第三掌 能力説明



 さてと。


 リリアスとの話は終わり、一日が経った。

 昨日は召喚やら話し合いやらで疲れもあったし、話し合いの後にはリリアスが嬉々として俺に料理を作ってくれた。

 メチャクチャおいしいとは言えないが、それでも生活する中でしっかりと鍛えられた腕を振るってくれた。


 考えてもみれば、俺がメチャクチャおいしいと思えないのは日本での食事に慣れているからだ。

 あそこまでの高い水準を保つ日本の食事を毎日食べていたのだ。

 見た感じでその日本より低いと思われるこの世界での食事は日本より劣っていて当たり前だ。

 それに作っている人が問題と言う訳ではない。

 日本での料理をこの世界の人が学べばすぐにでも素直においしいと俺は感じるだろう。


 まあ、こんなに言い訳みたいにタラタラと述べているが、要するにこの世界に対して高い水準で舌が肥えている俺にこの世界の住人であるリリアスが作った料理を多少なりとも違和感を感じてはいてもおいしいと感じるのは凄いということだ。


 まあ、昨日の話はいいとして。


 今日はちょっとやっておかないといけないことがあるからな。

 リリアスにはまだ知られたくないし。


「リリアス。すまないがこれから少し用があるんだ。どこか個室を使わしてくれないか?」


「あ、はい。分かりました。こちらです」


 リリアスに案内してもらい、俺が昨日予想していた三畳ほどだろう部屋に入る。

 さっきのリリアスと話していた部屋よりも小さいがまあ、そんなのは泊まらせてもらっている俺が文句を言える立場はない。

 言うつもりもないけどね。


 予想通りに三畳ほどだ。

 恐らく、もとは物置か、誰かの部屋だったのだろう。

 今はほとんど何も置いていない。

 あるのは掃除用具と椅子程度だ。


「じゃあ、用が終わったら出てくるから」


「はい」


 俺はそれで会話を打ち切り、戸を閉める。


「さて、それじゃあ説明してもらおうかな」


 部屋にあった椅子に座り、スマホを取り出す。


「そう言えば、どうやってあいつに掛ければいいんだ?どうすればいいか何も聞いてないけど・・・」


 とりあえず、電話帳を探ってみる。

 すると、ビンゴだったらしく、『かみさま』と表示されている欄が見つかった。

 なんで平仮名なんだよ。


「若干、言いたいことはあるし、イラッとも来るが、とにかく今は確認が先だ」


 さっそく電話を掛ける。

 なんだかんだで緊張はする。

 あんなバカでも神だ。

 そんなトンデモ存在に電話を掛けるんだ。

 普通は緊張くらいするだろ。


 何度かのコールのあと、ようやく電話に出た。


『はい、もしもし。どちらさんで?迷惑電話なら結構ですんで』


「お前、これ魔法的なものじゃなくて普通の携帯電話かよ!」


 迷惑電話の対応が若干慣れてやがった。

 いつから持ってんだよ。

 そしてちょっとでも緊張してた俺の気持ちを返せ!

 緊張してた俺が恥ずかしいわ!


『あれ?いつもと違うな。もしもしー?誰ですかー?』


「タカキだよ。お前が拉致した谷上孝希」


『拉致って言うのははやめろって!』


「こっちも予想外の出来事で余裕はないんだ。変な小芝居はやめろ」


 ちょっと怒気をはらませて言う。


『ご、ごめんなさい』


 俺の怒気に日和っ神はすぐさま謝って来た。


「それより、召喚のことだ。どういうことだ?王宮とかじゃなくて、田舎の隅っこに召喚されたんだけど」


『それは君も予想している通りさ。君を召喚した女の子が召喚中の君を横からかすめ取ったのさ』


「言い方!悪いぞ!」


『ご、ごめん。それはともかく。君にとっては良かったかもね』


「どういうことだ?」


『いや、実は元々の召喚先だった王宮なんだけど、どうも私の依頼とは関係なく、勇者を利用しようと考えていたらしい。いや~、危なかった。危うく君を捕らえられるところだったよ』


「おい」


『な、なに?』


「お前が出した依頼だろうが!きちんと確認ぐらいしろ!仕事を怠るんじゃねえ!」


『ご、ごめんなさいぃぃ』


 おかしい。

 どうして俺はいろいろ聞くために連絡したのにこんなに説教しているんだ?


「まあ、それはいい。今回は置いておく」


『あ。“今回は”なんだ』


「当たり前だ。お前、こっちは命かけてんだぞ!拉致したお前に本当は従う謂れなんてないのに」


『は、はい!本当にごめんなさい!ありがとうございます!』


「まあ、いい。それで聞きたいことだが」


『なんでも言って!』


 罪悪感を感じているのか、反省しているのか。

 まあ、どちらにしろ殊勝なことだ。

 遠慮なく聞くとしよう。


「まずは俺の能力のことだ。教えてくれ」


『ああ。もちろん。そうだね、まずは“オープン”って言ってみて』


「?ああ。“オープン”」


 俺の言葉に連動して目の前に表が現れる。




タカキ・ヤガミ 男


種族 ヒューマン?


レベル 5


HP:115/115(+100)

MP:120/120(+100)


STR:110(+100)

DEF:109(+100)

INT:114(+100)

AGI:131(+100)

MND:1300(+100)


固有:全掌握(下位の把握を偽装として表示できます)


スキル:オール・ブースト

    疑似神眼


魔法:なし


加護:地球神の祝福




「なんだこれ?」


『これが君の今のステータスさ。ちなみに、その世界でのレベル5の平均ステータス値はオール10ね』


「俺が言いたいことはそこじゃねえ」


 そう。

 俺が言いたいのは二つだ。


「地球神の祝福ってなんだよ」


『私の与えられる最上位の加護さ。全能力値+100する』


「無茶苦茶じゃねえか」


『あははっ。それだけ君への依頼が大切ってことさ』


「あと、一番気になってんのはMNDだ。何だよこれ⁉一つだけ桁が違うんだけど!」


 しかも、他のステータスは加護で底上げされただけだから本当は二桁。

 つまり、本来なら一つ桁が違うのではなく、二つ違うということになる。

 どんだけだよ。


『それはさ、私が君に言ったこと、覚えてる?』


「?」


『私が君を選んだ理由さ』


「!あれか!」


『そう。地球でもっとも精神耐性が強いんだよ。君は』


「それでこれか・・・。しかし、数字にしてみると滅茶苦茶じゃねえか」


『それに、この世界では実はMNDっていうのは実はものすごい重要なんだよ?』


「どういうことだ?」


『この世界ではさ。MNDが高いほどステータスの伸びが高いんだよ』


「はあ?」


『簡単に言うと、心の強さが真の強さってやつさ』


「なんだよ。そのゲームみたいな設定・・・」


『しょうがないじゃん!前任の神が作ったルールなんだから!後任の私にはどうしようもないんだよ!』


 涙声で訴えてくる神。

 そこまで必死になんなくてもいいじゃん。

 なんか、ブツブツと前任の神の愚痴を言っているが、声が小さすぎて何を言っているかは分からない。

 とにかく、こんなことで時間を潰すのはバカらしいので話題変換も兼ねて俺は気になっていることを聞く。


「あとさ、この魔法の欄がなしになってんだけど、俺って魔法を覚えられないの?」


 リリアスも大変そうだし。


『いや、それは今のところってことさ。君の固有スキルがあればすぐだよ』


「固有っていうと、この全掌握ってやつか」


『そうそう。それが一番強い概念を持っててさ。固有スキルにすることで何とか渡せたんだ』


「そこまでのものだったのか・・・」


『そこまでのものだったんだよ!すごく大変だったんだから!それで、その能力なんだけど、言葉で言えば簡単。文字通り、全てを掌握できる。掌握できないものはない』


「はい?」


 確かに俺は全てを掌握するスキルを頼んだ。

 でも、掌握できないものがないって・・・。


『まあ、その力は君だけの私特製ハンドメイドだ。使いこなしてくれ。まあ、君が即戦力になるのにはこの全掌握はちょうどよかったよ』


 また、無茶苦茶を言う。

 それに即戦力って・・・。

 まあ、確かにこの神が俺を選んだのは精神力が高いという理由だ。

 戦闘力では選んでいないからな。


『ちなみにだが、君の通常スキルにあるオールブーストだけど、それはステータスの数値には表示されないだけだから。しっかり働いているから気にしないでね』


 これも地味にすごいな。

 つまり、パワーアップしていることをステータスからは分からないってことだろ?


『聞きたいことはこれくらい?』


「ああ。他にも依頼についても色々と聞きたいが、それは俺がここの生活に慣れてからにするよ」


『そっか。りょーかい。また掛けて来てね』


「ああ」


 それで、通話を切る。


 この能力ならなんとかやっていけそうだな。


 自分のステータスを見ながら俺は呟いた。




                ・・・




 タカキが神と話し込んでいる頃、リリアスはテーブルの椅子に座りながらタカキが入った部屋を見つめていた。


「なんだか不思議な感じだな~。こんな辺境で過ごしていた私にこんなすごい出来事が起こるなんて」


 国の中心地に行けば、タブル村という名すら知らない者もいるだろう。

 そんな場所に住んでいるただの村娘だ。


「タカキさんの言う通り、会って間もないの私のあんな唐突なお願いを聞いてくれるなんて優しい人なんだな」


 見た目に少しビビっていたのはリリアス一人だけの秘密だ。

 黒髪なんて見たこともないリリアスには仕方のない話かもしれない。

 村の人間も大体は茶色だ。

 いても精々金髪寄りの茶髪だ。

 それも髪の色素が他の人よりも少し薄いだけである。


「あんな綺麗な黒髪、見たことなかったな」


 自分のことを棚上げして呟くリリアス。

 自分こそ青い髪の癖にと他の村人がリリアスの呟きを聞いたらそう言うことだろう。


「・・・!そうだ!せっかく私の家に泊まってくれるんだもの。おもてなししないと!昨日は家にある残った食材しか振る舞えなかったし」


 そう言ってリリアスは身支度を済ませる。


「森にはおいしい食材がいっぱいあるし、タカキさんの用事が終わるのがいつになるか分からないから急いで取りに行こう」


 そしてリリアスは部屋で何かをしているタカキを気遣い、物音を立てないようにしながら一人で森へと向かうのだった。


 そして、それを物陰からこっそりと見つめる人影があるのをテンションが上がっているリリアスは気付くことが出来なかった。



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