タブル村編

第一掌 宿へ


「っていうか、どこだここ?一体どういうことなんだ?」


 どこかの森としか分からない。

 召喚事故か何かか?

 てっきり王宮にでも召喚されると思っていたのに。

 典型的な勇者になるのも期待しないでもなかったけど、まあ面倒くさそうだしなー。

 これでよかったのかもしれない。

 国を挙げて祀り上げられるのは窮屈だし、何をさせられるか分かったもんじゃないしな。


 しかし、この森も異世界だし、どこか変なモノがあるかもしれないと楽しみ半分、不安半分でいたんだが、まさかの普通の森。

 異世界感何にもないわ。

 まあ、ただの森に何を求めているんだって話だけども。


「あ、あの!」


 俺が思案していると、俺の名前を聞いてきて以降、目の前でボーっとしていた女の子が俺に話しかけてきた。


 年下っぽいけど、可愛いな。

 髪の色にはかなり仰天しているけど。

 まあ、俺のポーカーフェイスで難なく顔に出さない。

 流石は異世界。

 地球だと黒、金、銀、茶、白くらいなのに、いきなり青ですか。

 まあ、白はお年寄りの方々しかないし、銀髪なんて実際は見たこともないけどね。

 髪も特に結ったりせずにそのままストレートにおろしている。


「なんだ?」


「こ、ここはオークス王国の辺境にあるタブル村の近くにある森の中です!私、ここをよく使っていまして―――――――」


 どうやら最初の俺の呟きが聞こえていたようだ。

 丁寧に教えてくれる。

 まだ何かを言おうとしていたが、俺はそれを遮るように言葉を被せる。


「そうか。だが悪い。俺は異世界から召喚されたんだ。この世界のことは一切分からない」


「い、異世界?」


「ああ。この世界のどこでもない。この世界とは異なる世界だ」


「???」


 どうやら話が難しくて理解できないようだ。

 いきなり過ぎたな。

 初対面で服装も村人って感じだし、場所も森の中だし、話してもいいかなと思ったけど。

 異世界人だと言ってどんな反応するのかも見てみたいし。

 ここで何かアクションがあれば対処の方向も分かってくるんだが・・・。

 このリリアスという女の子は意味が分からないと言った感じで首を傾げている。


「まあ、簡単に言うとこの国の常識が何も分からないということだ」


「なるほど!」


 なんか、不安になるな~。

 元気なのはいいことなんだけどね。

 そんなにホイホイ初対面の俺の言葉を信じられるとな~。

 それに村人とはいえ、異世界人と言ってどういう反応が返ってくるかが分かった。

 多分、よく知られてないな。

 国の偉い人たちくらいしか知らないことなのかもしれない。

 下手したら俺を召喚した国が独占しているかもだし。


「だから、色々とこの世界のことを教えて欲しいんだが・・・」


「はい!任せてください!」


 それにしても、なんでこんなに上機嫌なんだ?

 俺の言うことなら何でも聞きますみたいなノリだ。

 実際、俺の言葉に即答で肯定したし。

 それにさっきからニコニコしながら俺を見てくるが・・・。

 テンション高過ぎるだろう。

 俺、何かしたか?

 何もしていないと思うんだか・・・。


「ともかく、俺を君の住む村まで連れて行ってくれないか?とりあえず、拠点になる宿を確保しておきたい」


「それなら私の家を使ってください!」


 俺が考えをリリアスに伝えると間髪入れずに答えてきた。

 なんなの、君?

 女の子が男の子である俺に家に来いって。

 女の子である自覚を持とうよ。

 これが世界間ギャップってやつなのか?

 自分で言ってて意味が分からなくなってきたな。

 なんだよ、世界間ギャップって。


「出来れば宿を紹介して欲しいんだけど・・・」


「そんなっ!私にあなたのお世話をさせてください。お願いします!」


 俺の言葉に涙目になりながら必死になって懇願するリリアス。

 そこまで必死にならなくてもいいじゃん。

 逃げるわけじゃないんだし。

 メチャクチャ悪いことしている気分になるじゃん。

 罪悪感ハンパないよ。


「私の家、私だけなので気にしなくてもいいです!ぜひ私の家を拠点にしてください」


「いや、そんな悲しいことを必死の説得に使わないでよ・・・。こっちまで気を使っちゃうよ」


 遠回しに家族いませんって言っているようなものだぞ、それ。

 俺の中でこの娘の印象は健気な娘で固まってきたよ。

 可愛いのになんでこんなに無頓着なんだろうか?

 この子の今後が心配になって来た。

 さっき会ったばっかりなのに。


「ご、ごめんなさい・・・」


「謝んなよ。・・・・・うん。分かった。世話になろう」


 ここまで必死になっている女の子を前に断れないわ。

 断ったら悪者まっしぐらだわ。

 まあ、断らなくても世間から見たら悪者だろうけどな。


「あ、ありがとうっ!」


 今にも泣きそうだったリリアスがパァっと笑顔になった。

 女の子の笑顔にはグッとくるね。

 この選択して良かった。


「そもそも、うちの村には宿なんてないから誰かの家に泊まるしかなかったんだけど・・・」


 ボソッと呟くリリアス。


「おい」


 そういう大事なことは先に言え、先に。

 結局、俺に選択の余地はなかったんじゃねえか。


「えへへっ。行きましょう、タカキさん」


「はぁ、仕方ないな」


 さて、色々と問題はあるが、とにかくこの世界の人間とのファーストコンタクトは無事終了した。


 いい娘っぽいし、ファーストコンタクトがこの娘で良かった。

 悪人や変な奴とかだったらどうなっていたか。

 まだ力を把握していないからどうなるのかも分からないし、召喚された瞬間に戦闘とかはマジで勘弁だわ。

 リリアス最高。


 リリアスを心の中で褒めるのはここまでにしてっと。

 とにかく、落ち着ける場所に早く行ってあのバカにこの事故のことについてしっかりと聞かないとな。(神のことです)


「それはともかく、リリアス」


「はい?」


「お前、さっきからスカート捲れてパンツ見えてんだけど」


「さ、ささささ先にいいいいい言ってくださいよ!」


 そう言って慌てて捲れていたスカートを直す。


 実はずっと捲れていたんだが、言う機会がなかった。

 やっと言えたよ。

 顔も熱い。

 恐らく俺の顔も真っ赤になっていることだろう。

 見た感じ年下の娘とは言え、歳の近い娘のスカート見たの初めてだったわ。


 色々と抜けている子だな。

 この子は天然と言う認識でいこう。


 色んな人に色んなことを言いたいが、ともかくだ。

 俺はこの世界での第一歩を踏み出した。

 余談だが、俺の異世界での最初の知識は「この世界でもスカートとパンツあるんだ・・・」というものだったが、このことを語ることは今後ないだろう。


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