旅立ち。

@momoccimomocci

第1話

どこでもよかった。

ただ…どこか知らない場所に行きたかった。荷物をまとめて駅に向かった。

会社に向かういつもの駅ではない。

電光掲示板を見て、一番早く乗れる新幹線の切符を買った。

新幹線の自由席に飛び乗った。とにかく現実から逃げたかった。疲れた。日常から遠く離れたい。それだけだった。

平日だ。自由席でもゆっくりできる。プライベートで新幹線に乗るのは久しぶりだ。

新幹線の行き着いた駅で改札口を出ると、すぐ近くに地下鉄があった。 駅構内を背にし、地下鉄の入り口階段に引き寄せられるように歩いた。地下鉄でどこに行くかは決めていない。とりあえず終点までの切符を買った。唐津。

ホームに電車が入ってきた。人が多い…座れない。「ま、いいか」入り口側に立ち、通過する窓の外を眺めた。地下鉄だから風景はどこも変わらないな。何で地下鉄にしたんだろう?いつもの習慣?現実から離れる為にこんな所まで来たのにな。そんな事を考えていると席が空いていた。座る。

たくさんの人達が電車の中で入れ替わっていく。電車は真っ暗な地下を走り続ける。あれ?急に明るくなり電車は外に出た!地下鉄だったが、地上に出たのだ。へぇ…ずっと地下じゃないんだな?車窓が急に、目まぐるしく流れだした。走る車、ビル、マンション。「皆、今ごろ仕事で忙しいんだろうな?」仕事から逃げてきたはずなのに。急に仕事の事を思い出した。

だんだん車内の人が減っていく。

もう乗る人よりも、降りる人の方が多いんだな。風景も変わる。畑に、線路際のコスモスが揺れる。「旅愁ってこんな感じかな?」電車のガタンゴトンの音と、窓の外の風景が何とも言えない気持ちにさせる。 僕には、田舎って無いんだけどな…初めて見る光景なのに何となく懐かしい気がする。

ガタンゴトン ガタンゴトン…定期的な電車の揺れと、風景に癒されたのか、ただ疲れていたのか いつの間にか寝てしまっていた。

目が覚めて「うわっ」小さく呟いた。目の前に海が広がっていた。

キラキラ輝く水面。いつの間にか電車は海沿いを走っていた。

思わず身を乗り出して海を見ていた。「海か…久しぶりに見たな。もうずっと行ってなかったしな」どこまでも続く目の前の海を見て思った。

この電車は…どんな所に連れていってくれるんだろうか?

小さな古い駅がいくつも続く。

いつの間にか電車には、もう数人しかいなくなっていた。

海がなくなった。離れてしまったのだろうか?突然、松原が窓の外に広がる。車内放送が入った。次は 虹の松原駅です。降りてみるかな? そこは小さな無人駅だった。

改札を出るとすぐ駅の外が見える。

「おーい。凄いな」目の前に広がる松。電車の車窓から見えるどころじゃない!どこまで続くんだろう?初めて見る光景に、ちょっと感動した。少し歩いてみようかな?駅から真っ直ぐ松原を歩きだした。

「へぇー松原の中に車道があるんだな」暫く歩くと、目の前に ちょっと洒落た白い洋館が見えた。レストランらしい。そういえば 今日は何も食べてなかった。そんな気分にもならなかったからだ。急にお腹がすいてきた。今朝は、何もかも耐えられなくなって。何もしたくなくて 。現実から飛び出したのに。探検でもするような、少しだけどワクワクしてる自分がいる。

レストランは、落ち着いて食事ができるおしゃれな店だった。もちろんおいしかった。何だかちょっと得した気分になった。ここで降りなければ、この店で食事することもなかっただろう。

お腹が満足した所で、改めて回りを見回すと360度。全てが松に囲まれている。目に見えている範囲が、どこまでも全て松だ!これは 一体、どこまで続いているんだろう?どこに向かって歩こう?少し悩んだが、後で駅に戻ることを考えてレストラン裏の松原を散策することにした。

松原の中には、車道が通っている。

結構車が走っているのに、松原の奥に入っていくと松が音を遮断しているのか凄く静かだ。

独特な雰囲気を醸し出している…それぞれが自由にうねる松が力強い。松林には陽が射しているが、松のおかげで眩しくはない。

深呼吸をしてみた…静かで、綺麗で。完全に別世界に居るような気分になった。「こういうのって…いいな」大きく伸びをした。さあ!続きを歩いてみよう。ゆっくり歩いていると…小さな波の音が聞こえてきた。「えっ?」

たくさんの松が遮る壁の向こうにキラキラ眩しく輝く海が見えた。

思わず早足になった「海だ!」いきなり眩しい陽射しに変わった。

「はぁーっ!眩しいなぁ。海だっ!」誰もいない砂浜に荷物を投げ 海に向かって走った。「海風が気持ちいいなぁ」両手を大きく広げ海風を思いっきり受けた。

「ふぅ…ここに来れて良かった」心からそう思った。

何だかこの町では、もっと色んな事に出会えそうな気がする。早く駅に戻ろう!そして 終点まで電車に揺られよう。僕はもう完全にワクワクしていた。足取りも軽く駅へと向かう。


今朝の憂鬱な僕は…もういない。

























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