第三夜【車内】


 こんな夢を見た。

 

 空中を滑らかに走行する車に乗っている。

 

 隣には従兄が二人座っている。

 自分たちが座しているのは、乗り合いバスのような車の一番後ろの席である。

 従兄たちの体格のせいもあり、そこはけして広くは無い。しかし別段、狭いとも思わなかった。

 

 しばらくすると、ごとりと音がして天井が外れた。

 壊れた訳ではない。そういう仕様になっているようだ。

 

 前の席や運転席にも誰かが座っていることに気付く。

 その頭の数、全部で六。よくよく見れば、それはご当地ヒーローショーに出てくる悪役たちである。


 気付いたのはどうやら自分だけだ。彼らの存在さえ知らなかったらしい従兄に彼らについて紹介をしようとしたが、言葉が上手く紡げず、何度も何度もつっかえてしまう。


 そのうち、悪役の一人が振り向いた。

 その男は銀色の仮面をしており、彼が振り向く前から自分はそれを知っている。

 そうして相手の言葉を待っていると、


「君はこの××××を使えるか」


 心地の良い声で男は言った。


 男は、自分に向かって片手に持った××××を軽く振りながら訊ねている。

 自分は、使える、と頷いた。家でもよく使っている、と。


「それならばうどん屋で働くと良い」


 話す男は、悪役たちの中でサブリーダーを務める者である。

 頭脳派であり参謀役である男にそう言われ、自分はその方がいいのかもしれないと思い始める。自分が真剣に悩む様子に、男は愉快そうに笑っていた。

 

 気付けば、隣に座る者が従兄ではなくなっていた。

 それは年下で、女だ。髪が短いということは分かるが、顔は見えない。

 ただ、自分と親しい仲の女であることは確かである。女は、こちらに向け至極楽しげにうどんの内容物の話をしている。ネギは抜いてもらいたいらしい。

 

 車はいつの間にか地上を走っていた。

 流れる窓の外の景色の中、黄色い標識を一つ見逃した。

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