第19話

目覚ましのアラームが鳴り響く

薄暗い部屋で目を覚ます

やっぱり早起きは苦手だな

今日からまた早番だ

寝惚けた頭のままベッドから出た

寒いな

しばらく昼前に起きていたからあまり意識してなかったが

もうこの時期の朝は冷えるのか

顔を洗う水も冷たい

菓子パンを齧りながらテレビをつけると、

天気予報をしているお姉さんが

「朝晩は上着を羽織ってお出掛けください!」

調節出来る服装をー、か

気温差激しいもんな この時期

風邪引きそうだな、と思った

少し厚めの上着を羽織って家を出た

自転車にまたがり駅へ向かう

頬にあたる風が冷たい

またあの満員電車に乗るんだな、と思うとうんざりした

改札をくぐり、ホームへ向かいいつもの3両目へ

電車を待っている人たちの顔からは

春先に見た新鮮さはなくなり、みんなすっかり日常の顔になっていた

電車が到着する

扉が開いて車両に乗り込む

彼女は今朝もそこにいた

確認して安心した

「帰ってきた」ような気持ちがした

以前抱いていた接触したいという気持ちは

姿を見つけて安心する、というものに変化していた

電車の揺れに合わせて彼女のイヤフォンのコードが揺れるのを見ていた

20歳過ぎてこんなんで幸せ感じてるなんて

ダメだろ おい

今の状況に納得している自分と、打開しようとする自分

肯定と否定と保身の感情が僕の中でゆらゆら揺れていた



久しぶりの早番

出勤すると、みんなにおかえり!と言われた

ただいま、と返した

ここ僕の家ですか、と笑った

開店後、常連さんたちにも

「兄ちゃん、久しぶり!」

と言われた

お久しぶりです、と返した

毎日来ている職場なのに、懐かしい感じがして可笑しかった

上手くやるとか流されるとか

僕からの見方はともかく、

この場所で僕は受け入れられているんだ、と思った

悪い気はしなかった

むしろ心地好かった

この人たちの中に、僕が居ていい場所があるんだ と思ったら嬉しかった


居場所、か

僕という存在を認識されてるってことだよな

しかも覚えててもらって、受け入れられているってことは、歓迎されてるってことで

この人たちの人生の一欠片の中に、僕がいたってことだ

……なんて、少し大袈裟かな

でも考えてみたら凄いことかもな

この世界、星の数ほどいる人の中で、

生涯ですれ違う人は何人いるんだろう

言葉を交わす人は何人いるんだろう

名前を覚える人は何人いるんだろう

僕を好きになってくれる人は、何人いるんだろう





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