第24話 悲鳴
ハク達はレントを先頭にして、村の外にあるという鍾乳洞へと向かっていた。
村の出入り口は一つしかないのだが、村の子ども達は密かに、遊び場の外れに秘密の出入り口を作っていたのである。
ハク達はその秘密の出入り口を通り、門番に見つかることなく外へと出たのだった。
「その鍾乳洞にな、綺麗な羽がいっぱい落ちてるんだ。赤とか、緑とか、奥に行くほどいっぱいあるんだ!」
木々の隙間を縫いながら、レントは目をキラキラと輝かせて語る。
「へぇー、そんなに色んな色の羽が落ちてるんだ」
「ああ! きっとハクもラドもびっくりするぜ!」
ラドが相づちを打ちながら、一行は森を奥へと進んでいく。ディオネはハクと手を繋いだまま、先行するレントとラドの後ろを歩いている。
「ねぇ、ハク……。もう大丈夫。手を離していいわ」
時間が経つにつれ、さすがに気恥ずかしくなってきたのだろう。ディオネは火照った顔を横に逸らしながらハクに話しかける。
「だめ。だって、ディオネ……、手離したら帰っちゃうんでしょ?」
「ここまで来ちゃったんだから、もう帰らないわよ!」
ディオネは照れくささを隠し、勢い良く手を離す。そして、思わず視界に入ってしまったハクの笑顔から目を逸らした。
「はぁ……。本当に調子が狂うわ……」
もはや口癖になりつつある台詞がディオネの口から漏れる。
「——着いたぞ! ここがとっておきの場所だ!」
こうしてディオネが乙女心をくすぐられているうちに、ハク達は目的の鍾乳洞へと辿り着いた。
「ここがそうなんだ。なかなか広そう場所だね」
「広さだけじゃなくて、けっこう奥まで続いてるんだ。まだ一番奥までは行ったことないんだけど」
ラドの言う通り、その鍾乳洞の入り口は、大人二人が並んで入ってもかなり余裕があるほどの大きさだった。
「じゃあみんな、足下が滑りやすいから気をつけろよ」
レント、ラド、ハク、ディオネの順に、その薄暗い入り口の奥へ入っていく。
鍾乳洞の中は、かなりの湿気とひんやりとした空気が漂っていた。
つらら状の鍾乳石、
初めて見る、自然が創り出した絶景に目を奪われながら、ハク達は奥へ奥へと進んでいく。
「あ、綺麗な羽って、もしかしてこれのこと?」
最初にとっておきの物を見つけたのはディオネだった。落ちていた黄緑色の羽を手に取り、珍しそうに様々な角度からその羽を見るディオネ。
確かにその黄緑色は、普段見かける鳥達の羽ではない鮮やかな極彩色をしていた。
「ちぇっ。最初に見つけたのはディオネかよ……。まぁいいや。奥にもいっぱい落ちてるから、どんどん進むぞ!」
レントは悔しそうにしながらも、多少の見栄を張りながら先頭を進んでいく。
綺麗な羽探し。
子ども達は無邪気なまま、鍾乳洞の奥に隠された秘密へと徐々に近づいていった。
—— — — —
「おい、見たか?」
「ああ」
生い茂る木々に隠れた二人の男達が、鍾乳洞の中へハク達が入っていくのを遠巻きに見ていた。
片方の男は
もう片方の男は
その二人は異なった種族であるにも関わらず、発せられている雰囲気の物々しさには似通ったものがあった。
「妖精族で黒の髪とは、これは珍しいな」
「ああ、それに竜族のガキまでいやがる。ちっとばかり手こずりそうだが、見返りは莫大だ」
男達はニヤニヤしながら、後ろ腰に携えた短刀に手をかける。
「人族と、妖精族のもう片方はどうする?」
「どうでもいいな。大した額にはならん。邪魔なら消すだけだ」
話し合いを終えた男達は、慣れた足取りでハク達の後を追い、鍾乳洞へと入っていく。
その手には短刀の他にも、何に使うか分からない大きめの布と、小型の弓矢が装備されていた。
—— — — —
歌いたい。
昨日までのように。
空を飛び、日の光を浴びながら、鳥達の鳴き声と一緒に。
雲に乗り、風と踊り、どこまでも、どこまでも高らかに。
……でも、ここでは飛べない。
ここでは喋れない。歌えない。
歌いたい。
誰か、誰か。
——助けて。
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