一耳惚れ

 そもそも「一目惚れ」っていうのは、一度見ただけで相手を好きになること。国語辞典にはそう書いてあるよね。それなら、あのときの僕の状態は「一目惚れ」じゃない。

 なんでそう断言できるのかって?

 答は簡単だよ。いたってシンプル。

 だって、僕はあなたの顔を見ていないから。


 そう。あのとき僕はただ、あなたの


 それなのに。

 それだけなのに。

 あなたの事が忘れられなくなってしまった。


 これでもいろんな形の恋愛をしてきたよ。

 好きな人の彼氏と親友になってしまったり、付き合ってると思ってた彼女がいつのまにかお見合いをしていたり、好きな人が「二股をかけられた」と相談に来たり。

 あれ? こうして書くとこれまでロクな恋愛をしてないな。まあ小説のネタにできたんだからいいのだけれど。あ、いやいや、昔の話なんて今はどうでもいいよ。とにかく、僕だってそれなりに恋愛の経験をしてきたってことを言いたかったんだ。


 それなのに、あなたの声を聞いたあの瞬間から、僕の頭はもうあなたでいっぱいになってしまっていた。まるで思春期の頃みたいに。

 ただ声を聞いただけなのに、あなたの全てを好きになった気がしたんだよ。たとえどんな顔をしていようが、どこに住んでいようが、何歳だろうが、そんなことは些細なこと。もし「実は男です」なんて言われたら困るけれど、でももうそれならそれでも構わない。それくらいに思ってた。


 この現象のことを、なんて呼べばいいかな。

一目惚ひとめぼれ」じゃないから。

一耳惚ひとみぼれ」とでも呼ぶことにするね。



 とにかく。これが。

 僕があなたを好きになったときのこと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る