし、8対2。ディフェンス1本!」
大竹先輩の気合の入った声が響く。
さて、ディフェンスは外からシュート打たせないように厳しくいきますか。
持出さんも私と同様、べったり張り付くようなディフェンスで相手を離さない。
このポイントガード、ドリブルは確かに上手いけれどスピードはそれほどじゃない。
私のしつこいマークに、サンガクのポイントガードが焦った様子でパスを出す。
ボールを受け取ったフォワードは、体の流れた状態でクイックシュートを放った。
シュートは外れ、リバウンドボールを大竹先輩がつかみ取った。
「ナイスリバン!」
田辺先輩と加藤先輩、そしてゴテショ1年生が叫ぶ。
私たちのオフェンス。
再び持出さんに視線を送り、クロスオーバーで左手から右手ドリブルに切り替えて相手ディフェンスを置き去りにする。
持出さんをマークしていたフォワードがヘルプに入り、私のドリブルコースを塞いだ。
瞬時にドリブルを止めて右手に持ったボールを背中へ回す。背中側から手首のスナップをきかせて、左側へ押し出す。
彼女を見なくても分かる。
ミドルレンジシュートを得意とする持出さんが好む位置。左右ウィング2箇所、そして――。
ゴールの正面、フリースローサークルのトップでボールをキャッチした持出さんがジャンプシュートを放った。
ワンハンドのキレイなフォームで放たれたボールはリングに吸い込まれ、ネットに擦れて軽快な音を鳴らした。
「ナイッシュ、持田さ――」
「ヒューッ! ブン吉、フーッ!」
ウメちゃんの大声が体育館中にこだました。
「フミカちゃーん、ワンハンドかっこいいよー。キャー」
めずらしくテンション高いな、マユちゃん。
コスプレコンテストの熱気冷めやらぬといったところか……。
「コウジョ、ファイトー!」
メガホン代わりに両手を口元に当ててミーちゃんが叫んでいる。
ミーちゃん、大竹先輩もいるからゴテショ&コウジョだよ。
突然現れた熱烈な応援団に、サンガク1年生をはじめ周囲の観客まで若干引き気味である。
「飯田ー、100点とれよー。持田もなー。安奈ー、全員ぶっ飛ばせー」
「カヨ、ぶっ飛ばしたらファウルだからね」
エプロン姿の森先輩と杉浦先輩がベンチに座った。
「さて、カヨちゃんとナオちゃんも来たことだし、そろそろ私もいいとこ見せないとね」
大竹先輩がニッコリ笑った。
「は、恥ずかしいわ……。私、もうシュート打たないわ」
えええっー!
持出さんの気持ちも分からなくはないけれど。
あの騒がしい人たちの仲間と思われたくないんだよね……。
まあ、さっきの2本のシュートでインサイドの風通しも良くなるだろうし。
まずは、ディフェンス集中と。
その後サンガクのオフェンスを阻止した私たちは、大竹先輩のポストプレイで得点を重ねた。
持出さんがアウトサイドからシュートをきめたことにより、サンガクは大竹先輩にダブルチームでマークすることをやめて完全なマンツーマンディフェンスに切り替わった。
サンガクの1年生フォワードが、ゴール下の大竹先輩を抑えることなど出来るはずも無かった。高さ、パワー、テクニックで圧倒した大竹先輩が連続3ゴールを決め、得点は10対8で私たちが勝利を掴んだ。
大竹先輩が決勝点を入れたところで、ウメちゃんたちが見事な連携でウェーブを披露し、「コウジョー、ビクトリー! フーッ!」と大声で叫ぶものだから、持出さんは顔を真っ赤に染めて恥ずかしがっていた。
「ウェーイ。おつかれー」
「ナイスプレイ、安奈。力強くて良かったよ」
「サンキュ。心配させたね、ワリィ」
森先輩と杉浦先輩が戻ってきた大竹先輩とハイタッチをかわす。
ゴテショの1年生たちも大喜びで先輩を迎え、タオルとスポドリを差し出した。
試合を観戦していた人たちも、拍手で両チームのプレイヤーを讃えた。
「フーッ。ブン吉、イエーイ!」
「イエイじゃないわよ! 他校でみっともないわ。バカ騒ぎはよしてちょうだい」
赤い顔の持出さんが、ウメちゃんからプイっと顔をそむけた。
照れてるのか怒ってるのか分かりませんな。
「フミカちゃん、すごかったね、ワンハンドシュート! フォームきれいだったよ」
「そ、そうかしら。真由子さんに褒められるのは、素直にすごく嬉しいわ」
「ポイントガードの陽子ちゃんは、やっぱりイキイキしてるね。フォワード練習中の陽子ちゃんは、腐ったいちごジャムみたいだもん」
ハルちゃん、腐ったいちごジャムって……。
初めて聞く例えなんですけど。
斬新な例えではあるけれど、ニュアンスは何となく通じたよ。
「あ、あのお……」
私たちの後ろから声を発したのは、サンガクの1年生に意見していた女子中学生だった。
身長は私と同じくらいで細身の体格。肩まで伸ばしたツインテールの黒髪と大きな瞳が印象的な可愛らしい女の子。
「なあに?」
「試合、すごかったです。私、感動しました! 先輩方は光城学園なんですか?」
女の子は目をキラキラ輝かせながら尋ねる。
「うん、コウジョだよ。うちのシューターすごかったでしょ。うちにはね、まだもう1人ロングシューターが――」
「先輩のパス、すごかったです。ビハインド・ザ・バックパスそれに、アンダーハンドパス。あんな流れるようなパス、見たことありません!」
「えっ!? 私? び、ビハインパック? アンダーパンダ!?」
「どんなパンダだよっ」
ウメちゃんのツッコミに女の子がクスリと笑う。
「ビハインド・ザ・バックパス。飯田さんがよくやる背中側からのノールックパスよ。アンダーハンドパス。ノーモーションで相手の脇下を通す下投げのパスよ」
「ほほう。あれって、そういう名前だったんだー」
「陽子ちゃん、知らないでやってたの?」
マユちゃんが苦笑いする。
「先輩のアシストがこの試合の勝利につながったんです。本当にすごいと思います」
「いや、私はいつも通りにプレイしただけで、持出さんと大竹先輩がしっかり決めてくれたお陰で勝てたというか……」
パス1つでこんなにも褒められるなんて初めての経験で、どんな顔をして応えたらいいのか思わず悩んでしまった。
私がパスを出して、みんながシュートを決めることが当たり前になっていたから。
「一見すると華やかなシュートばかりに注目してしまいがちだけれど、飯田さんのアシストの正確性を見抜けるなんて、あなたもすごいと思うわ」
「あ、いや。私は全然そんなんじゃなくて。部活でも先生に怒られてばかりだし。パスミスも多くて……」
持出さんに褒められた女の子は、恥ずかしそうに下を向いた。
中学生のときは、ひたすらお父さん相手にパス練習してたっけ。
お父さんが基本を教えてくれて、それが出来るようになったら色々なパスを練習して。
そして、今はみんなが私のパスを受けてくれる。
みんなが「ここにボールが欲しい」って思った位置にパスが決まったときは、たまらなく気持ちが良いんだ。
「ちょっと、さっきコウジョって言った?」
サンガクのポイントガードがゴテショベンチに近付いてきて、私たちに話しかける。
「ああ、コウジョ。アタシたち光城学園バスケ部だけど。それが?」
ウメちゃんが尖った声で答える。
うっ、嫌な予感がする……。
ウメちゃん、ここはどうか一つ平和に穏便に。
「コウジョのバスケ部って、今年できたばっかだよね?」
「だったら、何? って言うかさー、アンタら負けたんだからコートからさっさと出ろっつーの。次の試合の邪魔だろ。空気読め」
ああ、ウメちゃん。気持ちは分かるけれど、もっと丁寧に話そうよ。
「さっきの試合、インサイドで大竹先輩が3ゴール決めたから勝てたわけで、別にアンタたちコウジョが強いわけじゃないから。勘違いしないでくれる? 新設バスケ部に『サンガクに勝った』なんて吹かれたらたまったものじゃないから」
「はいはい。大竹ちゃんのお陰で勝てましたー。サンガクの1年生、超ツエーみたいなー。ほら、これで気が済んだろ? さっさと、どけって。ゴテショの3on3イベント楽しみに来てる小中学生が待ってるだろ。くだらねー能書き垂れてコート占領してんじゃねーよ」
ウメちゃんが語気を強める。
「くだらないですって! 今の言葉、撤回して! 撤回しないなら――」
「撤回しないなら、どーだってんだよ?」
今にも掴みかかりそうな勢いでサンガクのポイントガードに詰め寄り、ウメちゃんが鋭い目つきで睨みつける。
ますます、危険な展開になってきたよ……。
他校で問題は絶対まずいから、ウメちゃん落ち着いてー。
「まあまあ。そう熱くなんなって。バスケプレイヤーなんだからさー、こういうのはバスケで白黒つけようぜ」
一発触発の2人の間に森先輩が仲裁に入る。
ん? バスケで白黒つける?
「森先輩、それはどういうことですか?」
「コウジョとサンガクの1年対決ってことさ。優劣は口先じゃなくて、プレイで示せってこと。何か問題あるか?」
問題ありまくりだよっ。
そもそも、サンガクのターゲットはゴテショだったのに、思いっきり矛先がこっちに向いてるじゃん!
「もちろん、ありません。森先輩は練習試合でコウジョに負けたんですよね?」
「情報早えーな」
「自分たちを負かした敵チームとよくヘラヘラして仲良くできますね? ゴテショは所詮その程度のレベルだったということですね。私たちはコウジョに勝ちます。サンガクの名前にかけて」
闘志むき出しの表情で発する彼女の言葉には熱がこもっていた。
「10分後に始めっからな。着替えはウチらの部室使え。おーい、1年。案内してやって」
森先輩の指示で1人の1年生がサンガクを部室へ案内する。
他の1年生も、私たちのそばにパイプ椅子を並べて手際よくコウジョベンチの設営を行う。さらにナンバリングや戦術ボード、救急箱まで用意されていた。
「お前ら、好きに使ってくれていいからな。遠慮すんな」
「森先輩、至れり尽くせりで本当にありがとうございます。ってちがーう!」
「飯田のノリつっこみ、うけるんだけどー。ハハハ」
森先輩の笑い声につられて、杉浦先輩たちも笑い出す。
「私たちがなぜ三島学園と試合をしなくてはいけないんですか? そもそも、このプログラムに書かれている『3on3でゴテショ女子バスケ部にチャレンジしよう!』の趣旨から大きく外れてしまうと思いますが」
さすが持出さん。
的確かつ正当そして理論的な抗議。
「固いなー、持田は。プレイスタイルそのまんまだな。ザ・優等生みたいな」
「な、なんですかそれ? 今の話とは関係ありませんから」
ちょっぴりムッとした顔の持出さんを見て、笑いながら森先輩は話を続ける。
「文化祭の閉会式でさ、イベントや出し物の人気投票があるんだ。1位の部やクラスには豪華商品が贈られるってわけ。そこでだ。ゴテショ女子バスケ部はサプライズイベントとして、コウジョバスケ部vsサンガクバスケ部のゲームを開催することにした!」
「商品目当てかよっ。アタシらに何もメリットねーじゃん」
「うっせ、ギャルスラッシャー。お前には特別に、たこ焼き醤油ネギマヨ食わせただろーが。黙って働け」
ウメちゃんの文句をピシャリと跳ね除ける。
「あの、森先輩。私これから、漫画研究会のイベントに――」
「却下。試合終わってから行け、眼鏡シューター」
「あ、あぅ」
森先輩の眼力に飲まれて、マユちゃんは言葉を飲み込んだ。
「は~い。私、1年2組のクレープ屋さんでチョコバナナ――」
「おいコラ、天然。私の話聞いてねーのか? カワイイと天然がコラボすりゃ何でも思い通りになると思うなよ。おい、佐藤。お前2組だったよな? チョコバナナクレープ1つ頼むわ」
カワイイと天然の実力、はんぱねっす。
かくして、森先輩のサプライズイベント企画とやらに強引な形で引き込まれた私たちは、三島学園1年生との試合を余儀なくされてしまった。
実際のところ、持出さんはそれほど不服そうでもなかった。「ワンハンド、もう少し離れて試してみようかしら」なんてボソリと呟いていたし。
ウメちゃんは異を唱えていたわりに表情も明るく一番楽しそう。
マユちゃんも漫画研究会のイベントは潔くあきらめたらしく、試合モードの引き締まった顔に変わっている。
ハルちゃんは……。
チョコバナナクレープ、おいしそうだね。
ハーフパンツとチームTシャツの練習着に着替えたサンガク1年生たちが、部室から出てきてベンチに入る。
「お前らも部室で着替えて来いよ。1年、案内頼む」
森先輩から頼まれた1年生が、「こっちだよ」と私たちを先導してくれた。
気晴らしに『豊商祭』へ遊びに来たとうのに、逆に気が重くなったよ。
サンガク1年生はメラメラ燃える音が聞こえそうなくらい対抗意識丸出しだし。
お祭りなんだから、みんな仲良く楽しくバスケがしたいな……。
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