神様の居る大須商店街

@dekai3

大須という街は

 愛知県名古屋市と言えば観光名所が殆ど無く、せいぜい名古屋城と熱田神宮と名古屋港水族館と東山動物園ぐらいの物だが(TV塔は本当にオススメ出来ない)、斜陽の時代から蘇った商店街として、大須商店街も観光場所として人気が高い。


 何故ならば、この商店街にはとても可愛い神様が住んでいるからである。




 大須商店街には直近の地下鉄駅が二つある。

 一つは地下鉄鶴舞線の大須観音駅であり、ここは商店街の名前にもなっている大須観音のすぐ側で大須商店街の西の端になる。

 大須観音は毎月18日と28日は境内で骨董市を行っていて、掘出物を求めて日本人だけではなく外国人も多数訪れるという、大須内の有数の観光スポットである。

 骨董市を行っていない日でも参拝客は多く、境内では鳩の餌が100円で販売されている。


 もう一つの地下鉄の駅は地下鉄名城線の上前津駅であり、こちらは大須観音の反対側かつ最南端の南東に位置する場所にある。

 この駅は目印になるような物は無いが、ここから大須商店街に入る時に『ふれあい広場』という場所がある。


 このふれあい広場はちょっとした休憩場所であり、喫煙者のための灰皿、某ゲームの『ここは 1ばんめの「おまえのばしょ」』というセリフが似合う大きな足跡を模したベンチ、そして、巨大な招き猫がある。


 この招き猫はモニターのある台座に座っているのだが、実は後ろにある扉を開けると中は移住空間になっており、ここに件の大須の神様の一柱が住んでいらっしゃる。


 名前はフク、背は小学校高学年ほどで白い癖っ毛、好きな物は李さんの台湾名物屋台の辣醤唐揚げと岩瀬パンの硬パン、お調子者でちょっと持ち上げればノリで言う事を聞いてくれるというチョロい神様だ。


 ちなみに、この情報は大須商店街のホームページである『@大須』という所の『フクちゃん見守り隊』というページに描かれている情報なので、気になったら覗いてみるといいだろう。



 彼女は毎日平日は昼頃に招き猫から出てきて、新天地通、赤門通、大須本通、大須観音通を通って大須観音まで行き、そこから仁王門通、東仁王門通を通ってふれあい広場まで帰ってくるというパトロールを行っている。

 その際、新天地通では台湾の焼き包子で肉まんを貰ったり、赤門通ではお好み焼きの大久保でお好み焼きを貰ったり、大須本通ではコメ兵で光り物を見たり、大須観音通では寶寿司や串カツ佐喜やホットドッグモカや大須ういろ等を日替わりで楽しむ等、商店街の住人から様々な奉納品を貰っている。


 大須観音では上役の神様に街の様子を報告しているので長いこと本殿に篭るのだが、よく境内のハトを追っかけている姿を見る。神様なのに殺生をしてもいいのだろうか。


 帰りは仁王門通でメイド喫茶&バーのメイドと遊んだり、新雀のみたらし団子を食べたり、東仁王門通のオッソブラジルの鶏の丸焼きがオーブンで回っている姿を見てブラジル人に追い払われたり、たまに銭湯の仁王門の湯でくつろいでいる姿が見られる。


 そしてふれあい広場まで帰ってくるのだが、ここで彼女の一日は終わらず、301ビルや万松寺ビルのカードショップで子供や大きいお友達に囲まれてカードゲームを行ったり、アメ横ビルやグッドウィルで電子部品のパーツを漁ったりしてから招き猫へと帰ってくる。


 週末は万松寺ビルの8階にあるルナールカフェというお稲荷様の白狐が経営しているお酒も出す茶屋で朝まで飲んでいたりと、神様ではあるが一般人でもとても親しみやすい神様だ。




 そんなとても可愛らしい彼女だが、15年ほど前の大須商店街が一番廃れていた時は酷いものだった。

 神様と言うのは信仰を基にして現世に光臨するものなのだが、その時は信仰が少なく、まともな姿を保つことが出来なかったのだ。

 しかし、それを悲しんだ我らフクちゃん見守り隊と、多くの大須の住人が団結し、商店街を盛り上げて大須の知名度を上げる事で多くの信仰を得て、今のようにふれあい広場に大きな屋根と金の柱と銀の柱を建てるまでに至った。


 最初は電気街として栄え、ファッション街、オタク街、飲食街と、ごったなジャンルが並列するガラパコスな街となった大須商店街は、いまや名古屋の主な観光場所の一つとなっていて、フクちゃんの人気もいまや鰻登りだ。



 大須にはフクちゃん以外にも、先ほど紹介したルナールカフェの白狐を始めとした様々な神が居るのだが、フクちゃんほど表に出てくる者は居ないので、実質的にフクちゃんが大須の顔である。

 私は、慶長15年に大須に来た新参者なので、フクちゃんを見守る程度だけで十分なのだ。



 是非、皆様もフクちゃんを見に、そしてフクちゃんの住む大須を見るために観光に来て頂きたい。

 一度来れば、必ずやフクちゃんと大須の良さが分かっていただけるだろう。

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