小さな約束


 きみはネコが好きで、僕はイヌが好きだ。

 きみは甘いものが好きで、僕は辛いものが好きだ。

 数え上げれば数えきれない程、僕ときみは違うとこだらけだ。


 きみは色んなことにいつも悩んでいて、僕は空を見上げて頭を空っぽにしてる。

 きみが僕のために何かするのは当たり前で、僕は僕のために何かする。

 でも、知ってるかな?

 年下の彼氏が好きなきみと、年上のきみを好きな僕。

 ほら、ちょっとだけ、ボタンを掛け違えているよね。

 きみは僕が好きなのかな。それとも「年下の彼氏」っていう役割の僕が好きなのかな。

 どっちの方が、好きなんだろう。


 きみはちゃんと見てよと言った。

 僕はもっと言葉にしてよと言った。

 きみは声をあげて泣いた。

 僕は空っぽの頭で、ただ煙草を吸った。


 きみは話し合おうと言った。

 僕も話し合おうと言った。

 きみはどれだけ僕が好きなのかを語った。

 僕はその言葉を信じる根拠について考えた。


 信じられないのは、信じていないから。


 僕はいつも、信じる代わりに、冗談を言った。

 きみはいつも、笑ったり傷ついたりで、イヌのように、愛おしかった。


 大好きな人に、愛おしいと言って欲しかった。

 恋人だから好きなんじゃなくて、ただ愛おしいと言って欲しかった。

 本当はただ、それだけの、小さな約束。


 きみは言った。

「年下の彼氏の僕くんよりも、ただの僕くんが好きだよ。そして、僕くんは『年上の彼女』が好きなだけだと思ってた」

「僕はきみが好きだ」

「根拠はある?」

「ない、と思う」

「大正解」


 きみは僕が好きで、僕はきみが好きだ。

 確かめられないから、人は人を好きになるのだろう。

 僕はきみの後頭部にキスをした。

 きみは一瞬だけ、考えるのをやめた。

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