夢は、この世に存在する。 きっと、ある。

@SAORI_AO

第1話 眠りの中

「……けて。お……い。こ……か、だ…て。」


微睡の中、震える声。

小さく、か細い鈴の音のようなその声の主は、生憎の暗闇で見えない。

こんなに暗くて広い夢の中は久しぶりだ。余程精神的に辛いのだろう。

夢とは色だ。その夢を見ている人間が、高揚とした気分であるならば、夢は明るいパステルカラーが背景となる。逆も然り。精神が壊れそうなほど、夢の色は黒く、濁ってしまう。


「大丈夫。君は必ず、俺たちが助けてみせる。」


だからもう少しだけ待っていてくれ。

君をこのまま残したりしない。このまま……溺れさせたりなんて、絶対にしない。

それが俺の…俺たち「夢屋」のするべき仕事。


「さぁ……仕事開始だ。【夢開け 天高く 底深く 夢の終わりを告げる者】」


途端に差し込む一筋の光。

これで夢をあいつに繋ぐことが出来る。これからの行動についてはあいつの方が頭は回るからな。俺を通して、この子の夢に干渉してもらおう。


「待ってろ。この悪夢を、深淵を、断ってみせる」


嘗て俺を助けてくれた、あいつのように。

俺の見た夢を、感じた景色を、全て汲み取ってくれたように。


「悪夢は…ここで終わりだ。」


悪しき夢を絶つ。

それが俺たちの生きる道。

決して道楽ではない。あいつも俺も、それが運命(さだめ)だと、責任だと、承知で行う。



だから今日も、俺は夢の中で眠る。

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